第35話
♤
今日の学校に至っては、放課後までの時間潰しと言うべき時間だった。
授業も休み時間もずっと、放課後に待つ不安で頭がいっぱいだったから。
冬咲も同じ気持ちなのか、ずっと固まって無言のままでいた。
まあ、いつも通りといえばそれまでだが、いつにも増して静かな彼女を横目に見ていると俺もどんどん不安になっていった。
生徒会なんて、俺に務まるのか?
それに、どうしておれと冬咲が指名されたのだ?
俺は勉強は平均レベルで運動も大したことはない。
冬咲も、そんなに勉強ができるなんて話は聞かないし部活にも入っていないようだから運動も得意そうな雰囲気はない。
まさか、二人とも帰宅部だから?
いや、そんな理由であの厳しい生徒会に入れるとは思えない。
うーん、ますますわからない。
でも、悩んでも時間は止まってくれない。
運命の放課後が、やってきてしまった。
◇
「し、失礼します」
放課後すぐに、俺と冬咲は生徒会室へ向かった。
教室へ向かう間は互いに無言だった。
そして恐る恐る扉を開けると、朝と同じように生徒会長であり冬咲の姉でもある冬咲いちごが奥の椅子に座っていた。
「お、きたきた。じゃあ早速二人には仕事してもらうかな」
「ま、待ってください。まだ入ると返事したわけでは」
「断る理由がないじゃない。それに、私は二人のことを平凡だとは思っていない。ちゃんと適正を見抜いた上で選んだんだから自信を持ちなさい」
「適正?」
「こっちの話だ。さて、二人にはまずこの企画について考えてもらいたい」
こっちの言い分なんか聞いてもくれず、どんどん話を進める生徒会長に渡されたのは一枚のプリント。
そこには、企画書と題された内容がびっしり書かれている。
「……文化祭の企画ですか」
「そうだ。二人に考えてもらいたいのは、どういう内容なら大切な人と文化祭を過ごしていい思い出になるかを考えてほしい。自己満足ではなく、相手に喜んでもらえるための企画づくりというやつだ」
「相手に、ですか?」
「そう。恋人、友人、家族、そういう大切な人との思い出になるような文化祭に私はしたい。しかしいかんせん、私には親友や恋人なんていない。ずっと一人で突っ走ってきた人間には相手を思いやる気持ちとやらが欠けている。鬼の生徒会長なんて呼ばれるのも、まあ、納得だ」
そう言って笑う生徒会長は、「30分したら戻る」と言い残して部屋を出ていってしまった。
「……これ、どうしたらいいんだ?」
「……とりあえず、何か考えないと。お姉ちゃん、言ったことやってなかったらすごく怒るから」
「まじか……」
とりあえず、ここから逃げるなんて選択肢は無さそうだ。
「ええと、それじゃあ何か考える?」
「うん。企画、考えよっか」
二人で、企画書と睨めっこする。
一体どうしてこんなことをしているのかもわからないまま、じーっとプリントを眺めていると窓の外が暗くなっていった。
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