第39話

「……おはよう」

「……おはよ」


 翌朝。 

 冬咲はいつものように俺を迎えにきてくれた。


 しかし、いつも通りとはいかない。

 気まずい。


 昨日電話を切ったあと、疲れ切った俺はそのまま部屋に戻ってすぐに寝てしまった。


 朝になって慌てて携帯を見たけど、冬咲から連絡とかはきてなくて。


 でも、昨日の電話のことははっきり覚えている。


 冬咲を文化祭に誘って。

 冬咲からOKをもらった。


 それ以上に嬉しいことなんてないんだけど、しかし昨日の電話の内容だけはいただけない。


 あんなの、告白じゃないか。

 はっきり好きだとかそんな言葉は使ってないけど、誰が聞いたって俺が冬咲に好意を持っているのは丸わかりだ。


 冬咲だってそれくらい……いや、だけど聞けるはずもないし。

 それでも、ずっとこのままというわけにもいかない。


 さりげなく、話していこう。


「あ、あのさ」

「うん?」

「いや、文化祭のことなんだけど」

「……企画、上手くいくといいね」

「あ、ああそうだな。そういえばあれ、どうなったんだろ?」

「お姉ちゃんは乗り気だったから、今日も放課後生徒会室に呼ばれてる」

「二人で?」

「二人で」

「そ、そっか」


 浮かれていたせいですっかり忘れていたが、そういや昨日俺と冬咲は生徒会に強制入会させられたんだっけ。


「でもさ、生徒会って文化祭の運営側だよね? 仕事で潰れるんじゃ」

「大丈夫」

「大丈夫? そうなの?」

「……そんなに忙しくないって、言ってた」

「そ、そう。なら、いいんだけど」


 話しているうちに気まずさが少しほぐれてきて、気がつけば学校に着いていた。


 で、今日も二人で教室へ向かう。

 

 結局、冬咲の反応はよくわからなかった。

 文化祭を一緒に回る約束をした程度でオロオロしてるのは俺だけ、ってことなのか。


 でも。


 せっかく、約束したんだ。


 文化祭の時には……ちゃんと、俺の気持ちを伝えたい。



「……」


 あー、緊張がほぐれない。


 死ぬ。

 死ぬ死ぬ死んじゃう!


 昨日から一睡もできてない!


 文化祭、誘われちゃった。


 もう、文化祭終わったら死んだっていい。


 とにかく、一緒にデートしたい。


 私の夢。


 大好きな人と学校行事に参加すること。


 昔、そんなことをどこかで言って笑われたことがあったっけ。


 まあ、その時は好きな人もいなかったし、漠然とした夢だったけど。


 今は違う。


 上山君と、思い出を作る。


 あと、障壁は一つ。


 いちごだ。


 私に意地悪だから、当日の面倒な仕事を振ってくるに違いないけど、それだけは断じて許さない。


 私は私の為に、いちごと戦う。


 そんで、文化祭のその日に私はこの気持ちを……。


 

 


 


 

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