第8話


「さくらー、私死ぬ」

「はいはい、今週五回目の死ぬいただきました。雪乃、上山君と喧嘩でもしたの?」

「……彼の家で寝てた」

「え、家言ったの? ていうか寝たって一緒に?」

「だったらよかったんだけど……」


 帰ってすぐ、親友のさくらに電話を入れた。

 クラスメイトであり、中学からずっと私の理解者である富永さくら。

 さくらはサバサバしてて私とは真逆な性格だけど、だからなのか私たちはずっと仲良し……の、つもり。


「さくら、私のこと面倒くさいって思ってる?」

「思ってるけど?」

「……嫌い?」

「嫌いなら夜にあんたの電話に出ないでしょ。ほら、ネガティブでてるわよ」

「だって」

「まあ、事情はわかったわよ。でも、上山君があんたのこと大事にしてくれてるとは考えないわけ?」

「大事に……そうなの?」

「そりゃそうよ。それとも、無防備に寝てる女の子を襲うような男が好きなの?」

「上山君はそんな人じゃないもん!」

「だったらいいじゃん。それよりいきなり逃げるように帰ったとか、それこそ彼も気にしてるんじゃないの? ちゃんと連絡して謝りなさい」

「連絡先知らないもん」

「なんか色々すっ飛ばしてるわねー。んー、まだ八時だし今からファミレス行く?」

「……いく」

「じゃあ十五分後にいつものとこね。またあとで」


 さくらと会う時はいつもこう。

 急に私が電話して、電話だけでは終わらなくなって結局会おうとなって、急に待ち合わせする。


 私は急いで着替えてから外へ。


 暗い夜道をトボトボ歩きながら私は、緊張する。

 さくらに何から話そう。

 ていうか、一通り聞いてもらってやっぱり上山君とは無理そうだなんて言われたらどうしよう。


 そんなことで悩んでいると、明かりが見えた。

 ファミレスの前には、先にさくらが着いていた。

 ギャルな彼女はスタイルが抜群によくて、黒と灰色の地味なジャージでも目立つ。

 美人だし明るいし、ほんとモテるんだよねえ。


 絶対上山君には近づけさせないもんね。


「おすー、お疲れ雪乃。相変わらず険しい顔してるわね」

「そういうさくらはなんか楽しそう」

「いやー、人の恋バナとか超楽しいじゃん。ほら、早く入ろ入ろ」


 何を話せばいいか悩みながら来た私の気持ちなんか知ったこっちゃないと言わんばかりにウキウキした様子でさくらは先に店の中へ。


 私もゆっくりとついていく。


 案内されたのは奥のテーブル席。

 いつものようにドリンクバーだけ頼んで、ジュースを持って席へ着く。


「で、上山君に明日からどうやって接するつもり?」


 着席するとすぐにさくらから質問。


「……今日、ちゃんと謝るもん」

「どーやって? もう夜だし、今から家におしかけたらそれこそ迷惑でしょ」

「なんで迷惑なの? 上山君がそう言ってたの? まさかさくら」

「何がまさかよ。そのフォークをとりあえず置きなさい」

「……さくらは、上山君と話したことあるの?」

「なんで急に私に嫉妬するのよ。話したことないって。ていうか私が上山君の近く通るだけでいつもあんた睨んでくるでしょ」

「……だってさくらは可愛いから」

「あんたが言うと嫌味だわー。ま、とりあえず彼の家に行くのは明日よ明日」

「え、ダメなの? こっそり窓から忍び込めば家族にもバレないのに」

「本人がドン引きするわ。しゃーないわねえ、ちょっと待ってなさい」


 さくらはどこかへ電話をかけ始めた。

 そしてすぐに繋がったようで、電話の先の誰かと話しはじめる。


「あ、斎藤? あんた上山君と仲良いわよね。え、私じゃないわよバカ。いいから連絡先送っといて。え、送り方がわからない? まじ脳筋ね。じゃあ学校裏のファミレスいるからすぐ来て。ん、じゃあね」


 早口で電話を終えると、すぐに私の方を見ながら「ま、一石二鳥か」と。


「一石二鳥?」

「サッカー部の斎藤、知ってるでしょ? ほら、上山君と仲良いじゃんあいつ」

「う、うん。斎藤君を呼んだの?」

「そ。連絡先送ってくれたらそれでよかったんだけどあいつ昔っからスポーツバカだからさ。送り方わかんないとか言うもんだから呼びつけた」


 呆れるように笑うさくらは、それでもどこか嬉しそう。

 もしかして……


「さくら、もしかして斎藤君と付き合ってる?」

「は? んなわけないでしょ」

「でも、仲良さそうだし、それに昔から知ってるって」

「小学校の時まではあいつと家が近所だったからよく遊んでたってだけよ。中学は別校区になったし、また高校で再会したのもただの偶然。あんたが思うような関係じゃないわよ」

「そう、なの?」

「そうなの。ていうか今は人の心配してないで自分のこと心配しなさい。ほんと、なんで私があいつとなんか」


 とか言いながら、頬を赤くするさくら。

 可愛い。

 普段サバサバしてる美人ギャルが照れるとここまで可愛いんだ。

 なるほど、これがツンデレってやつかあ。

 いいなあ、こんなに綺麗で明るくてツンデレとか、反則でしょこの子。


「いいなあさくらは」

「何の話よいきなり。あ、斎藤が来たわよ」


 おーい、とさくらが手を振る先を見ると、ジャージ姿にキャップを被った斎藤君がこっちに手を振っていた。


「おう富永」

「おすー。ま、座りなよ」


 さくらの照れる様子をもっと見れるかと思ったけど、さっきまでのもじもじした彼女はもうどこにもいなくて、普段通りのさくらに戻った。

 なんでそんなに平気なんだろう。

 隣に好きな人が座ってるのに。


「あれ、冬咲?」

「……どうも」

「ん、もしかして悠太の連絡先って……あー、まじかそういうことか。へー」


 さくらの隣に座りながらニヤニヤする斎藤君は、さくらと目を合わせてから頷いて。


 緊張する私の方を二人が見てくる。

 そして声を揃えて言った。


「今からあいつ、呼ぼっか」


 


 


 

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