第32話


「……」


 冬咲を送る道中、ずっと無言だ。

 それに、いつもより悲しそうだ。


 何か話しかけたいけど、何も言えない。

 このままだと冬咲の家に着いてしまう。


 気まずそうにしてたから帰ろうと言ったものの、俺だって本当はもっと一緒にいたかった。


 でも、付き合ってもいない男の家に二人っきりなんて、冬咲がそんな状況を楽しめるような女の子だとは思えないし。


 もっと一緒にいたいとか、そんなことを言って気まずくなったら明日からのバイトはどうなる?

 それに、学校でも。

 

 やっぱり、フラれるのが怖い。

 踏み込むのが怖い。


 ……


「家、着いた」


 そう言って冬咲が足を止めた。

 しかし、なぜかその場から動こうとしない。


「……どうしたの?」

「ううん。今日は、ありがと」

「え? いや、俺の方こそ」

「ううん、いいの。ご飯残しちゃったし、迷惑だったよね」


 今にも泣き出しそうな顔で冬咲は寂しそうに言った。

 もしかして、冬咲とのデートを俺が迷惑がってるたと思ってるのか?

 そんなわけないのに。

 そんなはず、ないだろ。


「あのさ冬咲、お、俺、めちゃくちゃ楽しかった。でも、なんていうかこういうの慣れてなくて……気をつかわせたならごめん」

「……楽しかったの?」

「そ、そりゃもちろん。俺、いつも仕事ばっかで誰かと出掛けたりなんて初めてだったし」

「初めてなの?」

「う、うん? まあ、友達いないし」


 急に機嫌がよくなった?

 いや、気のせいか?


「友達、いないんだ。じゃあ、ラインとか電話しても迷惑じゃない?」

「俺に? も、もちろん。迷惑なもんか」

「うん。じゃあ、あとで連絡するね。また明日ね」


 冬咲はそのまま家に戻って行った。



「雪乃、随分機嫌よさそうね。いい週末だったみたいだけど彼とはどうなの?」


 帰って早速上山君に連絡しようとしたら、いちごに捕まった。


「あ、あの、それは……」

「今別れたとこなのに連絡しようなんて、随分重たい女ねあんた。そんなんじゃすぐに飽きられるわよ」

「あ、飽きたりしないもん!」

「はいはい。それはいいけど、明日の朝、ちょっと早くに学校に来なさい」

「なんで?」

「いいから。上山君とやらも一緒にね。生徒会室まで来ること、じゃね」


 いちごはそのまま風呂場へ向かっていった。


 なんか嫌な予感がするけど、理由を聞いても結果は変わらないことを私はよく知っている。

 結局明日は朝早くに学校に行くしかない。

 でも、なんで?

 まさか、不純異性行為で退学……い、いやいや私と上山君はまだ何もしてないのに。


 と、とにかく上山君に連絡しよう。


「ええと、なんて送ろう……明日、早くにそっち行くから?」


 よくわからないけど、とりあえず。

 しばらく悩んでからそう送ると、上山君からの返事はすぐにはなく。


 いちごが風呂を出たあとで私も風呂に向かい、今日の張り詰めた疲れを少しだけほぐした。



「明日、早くにくる?」


 帰って風呂から出ると早速ラインが来ていた。

 もちろん冬咲からだ。


 でも、明日早くにこっちにくるとだけ。

 何時に? ていうかなんで?


「……とにかく返事しないと。ええと、何時くらいにこっちくる?」


 そう送った後、冬咲から返事はなく。

 とりあえず早めに起きて準備しておこうと、この日は早めに眠りについた。



「……あれ、冬咲だよな?」


 冬咲が来ることに備えて朝の5時に起きた俺は、窓から道路を見ると外をうろうろする女子高生の姿を発見した。


 冬咲だ。

 まだ外は薄暗いのにもう来たの?

 いや、早すぎないかな?


「……ラインしてみよう」


 とりあえず着替えながら冬咲にラインした。

 もう着いた? と、聞いてみるとすぐに連絡がきた。


「まだ」


 だそうだ。

 いや、しかし外を彷徨いてるのは絶対冬咲だ。


 なんで嘘を?

 うーん、とりあえず外に出てみようか。


「……あれ?」


 慌てて着替えて外にでると、冬咲の姿が見えない。

 どこにいるんだと探していると、またラインが来た。


「もうちょっとかかるから」


 さっきまでそこにいたはずなのに、忘れ物でもしたのだろうか?

 俺はなにがなんだかわからないまま、一度家の中に戻った。

 

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