第17話
♡
「あ。明日お休みだ」
パスタを食べ終えてスマホを開いて気づく。
明日は魔の週末だ。
普通休みだと嬉しいものだし、私も以前は週末が楽しみで仕方なかったのだけど今はそうじゃない。
上山君に会えない。
先週の土曜日なんて、偶然会えることを願って日中ずっと彼の家の周りをぐるぐる徘徊していた。
で、疲れて日曜日は夕方まで爆睡してたけど。
とにかくあんな週末は嫌だ。
上山君がどこで誰と何してるかずっと考えながらモヤモヤするだけの時間なんて嫌だ。
お店の手伝いしてるとは聞いてたけど。
流石に上山君が働いてる時に一人でお店に行って寂しいやつだと思われたら辛いし。
さくらでも誘って遊びに……ううん、さくらのおもちゃにされちゃうだけだもん。
それにさくらは可愛いから上山君と不必要に近づけたくないし。
西宮先生とかは……いや、週末に保健室の先生とお茶してるとか、どんだけ寂しいやつなんだって思われちゃう。
んー、思い切って仕事終わりにご飯でも……あうあう、言えない。
デートに誘おうと考えただけで口の中がカラカラだ。
でも、もう時間稼ぎも無理。
お腹いっぱいで飲み物もいらない。
上山君が戻ってきて片付けが終わったら帰らないといけない。
どうしよう。
あ、戻ってきた。
「冬咲、食べ終わった?」
「あ、うん。ご馳走様」
「じゃあ片付けしてくるから、暗くなる前に帰ろっか」
「……うん」
まだ帰りたくない。
でも、お店もぼちぼち片付けムードになってきたし、外も薄暗くなってきている。
いて欲しいと言われたらいつまででもここにいるのに。
帰ろうって言われたら、帰るしかないもんね。
はあ。楽しい時間はあっという間。
早く明日に……あ、明日になったら上山君に会えないんだった!
「……絶対、明日遊ぶ約束する」
私はひっそりと決意を固める。
どうやって誘うかはまだ考えてないけど。
とりあえず、明日会えるかどうか。
それだけでもちゃんと……ううん、違う。
明日、会えないと死んじゃうから。
ちゃんと、伝えないと。
♤
「じゃあ母さん、送ってくるよ」
俺と冬咲は先に店を出た。
外は日が暮れて暗くなっていて、少し肌寒い。
「冬咲、長い時間付き合わせてごめん。それに急だったけど家の晩御飯とか大丈夫だった?」
「だいじょぶ。今日は親、仕事で遅い日だし」
「そっか。そういえば、この前いたお姉さん? 仲良いの?」
「う、うん。いちご……お姉ちゃんとはまあ、それなりかな」
「でも兄弟がいるのは羨ましいな。俺は一人っ子だから」
両親はいつも仕事で忙しくて、いつも部屋で一人黙々と過ごす俺にとっては、こうして誰かといつも一緒というのは初めての経験だ。
だからというわけではないけど、やっぱり冬咲と一緒にいる時間は、今の俺にとってはとても貴重というか新鮮というか。
でも。明日は休みだ。
店の手伝いこそあるけど、それ以外はまた一人ぼっち。
拓真もなんだかんだと部活で忙しくて遊ぶのはたまのことだし。
冬咲は、休みの日は何してるんだろ。
それこそ、誰かと遊びに行ったりしてるのかな。
「あの、明日は休みだな」
「そ、だね」
「ええと、富永さんとかと遊びに行ったりするの?」
「……さくらが気になるの?」
「え? 違う違う、仲いいから休みの日は会ったりしてるのかなって」
「さくら、塾で忙しいから。会うのはいつも夜」
「そ、そっか。日中はそれこそゲームとか?」 「……いつも暇してる」
「そ、そう」
また、少し不機嫌そうになる冬咲を見るとうまく誘える自信がなくなる。
明日、時間が合えばご飯でもどうかと誘いたいのに。
いや、別に買い物でもなんでもいいんだ。
……断られたらって思うと胸が苦しいけど。
ダメ元だ。
