第4話


「……」


 隣で斎藤君と上山君が楽しそうに話してた。

 私はそれを盗み聞き……ううん、勝手に聞こえてきたんだけど。


 付き合うとか、彼女とかそんな話してたような……。

 ところどころ聞こえなかったけど、多分恋バナしてた。


 斎藤君ってモテるみたいだからその話かな?

 

 それともまさか……上山君の話!?


「ぐっ、げほっ!」


 授業中だというのに、むせてしまった。


「おい冬咲、大丈夫か?」

「げほ、げほ……大丈夫です、先生……」


 やってしまった。

 みんなが変な子を見る目で私を見てる。

 やばい、燃えそう。

 死にたい。


 上山君もきっと私のこと……ん?


「冬咲、大丈夫?」


 上山君も私の方を見ていた。

 けれどとても心配そうに、なんならハンカチを渡そうとしながら。


 やばい、かっこいい、死ぬ!


「げほっ!」

「お、おい本当に大丈夫か? 保健室行くか?」

「……はぃ」


 先生に再び心配されてしまい、私は保健室へ行くこととなった。

 ほんと死にたい。

 勝手に上山君を疑って自滅するなんて……


「おい上山、お前保健室までついていってやってくれ」


 ふぇっ?

 先生、今なんて?


「はい、わかりました。冬咲、歩けるか?」

「だ、だいじょぶ」


 ……じゃなーい!


どどど、どうしよう上山君と二人で保健室だなんて。


 みんな見てる。

 私たちが一緒に教室出て行くところ見てる。

 やばい、ほんとに頭がくらくらしてきた。


「……ううっ」

「冬咲、ほんとに大丈夫か? ほら、気分悪いならハンカチ」

「んん、だいじょぶ……」


 授業中のためいつもと違ってシンと静まり返った廊下を二人で歩いていると、なんだかこの世界に私と上山君の二人だけ取り残されたような、そんなロマンティックな気分になってきて。


 緊張がピークで吐きそう。 

 こんな時に上山君のハンカチなんかもらったら、多分死ぬ。

 ただでさえ息が苦しいのに。


「……」

「冬咲、ついたよ」

「あ、うん」


 緊張のせいか、あっという間に保健室の前に。

 そして上山君は先に中を覗いてから先生を呼んでくれた。


「先生、体調悪い人がいるので休ませてあげてもらえますか?」

「ん、わかった。ええと、君は?」

「ふ、冬咲です……」


 保健室の先生と話すのは初めてだけど、随分綺麗な人だ。

 確か名前は西宮先生だったっけ。

 まだ二十代前半くらいかな。

 大人の色気があって、とてもスタイルがいい。

 そういえば男子がよく西宮先生の話してるけど、やっぱり人気なんだなあ。


「先生、冬咲をよろしくお願いします」


 私を先生に預けると、上山君は先に出て行こうとする。

 そりゃ当然なんだけど、私としては心細いからもう少しそばにいてほしい。

 で、でもなんて言えばいいんだろう。

 

 離れないで……ううん、これは重い。

 そばにいて……うー?、一緒か。


 ええと。


「置いていかれたら死んじゃう」


 混乱のあまり、本音が出てしまった。


「え?」

「あ、いや、ええと、あの、なんでもない。死にそうなくらいしんどいだけ」

「あ、ああそう。ほんとに大丈夫なのか?」

「……だいじょぶ」


 もう何がなんだか。

 とにかく頭がくらくらしてずっとフラフラしてる。

 先生も見かねて、私をそのままベッドに連れていって寝かせた。


 その後、上山君は先生と何か会話してから保健室を出ていった。


 そこでようやく、私は息ができた。


「……ふう」

「冬咲、気分はどうだ?」

「え、ええと、大丈夫です」


 体を起こして先生の方を見ると、なぜか先生は心配するどころか少しニヤついていた。


「?」

「若いなあ。青春ってやつだ」

「な、なんの話ですか?」

「さっきの男子のこと、好きなんだろ」

「……へ?」

「どうせ彼と何かあって気分が病んでるだけなんだろ? そういう年頃だもんな」

「ななな、なに言ってるのかさっぱりわかりませんけど!? 私、上山君のことなんて別に好きでもなんでも……」

「ほー、それじゃあ先生も彼にアタックしてみようかなあ」

「ダメ! そんなことしたら先生殺しちゃう!」

「あはは、怖い怖い。冗談だよ。それより、少し休んだらちゃんと授業に戻りなさい。恋愛も大事だが学生の本分は勉強だからな」

「……はい」


 西宮先生は私の頭をポンポンと撫でてくれたあと、あったかいお茶をいれてくれた。


 それを飲んで気分を落ち着かせながら先生を見る。

 やっぱり、綺麗。

 冗談だとは言ったけど、こんな人に迫られたらやっぱり上山君も……ううっ、そんなのダメ。

 上山君が他の女の人にとられるなんて、想像したらこの保健室に火をつけちゃいそう。


 先生のいじわる。

 私、絶対先生と上山君を近づけさせないから。


「うー」

「冬咲、犬みたいになってるぞ」

「だ、だって」

「初いなあ。でも、誰彼構わず噛みついてたら彼にも嫌われるぞ。嫉妬もほどほどにな」

「き、嫌われたら死ぬ! やだ、先生どうしたらいいの!? 嫌われたくないよ!」

「お、落ち着け冬咲」

「やだ、やだよう……」

「あーもう」


 結局、保健室で泣いてしまった私は放課後まで先生にずっと慰めてもらって。


 気がつけば下校の時間になった。

 

 


 

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