第36話
⭐︎
「会長、妹のためだからって生徒会に二人を無理矢理入れるなんて大丈夫なんですか?」
副会長であり、私の右腕である佐藤陽子に呆れながらそう言われたのは、ちょうど生徒会室の隣にある準備室にはいった時だった。
「問題ない。むしろこれを機に妹が何かにやる気を出してくれるのなら歓迎だ」
「公私混同してますよねー。まあ、いいですけど」
「そう怒るな。何も妹だから贔屓しているだけではない。今回の仕事においては雪乃が適任だと思っての選抜だ」
「企画力がある、ということですか?」
「いや、妄想癖があるという感じかな」
「大丈夫すか、それ?」
「まあ、しばらく様子見だ。お茶をいれてくれ」
「はーい」
♡
「んー」
いちごに課せられた企画とやらを考えているのだけど、隣に上山君がいるせいで頭が回らない。
悩んでるフリをしても、何もアイデアがわいてこない。
どうしよう、ドキドキする。
こんな静かな部屋で上山君と二人っきりなんて、それだけでもう夢みたい。
あー、このままずっとこうして……ん?
「ねえ、カップルシートで映画見れるとか、どうかな?」
なんか閃いた。
というより映像が頭に浮かんだ。
中学校の時の文化祭とかだと、各クラスで出し物をしていたりしてたけど、ゆっくりできるような場所はあまりなかった気がする。
食べ歩きながらワイワイ、というのもいいけど、人目を忍んで誰かとゆっくりできる場所があればとても素敵だし、そういうのが欲しい人は一定数いると思う。
私がそうだ。
堂々と上山君と歩く度胸はないけど、こっそり二人で映画とか見ながらゆっくりできたらいいなあって。
そんな場所の提供もありじゃないかな。
「なるほど……確かに公然とデートとかはしにくいけど、せっかくの文化祭だから好きな人とゆっくりしたい生徒もいるよな」
「うん。だから予約制にして、時間も決めて一組ずつ貸切にするとか、どうかな」
「まあ、先生がそれを許してくれたらだけど。企画としてはありじゃないかな」
上山君も同意してくれた。
でも、それって上山君も誰かと一緒に文化祭を回りたいとか思ってるってこと、なのかな?
誰と?
もしかして私と……でも、どうやって確かめたらいいんだろう。
私は……上山君と二人っきりで文化祭を楽しみたい。
今も二人だけど、いちごがいつ戻ってくるかわからないこんな窮屈な場所じゃなくて。
誰もいない、二人だけの場所へ。
連れてってほしい。
「どうした冬咲?」
「あ、ううんなんでも。じゃあ、その企画でお姉ちゃんには話そっか」
「ああ。そういえば冬咲は文化祭とか、なにかしたいことあるの?」
上山君にそう聞かれて。
多分、私はこの二人きりの空間のせいで混乱していたんだと思う。
別に、とか。
文化祭なんてめんどくさい、とか。
いつもならそんな天邪鬼なことしか口に出ないのに。
言っちゃった。
「私は、上山君と文化祭回ってみたいな」
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