「なあ、明日暇なら飯でも、どうかな?」
「行く」
「え?」
「……行く」
「い、いいの?」
「うん。ご馳走になったし、それに、明日はまた家に誰もいないし。お昼? 夜?」
「ええと、昼は店の手伝いあるから夕方が嬉しいかも。ほ、ほんとにいいの?」
「来たら困るの?」
「そ、そんなわけないじゃんか。じゃあ、明日仕事終わったら連絡していいかな?」
「……いいよ」
思わぬ快諾に心躍りながらもテンパっていると、俺の家の前に着いてしまった。
「……家、着いたね」
「そ、そうだな。冬咲、こっから一人で帰れる?」
「だいじょぶ。じゃあ、また明日」
「う、うん。また明日」
いつもの如く冷静な態度のまま、冬咲は小さく俺に手を振った。
そんな彼女とは対照的に、舞い上がってしまっている俺はそれを悟られまいと急いで家に逃げ込んで。
玄関の内側に入ると、すぐに胸に手を当てる。
「明日、冬咲とデートできるってこと、だよな?」
まだ実感が湧かない。
でも、確かにOKをもらえた、はず。
「……明日、ラインしてみるか」
火照る顔を少し冷えた手で冷ましながら。
俺はゆっくり部屋に向かった。
♡
「……さ、誘われちゃった。どど、どうしようデート誘われた」
「はいはい、だからって夜にいちいち私を呼ばないで」
「だ、だって暗くて一人で帰るの怖かったんだもん」
「だったら上山君に送ってもらいなさいよ」
「お、おうちバレる」
「はあ。付き合ったらどうするつもりよそれ」
上山君が家に戻ってすぐ。
私はこの喜びと興奮を早く誰かに伝えたくてさくらに電話して。
舞い上がっていて気づかなかったけど、よく見ると外はすっかり暗くて。
怖くてついでに迎えにきてもらった。
「ね、ねえ下着とかちゃんとした方がいいんだよね?」
「展開早すぎでしょ。下着よりまず服は? いつもみたいに制服ってわけにはいかないのよ」
「あうう、私服……」
「私服ダサいもんね雪乃。そうだ、会うの夕方からだし午前中に服買いに行こっか。選んであげるから」
「う、うん。さくら、やっぱり優し……も、もしかしてさくらもおしゃれして上山君に会うつもり? だ、ダメ。さくらは上山君と会っちゃだめ」
「クラスメイトだからどのみち学校で毎日会ってるでしょ」
「だ、だって」
「だってもなにもあるか。バカ言ってないで明日のこと考えるわよ。まずは明日の目標設定からね」
「目標設定?」
「そ。ただデート楽しかったで終わるのもいいけど、進展させないと意味ないでしょ。明日のゴールはどこかってことよ。手繋ぐとこまでとか、二人でプリクラ撮るとか、それによってプラン変わるでしょ」
「……子供ほしい」
「却下。はい、次」
「か、彼の着てる服ほしい」
「んー、却下。もっと軽いの」
「……じゃあ、役所で」
「あーもう言おうとすること読めたから却下。明日はとりあえず手繋ぐくらいまで頑張りなさい」
「う、うん」
なんて話していたら、私の家が見えてきた。
ちなみにさくらの家もすぐ隣。
「さくら、ありがと。明日はよろしく」
「まあ、私もちょうど服買いたかったからついでだし」
「もしかして、さくらも明日斎藤君とデート?」
「は、はあ? 何言ってんのよそんなわけないでしょ! へんな詮索する前に自分のこと考えなさいよ」
なぜか顔を赤くしながら慌てふためくさくらを見ると、図星なんだと理解した。
可愛い。
こういうわかりやすいツンデレさんの方が、やっぱり可愛い。
「じゃあまた明日」
「うん、おやすみ」
私はしずかに家に戻る。
そして胸の中で決意を固める
明日は、さくらみたいにツンデレさんで行ってみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます