第12話
♤
冬咲とはじめて一緒に教室までくるのが、こんなに緊張するとはおもわなかった。
席に着くとホッと一息。
冬咲のやつ、俺と一緒にいるところを見られても嫌じゃないって思ってくれたってことでいいんだよな?
だとしたら一歩前進なのか。
それとも単に慣れただけなのか。
わかんねえ。
ほんと、俺は寝不足でも眠気なんか感じないくらいまだ心臓がドキドキしてるってのに。
「……寝てる」
席に着くとすぐに眠りについた冬咲を見ながら俺はため息をつく。
冬咲にとっては俺と一緒に教室まで来たことなんてその程度のことなんだろう。
静かに寝てるなほんと。
もう授業が始まるってのに。
どんな夢、見てるんだろ。
♡
上山君との結婚式。
場所は私が選んだお城みたいな式場。
この街一番の大きなところで、クラスのみんなに祝福されながら私はライスシャワーを浴びる。
そして実はお腹には彼との子供が。
来年の春には生まれる予定。
えへへ、幸せ。
新居はまだ決まってないけど、これから二人で探して。
ああ、なんか先生の声がする。
先生まで私たちのことを祝ってくれてる。
私、幸せになるから。
「おい冬咲、大丈夫か?」
「……ん。あれ、ここは?」
「冬咲、顔色悪いけど大丈夫か? 体調が良くないなら保健室に行って休みなさい」
「……はい」
夢だった。
お腹をさすってみたけど、多分私はまだ孕っていない。
それに、ここは式場ではなく教室。
私はウェディングドレスではなくいつもの制服姿。
……隣には上山君がいる。
私、また寝てるところ見られた?
「……先生、保健室行ってきます」
気分が悪くなって席を立とうとすると、寝不足と寝起きすぐということもあって足元がふらついた。
そんな私を見かねてか、先生がまた上山君に声をかけていた。
「すまん上山、冬咲について行ってやってくれるか?」
「ええ、わかりました。冬咲、行こう」
「……うん」
そっと、二人で教室を出る。
また、シンと静まり返った廊下だ。
さっきまで私が歩いていたバージンロードはどこにもない。
「はあ……」
「冬咲、大丈夫か? 昨日も体調良くなかったみたいだけど」
「だ、だいじょぶ。ちょっと寝不足なだけ」
と、口走ってから私は後悔した。
寝不足ってことは、昨日の夜は起きてたのに返事を返さなかったと自白したようなものだ。
私のバカ、寝てたってことにすればよかったのに。
ほら、上山君がちょっと白い目で見てる。
どうしよう、どうしよう。
言い訳、考えないと。
「冬咲の方こそ、夜はなんかしてたのか?」
「……ゲーム」
「ゲーム? 冬咲、ゲーム好きなの?」
「……」
答えられない。
これ以上話題を広げたくない。
私、ゲームとか全然しないからわかんない。
ど、どうしよう。
「まあ、いいや。保健室着いたぞ。先生、冬咲をお願いします」
混乱する私とは対照的に、冷静に淡々と私を保健室へ送り届けてくれた上山君は、呆れ果てた顔でこっちにくる保健室の西宮先生に私を引き渡すと、さっさと教室へ戻っていってしまった。
で、すぐに西宮先生からの尋問がはじまる。
「今日の体調不良の原因はなんだ? 寝不足みたいだけどまた彼と喧嘩したのか? それとも夜な夜ないちゃついてたのか? ん、どうなんだ?」
「あ、あの……彼がラインくれて、でも返事ができなくて、勝手に悩んでまふ」
「アホくさっ」
「アホ……」
一蹴された。
そして先生は私をベッドに放り投げるように寝かせる。
「とにかく寝てろ。寝不足だと人間はマイナス思考に陥りがちだからな。寝てスッキリした頭で考えなさい」
「……先生、ラインの返事が思いつかないんです」
「知らん。思ったことそのまま送ればいいだろ。そんなに好きなら大好きですとでも送ったらどうだ?」
「すすす、好き?」
「あーもう、めんどくさいな。とにかく一時間くらい仮眠を取れ。ひどい顔してるぞ」
「……おやすみなさい」
ベッドに横たわると、また眠気が襲ってきた。
ぼんやりしながら、私はふとスマホを見る。
ラインを開く。
昨日の、上山君からのメッセージを見る。
ほんと、優しい。
何度見てもこのラインだけで泣きそうになる。
こんな私を気遣ってくれる上山君のことが、私は好きで好きで仕方ない。
思ったままを言葉にするなら。
私は、一言だけ。
「好き」
そんなメッセージを打ってみたところで、ふうっと意識が遠くなった。
そして次に目が覚めた時にはもう、お昼だった。
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