第18話

「お、おはよ。べ、別に楽しみになんかしてないんだからね」

「いや、急にどしたのよ雪乃」

「あ、さくらだった……お、おはよ」


 早朝から迎えにきてくれたさくらに、舞い上がっていた私は間違えてツンデレキャラをぶつけてしまったところから長い一日が始まる。


 今日は休日。

 先週の土曜日のことは思い出したくもない。

 早朝からずっと徘徊。

 そして上山君に会うことも叶わず。

 疲れ果ててうなされながら眠りについた先週の苦い一日はもう過去のこと。


 今日は晴れやかな朝だ。


「雪乃、まずどこ行く? 朝早いしカフェでお茶でもしながら計画する?」

「……上山君の家、行きたい」

「は? 夕方会うんでしょ?」

「そ、それは」


 毎朝、私が彼の家に迎えに行くのにはちゃんと理由がある。

 朝、別の女の子が彼の家から出てこないかをチェックするためである。


 もちろん休日でもそのルーティンは変わらない。

 むしろ週末こそ要チェックなわけである。


「というわけなの」

「……ファミレス行くわよ雪乃」

「な、なんで? さくら、ちゃんと聞いてた?」

「聞いてたからこそよ。なにそのストーカーメンヘラ女は。見つかったら嫌われるわよ」

「で、でも」

「上山君はそんなチャラ男じゃないわよ」

「な、なんでさくらがそんなこと知ってるの? もしかして」

「もしかしない。好きな相手のことくらい信じてやりなさいよ」

「……うん」


 諭されて、私は我慢することにした。

 ムズムズしながらも、さくらに連れられていつものファミレスへ。


 休日とあって、朝から学生で賑わっている。

 見たことある人たちの姿もある。

 なんかこっち見てる。

 

「ねえ、さくらの方見てる人多くない?」

「あんたよバカ」

「私? な、なんか変な格好してるのかな」

「ほんと、自己評価低いわね。ま、いいけど。とりあえず座りましょ」


 ドリンクバーを頼んで、私はココアを注いだ。

 さくらは大人なのでコーヒー。

 こういうとこも憧れる。


「ふう。で、今日の買い物だけど、雪乃予算いくら?」

「よ、予算? ええと」


 財布を取り出して中を見た。

 すると、小銭がじゃらじゃら。

 お札はない。


「こんだけ」

「アホなの? 今時五百円で服買えないわよ」

「だ、だって最近上山君のご両親の店に毎日通ってたらお金が……」

「あんたって貢ぐタイプなのね……ほんと上山君が真面目そうな人でよかったわ」

「さ、さくらどうしよう、オシャレして上山君に会いたいのに」

「んー、今日は私が貸してあげるから。とりあえずここで時間潰して昼前に買い物して着替えてから彼の店にゴーね」

「さくらありがと。やっぱり優しい」

「もう、それくらいいいわよ」

「上山君ほどじゃないけど好き」

「余計な一言いらんわ」


 というわけで今日の予定が決まった。

 外もすっかり日が照ってきた。

 ワクワクする気持ちを抑えながらココアを飲んでいると、誰かが私たちの席に近づいてくる。

 

「お、さくら。それに冬咲も。今日も一緒かよ」

「斎藤? なによあんた、部活は?」

「今日はオフだよ。ここんとこ試合続きだったから」

「ふーん、それで優雅に朝からファミレスってわけ。でも、一人なの?」

「なんだよ、寂しいやつとでもいいたいのか?」

「別に。あんたって昔から人気者っぽいくせに友達少ないもんね」

「土日は悠太が忙しいからしゃーないんだよ。で、これから何すんの?」

「雪乃と買い物。ついてこないでよ、女子トークの邪魔だから」

「はいはい、んじゃまたな」


 斎藤君とさくらは、二人ともどことなくツンケンした様子だった。


 で、斎藤君が店から出ていくのを確認すると、さくらはコーヒーをグッと飲み干してからため息を吐く。


「はあ……なんであいつの前だとあーなるんだろ」

「さくら、ツンデレ」

「どこにデレがあるのよ」

「斎藤君が一人だって聞いた時嬉しそうだったよ?」

「き、気のせいよ! あいつが誰と何してようが私はどうでもいいもん」


 顔を真っ赤にしながら怒るさくらを見ていると、なんともわかりやすくて可愛い。

 これがツンデレかあ。

 私もこんな風になりたいなあ。


「さくら、可愛いなあ」

「どこがよ。ほら、変なこと言ってないで買い物いくよ」

「はーい」


 ツンデレなさくらに癒された私は、ココアを飲み干してから一緒に席を立つ。

 なけなしの小銭を出そうとすると、「今日は貸しといてあげる」とさくらがお会計してくれた。


 そして向かったのは近くのショッピングモール。

 ブランドものから安いものまでここで一通り揃うと、さくらに案内されながら店を見て回ることに。


 広い店内、高い天井に私はキョロキョロ。


 店頭に並ぶオシャレな服は、どれもスタイル抜群なマネキンさんが着ている。

 私、そんなにスタイル良くないのになあ。


「ほら、あれとかどう? 雪乃にピッタリ合うわよ」

「そう? 派手じゃないかな? それに、肩が出てる」

「ちょっとくらい露出ないとアピールにならないでしょ」

「え、えっちな女の子だと思われるかも」

「子供欲しいって言ってるやつが言うかねそれ」

「こ、子供は欲しいもん」

「ほんとよくわかんないわ病んでる子って。ま、とりあえず試着しよ」


 このあと、私はさくらの着せ替え人形だった。

 次々とお店を連れ回され、さくらが私に着せたい服を着せて、私はその度に恥ずかしくて死にそうで。


 ようやく五軒目で一着ワンピースを購入。

 その頃には私はもうクタクタだった。


「づがれだ……」

「あはは、ごめん雪乃。あんたが可愛いからついはしゃいじゃった」

「のどがわいだ」

「はいはい。それなら、せっかくだし上山君のとこでランチする? さっきのワンピース、タグ切ってもらって着ていけばいいし」

「か、上山君のとこに行ってもいいの?」

「嬉しそうね。ほんと、その顔を上山君に見せてあげたらイチコロなのに」

「?」

「はいはい、行くわよ。さっきの店で着替えさせてもらおっか」


 ということで上山君のご両親のカフェに行くこととなった私は買ったばかりの白いワンピースに着替えてスタンバイOK。


 さくらが選んでくれた勝負服。

 可愛い。

 でも、なんかこれ着るのもったいない。


 今日、汚しちゃったらどうしよう。


 


 

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