第19話
♤
「おす、悠太」
「拓真? 今日部活は休み?」
「そゆこと。ていうわけでパスタなんか作ってくれよ」
「あいよ」
店で開店作業を手伝っていると拓真がやってきた。
土日にくるのは珍しいけど、来たらいつも決まって俺に何か作らせる。
まあ、練習になるからいいんだが。
「さてと、いつものにするか」
カルボナーラをさっさと作って拓真の元へ。
昨日、冬咲にも作ったおかげが今日は手際よくいつもより早く完成した。
「ほい、お待たせ」
「お、ウマそう。それに早くなったな悠太。もう店で出せるんじゃね?」
「いや、まだまだ。でも昨日、冬咲に食べてもらったんだよ」
「冬咲が来たのか? 客で?」
「んー、いつもはお客さんで来るみたいなんだけど昨日はまあ、俺の用事に付き合ってもらってて」
「ふーん。で、付き合ったのか?」
「な、なんでそうなるんだよ」
「あー、まだそーいう感じか。ま、悠太だもんなあ」
「どーいうことだよ」
「ん、んまい。腕上げたな」
「……どうも」
含みのある笑いを浮かべながらパスタを食べて頷く拓真にモヤモヤしながら、俺はまた店の準備に移る。
ほんと、うちの親といい友人といい、みんな俺が女の子とちょっと仲良くしてるだけで変な勘違いばっかしやがる。
いや、勘違いっていうのもちょっと違って、俺は俺で冬咲のことを、まあ、いいと思って接していることは事実だけど。
冬咲は俺に大した興味など持ってない。
今日の夕方だって、ご飯いく約束をしたけどあれからなんの連絡もないし、結局何時にどこ集合かも決まってない。
こんなんでデートなんて、果たして出来るのかも怪しい。
「いらっしゃいませー」
ちょうど店の奥で窓を拭いていると、開店時間になった。
と、同時にお客さんが。
振り返るとそこには女の子の姿が……ん?
「さくら?」
「あ、斎藤? なによあんた、ここくるの?」
「いや、お前の方こそ何しにきたんだよ」
見たことあると思ったら富永だった。
俺より先に気づいた拓真が話しかけていた。
「こんにちは、上山君」
「い、いらっしゃい。一人?」
「んなわけないでしょ……って、あの子どこ行った?」
キョロキョロ見回したあとで、外に出た富永はすぐに誰かを連れて再び店内に入ってきた。
白いワンピースを着た小柄な……ん?
「ふ、冬咲?」
「こ、こんにちは」
「う、うん」
俺は思わず固まってしまった。
ワンピース姿の冬咲が、あまりにも可愛かった。
「ほら、雪乃なにしてるのよ。中入るわよ」
「……うん」
しかしそれ以外はいつもの冬咲だ。
俯き加減で何かに怯えるような目をしながら、中に入ってくる様子はやっぱり彼女なのだけど。
「雪乃、何がおいしいの? おすすめ、上山君に頼んでよ」
「……カルボナーラ、お願いできる?」
「う、うん」
顔を赤らめて、照れながら注文する冬咲はやっぱり俺の見たことない彼女の姿だった。
友達と一緒だから、俺と話すのが恥ずかしいのだろうか。
あんな顔されたら……いや、今は料理に集中しよう。
「あら、こんにちは。みんな、よかったら飲み物どうぞ」
俺と入れ替わるように母さんが冬咲たちのところへ。
しまったと思いながらも、手が離せない。
富永や拓真がいるところで変なことを言わないでくれよと、祈るしかない。
あーもう、このあと冬咲と二人でデートなのに。
気まずくなるのはやめてくれよ。
♡
「雪乃ちゃん、お友達?」
「は、はい」
「富永さくらです。悠太君とはクラスメイトでして」
「あらそう。あの子ったら学校の話とか全然しないから。ゆっくりしてってね」
お母さんがさくらと話していると、私はモヤモヤした。
で、お母さんが席を離れるとすぐにさくらを見る。
睨む。
「むー」
「なによ雪乃」
「今、悠太君って呼んだ」
「普通でしょ」
「馴れ馴れしい。お母さんに取り入るつもりだ」
「そんなこと考えるのはあんたくらいよバカ」
「私、まだ呼んだことないのに」
「だったら今日のミッションはそれね。今日中に上山君のことを下の名前で呼ぶこと。いい?」
「わ、わかった」
「じゃあ早速練習ね。ほら、言ってみ」
「……ゆ、ゆーくん」
「それは早いでしょ」
「じ、じゃああなた?」
「……」
「ぱ、パパとかでもいいかな? でも、私はいつまでも恋人気分でいたいからやっぱりちゃんと名前で」
「おーい、帰ってこーい」
さくらのデコピンで私は自分の世界から強制的に連れ戻された。
とりあえず、今日の目標が決まった。
上山君のことを、名前で呼ぶ。
……急にそんなことして、気持ち悪いとか思われないかな。
それに私のことも。
あの時みたいにまた、名前で呼んでほしい。
そんな日が来るのかな……。
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