第53話

「冬咲、お待たせ」


 日曜日。

 上山君と付き合って初めての休日デートだ。


 ちなみに前日の土曜日も会いたかったんだけど、その日はうちの両親が田舎のおばあちゃん家に行くと急に言い出したせいで帰るのが夜中になってしまって、結局上山君に会えなかった。


 もちろんおばあちゃんも好きだから久しぶりに会えたのは嬉しかったんだけど。


 一日、上山君に会えなかったストレスが半端なくて私は今朝からずっと会いたい気持ちが爆発しそうだった。


 で、昼からの約束を朝からに変更してもらって私の家まで上山君が迎えにきてくれた。


「上山君……」

「ん? どうしたの? 顔が赤いけど」

「な、なんでもないもん。ええと、お出かけしよっか」

「そうだね」

「む、無理言ってごめんなさい」

「全然。朝からどっか行くなんて新鮮だし。それに、俺も、ええと、冬咲に早く会いたかったからさ」


 そう言って照れる上山君を見て、私は思わずその手を握ってしまう。


「私も。えへへ、会いたかった」


 ファミレスで大泣きしたあの日以来、私はすっかり甘えん坊になった。

 上山君なら、どんな私でも受け入れてくれるんだって思うと、ついつい甘えてしまう。


 もちろんそんな私に、優しく「俺もだよ」と言ってくれる彼のことが日に日に好きになる。


 朝からラブラブモード全開で、駅前へ向かった。



「おや? 雪乃、なにしてるんだ?」

「あ、いちご……」


 腕を組んでイチャイチャしているところに水をさしたのは私の実姉、いちご。


 ほんといつも邪魔しかしない。

 いちごは私の保護者気取りなんだろうけど、友達と楽しくおしゃべりしてても一人で買い物しててもなぜかばったりと鉢合わせして何をしているかあれこれ聞かれる。

 

 そんで最後には「早く帰って勉強しなさい」と私を連れ帰る。

 でも、今日はそんなの許さないから。


「ふんだ」

「なんだ雪乃、喧嘩でもしたのか?」

「違うもん、仲良しだから。ねっ、上山君」

「う、うん」


 どうやらいちごは上山君を狙っているようなのだ。

 だから私は彼女の前で上山君との仲の良さを見せつけてやろうと強く腕を組む。


「ほら、デートしてるから」

「はは、仲良さそうなら何よりだ。なるべく早く帰るんだぞ雪乃」

「う、うん? わかったわよ」


 なんだか物分かりがよくて拍子抜けた私の方にいちごがゆっくり歩いてくる。


 そして、通り過ぎ様に。


 私の耳元でこそっと一言。


「今日は両親も私も家を空けてるからな」


 そのまま、いちごは去っていった。


 そして、いちごが言ったことの意味がこの時にはわからないまま。

 私と上山君は駅前のカフェに向かった。

 

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