第11話
♤
「……返事、ないな」
冬咲と別れたあと、家に戻る途中で拓真から連絡がきて、なぜか唐突に冬咲の連絡先が送られてきた。
これはなんなのかと電話をすると、出たのは富永。
そこで初めて富永と喋ったのだけど、どうやら色々と冬咲が悩んでるから励ましてやってほしいということだった。
そんなことなら仲のいい富永がすればいいじゃないかと言ったのだけど、それは散々やってるけど気休めにしかならないから、他の人からも話してやってほしいとか。
まあ、詳しいことは言わないのでわからずじまいだけど、とにかく冬咲に連絡はしてほしいと言われて俺は色々考えた挙句に無難な内容を送った、つもりだったのだけど。
やっぱりまずかったのだろうか。
急に人から連絡先を聞いて勝手にメッセージを送ってこられるなんて、相手からしてみれば怖いと感じるのかもしれない。
やっぱり、やめといた方がよかったかな……。
「はあ……これで明日家に来なかったら、本格的に嫌われたかもな」
メッセージは既読にはなっている。
でも、いくら待っても返事はこない。
相手の返事を待つだけでこんなに苦しいと思うことがあるんだな。
俺、やっぱり冬咲のことを……。
♡
「……どうしよう、寝れない」
そして返事ができない。
時計を見ると、既に日付が変わっていた。
私はずっと上山君からのメッセージと睨めっこしながらベッドで固まっている。
何度か返事を打ってはみた。
私の最近の悩み事。
一緒に住むならどっちの実家がいいかな、とか。
大学は県外で同棲したいんだけど上山君は地元志向なのかな、とか。
色々悩みは尽きない。
でも、聞く勇気がなくてどれも送れないまま。
気がつけばずっと既読スルー。
それはもっとまずいと思い、何か送ろうとするも無難な返事が思いつかない。
だからやっぱり聞きたいことを送ろうと思うけどやっぱり勇気が出ない。
なんて感じでずっと堂々巡りしていて寝れないまま。
早く寝ないと、明日寝過ごしてしまう。
それだけは避けたい。
だから早く寝ないと。
でも、ずっと上山君が返事を待っててくれてたらどうしようって考えるとそれも心配で寝れない。
「あうう……どうしたらいいの……」
暗い部屋で一人、スマホの画面の明かりに照らされながら私はずっと考えて。
考えてるうちに外が段々と明るくなっていって。
気がつけば朝になってしまった。
♤
「……そろそろかな」
冬咲のことで不安を抱えたまま眠ったせいか、昨晩は寝つきが悪く朝早くに目が覚めた俺はいつもより早めの支度を整えてから鏡で自分の姿を確かめる。
寝癖よし、ネクタイの曲がりもなし。
ふう。
今日は先に外に出て冬咲を待ってみるか。
「いってきます」
今日も朝早くから両親は仕事でいないので、誰もいないシンとした家に向いて声をかけてから外へ。
すると、
「……おはよ」
「冬咲? お、おはよう」
冬咲が家の前に立っていた。
いつにも増して鋭い目つきで俺を見ながらか細い声で挨拶をすると、クルッと体を反対側へ向ける。
「……昨日はごめん。返事、できてなくて」
「え? い、いやこっちこそごめん。急に連絡なんかして」
「だいじょぶ」
「……フラフラしてないか? ちゃんと寝れたのか?」
「……うん。そっちこそ、目の周りが黒いけど」
「あ、ああ。ちょっと寝るのが遅くて」
「そ」
数歩、ゆっくり前に出てからチラッとこっちを振り返って冬咲が「学校、行く」と。
俺も慌てて彼女のとなりへ。
そしてゆっくりと、いつものように二人で学校へ。
明らかに様子がおかしいけど、でも、ちゃんと迎えにきてくれたってことは怒ってはいないってこと、なのか?
わからん。
でも、ずっと俯いたままの冬咲になんと声をかけたらいいのやら。
帰りまでに機嫌なおしてくれたらいいけど。
♡
……あっぶな!
よかったあ、早く迎えにきてて。
結局一睡もしないままで頭フラフラだから、眠気覚ましに早めに家出てよかった。
でも、なんで上山君まで寝不足っぽいの?
もしかして……
「昨日、何してたの?」
「え? いや、あの後は帰って部屋でゴロゴロしてたかな」
「ゲームとか?」
「ま、まあそんなところかな」
「……そ」
……嘘だ。
明らかに、あからさまに動揺してる。
寝不足の原因をなんで隠したの?
私に知られたくないこと……ももも、もしかして!
「……ゲームって、誰かと一緒にするの?」
「え? い、いや一人で、だけど」
「なんのゲームしてたの?」
「え、ええと……昨日は確かRPGを」
「……そ」
また嘘だ。
昨日の夜やってたゲームなんて考えなくてもわかるはずなのに。
明らかに今考えて答えた。
ゲームなんかしてなかったんだ。
じゃあ、何してたの?
……もしかして、ほんとはあの後家にかえらずに誰かのお家に?
でも、ほんとに家にいたのかなんて、そんなこと聞いたら変に思われるかもだし。
それに私のほうこそ返事もしてないのに、他の男と遊んでたなんて疑われたらいけないもんね。
我慢我慢。
うー、もやもやする。
「なあ、そろそろ学校着くけどいいのか?」
「何が?」
「いや、だから、ほら。いつも冬咲が先に行くだろ。一緒に登校してるところ見られたくないからって」
「あ……」
顔を上げると、正門が少し遠くに見える。
いつもこの辺で私は先に学校へ行くのだけど。
今日は、離れたくない。
こんなにモヤモヤしたまま、上山君と離れたくない。
でも、家が反対側の私がこうして彼と一緒に学校に来てるところを見られたら、他の人に変に思われるかもだし……
でもでも、やっぱり離れたくない。
「……だいじょぶ。今日はこのままでいい」
「……なら、このまま一緒でもいいのか?」
「うん。今日はなんかしんどいし、早く歩くの面倒だから」
本音とは程遠いことばかり口にしながら。
初めて、上山君と一緒に正門をくぐる。
特別なことなんか一つもないのに、胸が張り裂けそうで、体が熱くて、息が苦しくて。
好きな人と一緒に登校するのって、こんなに幸せなんだなって、初めて実感した。
一緒に階段を登って。
一緒に教室の扉を開けて。
一緒に、席へ向かう。
全部一緒。
ずっと一緒。
席に着くと彼は静かに荷物を整理し始めて、私はその横顔を見ながら優越感に浸る。
ああ、夢のような時間だった。
ホッとすると、なんだか眠くなってきちゃった。
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