第37話


「あれ、どういう意味だったんだ……」


 企画が決まった後、まるで見ていたかのようにすぐに生徒会長が戻ってきて、考えた内容を俺が話すとすんなり合格をもらえてすぐに解散となったのだけど。


 生徒会長が戻ってくる寸前に冬咲が言ったこと。

 俺と一緒に文化祭を回りたい。

 その言葉の真意は聞けないまま、今日は久しぶりに一人で家まで帰ることになった。


 冬咲にはまだ話があるからと、生徒会長は俺だけを先に外へ出してしまった。


 待っておこうかとも考えたけど、「今日は責任をもって雪乃を家に帰すから安心しなさい」なんて生徒会長に言われたら帰るしかなく。


 もうすぐ家に着く。

 しかし、このまま家に帰ろうなんて気分には全然ならない。


 ずっと胸が苦しい。

 まさか、あの冬咲が俺のことを……いや、まだそういう段階ではないのかもしれないけど、少なくとも俺と一緒に文化祭を回ってみたいという言葉は、関係の進展を期待していいはずだ。


 だから期待してしまう。

 もしかしたら、冬咲が俺の彼女になるかもなんて未来を。


「……連絡、ないな」


 家の前でずっと、冬咲からの連絡を待ってみたけど電話もラインもこない。


 追いかけてきてくれたり、なんてことを少し期待したけどそんな都合のいい話があるわけもないかと。


 諦めて、玄関の重い扉を開けた。




「あ、上山君が家に入っちゃった……」


 上山君だけ先に帰らされたあとで、私はいちごを振り払うのにかなりの時間を要した。


 しつこい、というかあれは多分嫌がらせだろう。

 早く上山君を追いかけたい私の邪魔ばかりするように、執拗に「上山君との初仕事はいかがだったかな?」なんて質問を繰り返すいちごはとても悪い顔をしていた。


 で、いろいろあってようやく学校を出れたわけだけど、私が彼に追いついた時にはちょうど、上山君が自宅に入っていくところだった。


「はあ、はあ……疲れた。それに……私の言ったこと、聞こえてたのかな?」


 口走ってしまった言葉。

 上山君と一緒に文化祭回ってみたい。


 ……死ぬ。

 こんなの、ほぼ告白じゃんか。


 でも、あの時上山君は何も言ってこなかったから聞こえてなかったのかな? 

 それとも、聞こえた上で困ってたとか……あうう、お腹いたい。


 でも、文化祭当日は絶対上山君を誘うの。


 さっきいちごに交渉して、企画を考えた特権としてカップルシートの予約を一つ手に入れたんだから。



上山君と一緒に帰れなかった分の補填はさせてもらうもんね。


 でも、やっぱり気になる。

 上山君が私なんかと一緒に文化祭回ってくれるかどうか。


 すう、はあ。


 よし、連絡してみよう。

 

 


 


 

 

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