第22話
♤
「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」
「は、はい」
暁に到着した。
長く続く商店街の中央あたりにある一際目立つ大きく重厚な扉をあけたその先は、寂れた商店街の中とは思えないほど明るく華やかだ。
出迎えてくれたのは大学生くらいの綺麗なお姉さん。
シャツにベストを羽織って、まるでカジノのスタッフのようなその女性に案内されて奥のテーブル席へ。
「お決まりになりましたら声をかけてくださいね」
女性はメニューをテーブルに置いて持ち場へ戻っていった。
まだ時間が早いためか店の中は閑散としている。
テーブル席が五つほど、あとは奥に団体用の席が一つ。
広さこそうちと大差ないが、床一面に赤い絨毯が敷き詰められていて、天井にはシャンデリアと、うちとは大違いなほどに豪勢だ。
「な、なんかすごいとこだな」
「そ、そうだね。上山君は何にする?」
「俺は……このパスタセットでいいかな」
メニュー表を見ると、確かにお手頃な値段のものもある。
しかし一枚ページを捲ると高級なステーキやコース料理のメニューが並んでいて、俺は静かにページを戻した。
なんか場違いなとこに来てしまった気がする。
どこが手頃で気軽に使える店だよ。
ほんと拓真の感覚わかんねえな。
「……私も同じのにする」
「じゃあ店員さん呼ぼっか」
「わ、私が伝えてくる」
「え、なんで? 呼んだらいいじゃんか」
「あ、あの人忙しそうだし。め、迷惑かけたらいけないから。手も洗いたいし、ついでに」
「そ、そう? ならお願いしていい?」
「うん。上山君は席にいて」
冬咲は席を立って出入り口の方へ行ってしまった。
案外、気を遣ってしまうタイプなのかな冬咲って。
だとしたらこの店は少しかしこまりすぎたかもしれない。
はあ、このあと上手く喋れるかな。
♡
「あ、あの」
私は、さっきの店員さんのところへ行くとすぐに声をかけた。
「ん、どうしました? 注文ならお席で」
「わ、私の上山君を惑わさないで!」
勇気を振り絞って言ってやった。
上山君ったら、しきりに店員さんを呼ぼうとするんだもん。
確かにこの人綺麗だし、大人の魅力ってのもわかるけど、私とデートしてる時に他の女の人を席に呼ぼうなんてそんなこと、私がさせないもん。
この人もこの人だ。
優しい声色で上山君をたぶらかしてる。
「上山? 一緒に来てた男の子のこと?」
「そ、そうです。い、今大事なとこなの。邪魔しないで」
「……ぷっ」
「な、なんで笑うんですか? 私は真剣に」
「や、辞めて苦しい……ぷぷっ、こんな子が実在したんだ、ふふふっ」
怒る私を見て、なぜかお姉さんは笑う。
バカにされてる? 私がちんちくりんだから眼中にもないってこと?
「あ、あの」
「ごめんごめん、ついおかしくて。よっぽどその子のこと好きなのね君って」
「あ、当たり前です。好きでもない人とご飯なんて行きません」
「で、私がその好きな人に色目を使ってたと」
「……違うんですか?」
「あはは、違うに決まってるでしょ。それに、普通にあなたたちお似合いよ? 彼氏さんじゃないの?」
「こ、これからです」
「あー、純粋だねえ。でも、それならこんなとこでコソコソ話してたら彼に不審に思われるわよ?」
「え、そ、そうなの?」
「だから早く席に戻ってゆっくりお話してきなさい。せっかくのデートなんでしょ?」
「は、はい」
「ところで、君の名前は?」
「ふ、冬咲です」
「冬咲……あー、そういう」
「?」
「いや、なんでも。とにかく頑張って。お姉さん、応援してるから」
「は、はい」
なんだか、とてもいい人そうだ。
いや、それでも私は心の片隅で、この優しさは上山君にうまく近づくための罠かもしれないと警戒もした。
だけど敵意剥き出しの私に対して全く敵対心を持たないどころか、仏のような優しい目で私を見つめるお姉さんに諭されるとそれ以上疑う気にはなれず。
私は注文だけ伝えて、頭を下げてから席に戻った。
ほんと、やらかしてる。
綺麗な女の人を見るとみんなに嫉妬してしまう。
私の好きな人を奪っていくんじゃないかって、不安になってしまう。
どうにか、しないとなあ。
☆???☆
「あ、もしもしいちご? そ、今あんたの妹が店来てるのよ。あはは、噂に違わずすごい子ね。でも、可愛い子じゃない。今? なんか彼氏と来てる。え、そうなの? うん、わかった。んじゃまた明日ね」
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