第38話


「なあ拓真、文化祭誰かと回ったりすんの?」


 帰ったら誰も家族はおらず、それでも誰かに何かを話したくて仕方なかった俺はたまらず拓真に電話した。


「んだよ急に。部活終わったら飯でも行く?」

「そう、だな。いや、ていうか質問」

「はいはい、わかったって。俺はさくらと一緒にぶらぶらするんだよ」

「さくら? え、もしかして」

「ばーか。色々と誘いを断るためのフェイクだよ。あいつとは幼馴染みたいなもんだし、他の女子といるよりは騒がれないからな。それに、一人だと誘いが多くてめんどくさいんだよ」

「モテる男は違うねえ」

「モテるなりに悩みはあるんだよ。で、お前は冬咲さんと回るのか?」

「え?」

「いやいやとぼけるなよ。初めて女の子と文化祭回るから、アドバイスほしくて俺に電話してきたんだろ?」

「あー、いや、まだ決まったわけじゃないんだけど」

「誘ってみたけど返事待ちってやつ?」

「実はだな……」


 かくかくしかじか。

 冬咲に誘われたけど、まだ俺の方が返事をしていないことを今日の出来事と共に話した。


 すると、


「なんだそれ、惚気?」

「は? 俺は真剣にだな」

「はいはい、ごちそうさま。一つだけ言っとくけど女に恥かかせるなよ」

「……わかってるって」


 拓真の言いたいことはわかる。

 はっきりしないといけないのは俺の方だ。


 どういう理由で俺を誘ってくれたのかなんて、今はどうでもいい。

 拓真みたく、ある意味虫除け代わりに選ばれただけかもしれないけどそれでもいい。


 冬咲が俺なんかを誘ってくれたんだ。

 俺に選ぶ権利なんてないだろ。


 明日会った時に、なんてのもダメだ。

 すぐに連絡しないと。


「悪い拓真、切るわ」

「おう、頑張れよ」


 電話を切って、すぐにまた電話をかける。

 はじめて、冬咲に電話した。


「も、もしもし?」

「あ、冬咲? ええと、上山だけど」

「う、うん」


 すぐに出てくれたけど、電話口の声が小さい。

 やっぱり、電話はまずかったか……いや、今更悔やむな。


「あのさ、文化祭なんだけど、予定ないなら一緒に、どう、かな」

「え?」

「あ、いや、無理にとは言わないけど」

「……」


 冬咲が沈黙した。

 そして、電話が切れてしまったかのように無音の時間が流れていく。


 この間に何度も、「やっぱりいいよごめん」「また考えがまとまったら返事して」とか、色々言おうと思ったけど。


 何も言葉に出来なかった。

 言ったら、冬咲が遠くに行ってしまう気がして。

 

 一体何分経ったろう。

 どれくらい固まっていたのかもわからないまま。

 しかし、彼女がやがて発する一言で俺の目が再び覚めた。


「よろしく、お願いします」


 

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