第52話


「ねえさくら、もうすぐ帰る?」

「まだ注文したもの来てないでしょバカ」

「あうう」


 さくらと上山君と三人でファミレスに来た。

 でも、さくらがいると素の私が出てしまいそうで怖い。

 だからやっぱりご退場願おうと、上山君が飲み物を取りに行っている間に聞いてみたけど帰る気配はない。


「ほら、雪乃も私に気を遣わずにイチャイチャしていいのよ」

「し、しないもん。それに、私の本性がバレたらヤダし」

「本性?」

「わ、私って、ちょっと束縛願望強めだし。それに、変な妄想癖も」

「なによそれ。いつまでも自分騙して付き合うつもり? そんなの続くわけないわよ。さっさと自分はこういう人間だって曝け出した方が楽よ?」

「……それで嫌われたら?」

「その時は縁がなかったって諦めるだけよ」

「そ、そんなの無理!」

「でも、一生嘘ついて生きていくの? もちろん雪乃に変わる気があるならそれはそれだけど、無理でしょ?」

「……うん」

「だったら早い方がいいわよ。それに、上山君は優しいから受け入れてくれるんじゃない? 好きな人のことくらい、信じてみなよ」


 さくらがいつになく真剣な眼差しで私を見る。

 その目を見て、このままではいけないということだけは理解した。


「ごめんお待たせ」


 だけどまだ何も決意が固まらないうちに上山君が戻ってきて私の隣に座る。

 ただ隣にいるだけなのに、私の緊張はひどくなるばかり。


 こんな時だって私は、お店の女性店員さんに勝手にヤキモチ妬いてイライラしている。

 親友のさくらにさえ、嫉妬している。

 上山君のことなんか、信用できていない。

 ダメダメだ。


「……」

「冬咲、どうしたの?」

「な、なんでもない」


 せっかく楽しい時間なのに。

 いつもこうやって自分からダメにしていく私なんかと一緒にいても楽しくないんじゃないか。


 うじうじと、そんなことばかり考えてると。

 隣にいる上山君がそっと私の手を、テーブルの下で握ってくれた。


「冬咲、俺は冬咲が好きなんだ。でも、不安にさせることがあったらなんでも言ってくれよな。頑張るから」


 そんな言葉に、私は思わず目を丸くした。

 そして、横を見ると優しい上山君の笑顔がそこにある。


 自然と、その顔が涙で滲む。


「ふ、冬咲?」

「ぐ、ぐすっ。う、うえ、うえーん!」

「ど、どうしたんだ? お、おい」


 嬉しすぎて号泣してしまった。

 そんな私を見て慌てる上山君とは違って、私の向かいに座るさくらは「あはは、雪乃泣いちゃったー」と大笑いしていた。


 私の不安も、彼なら包み込んでくれる。

 そんなことを実感しながら私は、それでもしばらくの間涙が止まらなかった。

 

 


 

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