第40話
♤
「上山君とやら、ちょっといいかい?」
昼休みのこと。
俺たちの教室にやってきたのは、生徒会長の冬咲いちごさんだった。
妹の冬咲のことなど眼中にない様子で俺にだけ話しかけてくる彼女の何とも言えない威圧感に押されて、俺は何も聞けないまま彼女に連れていかれた。
そして廊下に出るとすぐ、
「文化祭では、雪乃と仕事をしてもらうから」
そう言われた。
「仕事、ですか?」
「まあ構えるな。文化祭の時は気が緩んで飲酒や喫煙なんて愚行を犯す輩もたまにいる。そんな連中がいないか見回りしてもらいたいだけだ」
「なるほど。校内をずっと、ですか?」
「まさか。人目につきにくい場所を何ヶ所かだな。場所のリストは渡しておくから、気が向いたら二人で見に行く程度でいい」
「わかりました」
「あと、放課後に下見でもしてきなさい。当日になって場所に迷うと困るだろ」
「わかりました」
「もちろん二人でだ。わかったか?」
「は、はい」
最後に強く釘を刺されて、生徒会長は去っていった。
♡
「というわけでアシストしておいたから。あとはうまくやれよ雪乃」
「へ、へんなことしないでよいちご! 上山君と放課後に二人で校舎内を、しかも人のいない場所をうろつくなんて出来ないって」
「何を言うか。男女は人目を忍んで相引きするのだろ? 私は興味ないが、妹のためならそれくらいのアシストは任せておけ」
「あうう……」
いちごに変なスイッチが入ってしまっていた。
普段は冷たいくせに、無駄に家族思いというか、余計なお世話を働かせるところもまた、いちごの悪いところだ。
いちごは恋愛とか全然わからないから「両思いなら早く決着つけた方がいいだろう」とか、「無駄な時間を過ごすのはもったいない。青春とやらは貴重なのだろ?」とか、まるでロボットが喋ってるようなことばかり言ってくる。
ほんと、余計なお世話だ。
でも、確かに早く決着はつけたい。
文化祭当日、上山君のことを狙っている輩が奇襲をかけてくる可能性もあるし。
どうせなら、盤石な状態で文化祭を迎えたい。
今日ばかりはいちごの提案に甘えよう。
「……放課後、か」
そう呟くと、戻ってきた上山君がこっちを見た。
多分いちごから変なことを言われてるのだろう。
ほんと、余計なお世話だなあ。
……でも、人のいない場所か。
何か、起こらないかな。
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