第42話

「雪乃、首尾よくいっているか?」


 朝。

 急に私の部屋に入ってきたいちごがそう言った。

 ドヤ顔で。


「勝手に部屋入らないでよ」

「つれない妹だなあ。でも、私のアドバイス通り動いてよかっただろ?」

「な、なんのことかな?」

「昨日体育館裏で上山君とやらといちゃついていたじゃないか」

「み、見てたの!?」

「偶然、な。で、恋人になれたのか?」

「な、なんでそんなこといちごに言わないといけないのよ」

「大事なことだ。将来彼が妹と結婚するなら、私は義理の姉になるのだから。で、どうなんだ」

「し、知らない! ほっといてよ」


 急に実の姉から結婚がどうとか言われて恥ずかしくなって、私は部屋から飛び出した。


 ほんと、最近のいちごは特に意地が悪い。

 好きな人のことで悩む私を見て愉しんでる。

 

 でも、結果として昨日は少し進展もあった。

 上山君に触られた。

 上山君に触れた。


 あと一歩。

 既成事実まで。


 あれが学校じゃなかったら。

 ベッドの上だったら。

 そのまま彼の腕の中で……でへへ。


 早く上山君を迎えにいかないと。



「おはよう冬咲」

「……おはよ」


 昨日あんなことがあったせいで、上山君の顔を見るだけで燃え上がりそうだった。


 でも、上山君は普通だ。

 あれくらい、なんともないってことなのかな?

 女の子に触ったこと、あるのかな。


 ……やだ。


「なあ冬咲、昨日は大丈夫だった?」

「……ぷいっ」

「あ、あれ?」


 ちょっとイライラして、そっぽを向いた。

 でも、そんなことをしても結局上山君のことが嫌いとかそんな話にはならない。


 大好き。

 好きすぎて、いつも勝手にヤキモチ。


 ほんと、付き合えたりしたらこんなモヤモヤも晴れるのかなあ。


「冬咲」

「……」


 また上山君が呼んでくれる。

 うん、変なこと考えないようにしないと。


「な、なに?」

「あ、いや。昨日も体調悪そうだったから心配したんだよ。体、弱いのか?」

「……ううん。大丈夫」

「そ、そっか」

「……」


 優しい。

 こんな態度の私にでさえ優しい。


 ほんと、何回おんなじことを繰り返せば気が済むのだろう。

 ずっと上山君を試すようなことばかりして。

 結局上山君は一度も裏切ったりしないのに。


 私はどうすれば素直に……。


「おや。二人仲良く登校とは。やけるな」

「え、いち……お姉ちゃん?」


 家を出る時にはまだパジャマ姿だった姉が何故かもう学校の正門前にたっていた。


 どういうスピードで準備してきたの?


「なんだなんだ、心配するほどのことはなかったな」

「な、なんの話?」

「何の話ってそりゃあ雪乃たちのことだろ」

「私たちの、こと?」


 首を傾げる私の隣で、上山君も同じ仕草をとる。


 何が言いたいのかさっぱりな私たちに、しかし痛快に笑いながらいちごは言った。


 この姉のことを微塵でも警戒しなかった私がバカだった。


「雪乃が大好きな男性と結ばれて姉としても肩の荷が降りたというものだ。はっはっは」


 


 

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