第34話

「は?」


 思わず声が出たのは俺だった。


 突然の勧誘、というだけでももちろん驚きなのだけどそれだけが理由ではない。

 この学校では、一年生が生徒会に入るなんてことはないからである。


 他の学校の事情は知らないが、うちは生徒会の運営力が凄まじく、文化祭や体育祭、修学旅行やその他行事に至るまで全て生徒会が担っている。

 先生たちはそんな生徒会に頼りっぱなしで、仕事のできない人間が生徒会に入られたら困るからという理由で人選もかなり厳選して行われる。


 一年間の学業成績はもちろん、内申点や交友関係までリサーチされ、そして選ばれたエリートの中からさらに吟味し、現生徒会のメンバーと熟考を重ねて生徒会役員を選出すると決まっている。


 なぜこんなに詳しいのかといえばだが、部活に入りたくない俺は入学早々に先生に「生徒会くらいなら入っても」なんて軽口を叩いて怒られたことがあるから。

 うちの生徒会はそんな生半可な人がなれるものではないと、懇々と説教されたから知っている。

 どれほどこの学校の生徒会が重責かということを。


「ほう、驚くということはうちの生徒会の重みは理解しているんだな」

「あ、いえ、それは……」

「まあいい、とにかく二人には生徒会役員として仕事をしてもらいたい」

「で、でも生徒会って優秀な人しか入れないんじゃ」

「会長の私が選んだ人間こそ相応しいと思うがどうかな?」

「そ、それは……」

「あはは、急な話で戸惑うのはわかるけど、これは決定事項だから。まあ、放課後にまたここに来るといい。じゃあ、戻っていいぞ」


 急に追い払われるようにコップを下げられて、俺たちは何を聞くまでもなく部屋を出された。


 そして、何が何だかわからないまま、二人とも無言で教室まで戻った。



「ねえいちご、あれどういうことなの?」


 私は上山君と教室に戻ってすぐ、トイレに向かってからいちごに電話した。


「こら、学校で携帯は禁止だろ」

「いちごだって。それに、ほんと意味わからないもん」

「雪乃は上山君とやらと一緒に生徒会をしたくないのか?」

「え?」

「私は姉として、妹の恋路を応援してるつもりなんだけどなあ。二人で一緒に生徒会役員として活動していくうちに芽生えるものもあるだろ」

「芽生えるもの……」

「ま、嫌ならいいけど」

「い、嫌じゃないもん! ほ、放課後生徒会室に行ったらいいんだよね?」

「ああ。よろしく頼むよ」


 電話を切ったあと、私は考えた。

 あのいちごに限って私のために何かするなんて考えられない。

 裏があるに違いない。

 でも、目的がわからない。

 嫌がらせをするような姉でもない。

 ほんと、何がしたいんだろう。



「はあ……」


 教室に戻りながらため息をつく。

 放課後が不安で仕方ない。


 でも、上山君と放課後も一緒、か。


 ……ちょっと嬉しいかも。

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