第50話
「おいおい、やってんなあ」
教室に着くと、すぐに拓真が絡んできた。
まあ、それはいつものことだけど今日はいつもに増してニヤついている。
理由は、まあ言うまでもなく。
「色々あるんだよ」
「かっこつけんなって。可愛い彼女ができたからってよ」
「……そうじゃないって」
隣の席にいる冬咲は、じっと前を見つめている。
さっきまでずっと、俺から離れなかったせいでクラスの連中から変な目で見られているわけだがそんなことなんて気にする素振りもなく。
でも、なんだったんださっきのは?
デレたのか?
それとも、気まぐれ?
いや……聞きたいけど聞けないよな。
「なあ、みんな気になってるぜ。二人がいつから付き合ってたのか」
「ん、いや、まあ昨日から?」
「え、昨日から? うそだろ? それであんな感じなの?」
「こ、声が大きいって」
「はえー、人って見た目によらないもんだなあ。まあ、その調子ならお前が男になるのもそのうちかもな」
ニヤニヤしながら俺の肩にポンと手を当てて拓真は席に戻っていった。
そして他のクラスメイトに嬉しそうに話をしている。
その後、皆が俺の方を振り返る。
男子はみんな白い目でみてくる。
あーあだ。
そっとしておいて欲しかったけど、無理そうだな。
まあ、人の噂も七十五日というし。
ほとぼりが冷めたら……ん?
「じー」
さっきまで前を見ていた冬咲が、じっとこっちを見ている。
いや、睨んでる。
「ど、どうしたの?」
「……嫌だったの?」
「な、なにが?」
「その、手、繋いだこと」
鋭く俺を睨むその目に、じわりと涙が浮かぶ。
泣いてる?
「そ、そんなことないって。俺も、その、嬉しいんだよ。でも、恥ずかしいから」
「見られて困る人いるの? いちごとか」
「い、いちご? いや、だからなんの話?」
「それともクラスにいるの? 私より好きな人」
今にも泣き出しそうな表情で震える冬咲。
いや、すでに泣いているか。
……何にそんなに怒ってるのか俺にはわからないけど。
でも、とにかく不安にさせたのなら謝ろう。
「ごめん、俺、誰かと付き合うなんて初めてで……こんなに幸せでいいのか不安で」
「ほんと? 幸せなの?」
「も、もちろんだよ」
「私のこと好き?」
「す、好きだよ」
「じゃあ、手繋いでも怒らない?」
「お、怒ってないよそもそも」
「うん。じゃあ」
「え?」
俺の方へ席を近づけてくると、冬咲は机の下から俺の方へ手を伸ばしてきて。
ぎゅっと、俺の手を握った。
その瞬間、クラスが一段とざわついたのがわかった。
「ふ、冬咲?」
「ダメ。こうしてないと、怒る」
「……」
少し冷たい彼女の手の感触に、胸のドキドキが止まらない。
が、同時に。
クスクスと漏れるクラスメイトの笑い声と、冷たい視線に胃の頭がキリキリと。
俺、どうなっちゃうんだろう。
そんな心配をしていると、やがてチャイムが鳴って先生が教室にやってきて。
さすがに先生に咎められてこの状況は解消されるかなんて期待したけど。
でも、先生も俺たちの方をチラッと見たあと、少し笑いながらスルーして授業がはじまった。
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