第44話

「……」

「どうした冬咲? まだ体調悪いのか?」

「……だいじょぶ」


 息巻いたものの、上山君がくると緊張で何も言えなくなる。


 保健室でまたひっくり返りそうになるのを耐えるのが精一杯。


 でも、頑張る。

 

「上山君」

「ん? どうした?」

「……ご飯行かない?」

「い、いいけど体調大丈夫?」

「うん。お腹空いて」

「わかった。じゃあ、帰り道で探そうか」

「うん」


 とりあえずちゃんと誘えた。

 あとは、ご飯を食べて落ち着いてから気持ちを伝えるの。


 大丈夫、大丈夫。

 上山君ならきっと、わかってくれるはずだから。



「じゃあカルボナーラ二つでお願いします」


 上山君とやってきたのは近所のファミレス。

 夕方になると学生で賑わうこの場所は、告白なんてものには全く向いてない。


 でも、席は全部離れているし、ご飯を食べてからでもドリンクバーで粘ることもできる。


 チャンスはあるはず。


「なあ冬咲、文化祭なんだけどあれ以降生徒会長から話あった?」

「ううん、特に」

「そっか。でも、楽しみだよな」

「え?」

「あ、いや、文化祭ってだけでワクワクするなんて子供っぽいかな」

「……ううん」


 だって私も。

 多分上山君以上にワクワクしてるから。

 

 そんなことも、口にできたらいいのに。


「あれー、上山君?」


 言いたいことなんか何も言えずに彼の方をじっと見ていると、後ろから甲高い声がした。


 振り返ると、別の学校の制服を着た女子がいた。


「ええと、どちらさま?」

「えー、中学で同じクラスだった宮野だよー」

「あ、ああ宮野さん?」

「お久しぶりだねー。あっ、ごめーんデート中だった? またねー」


 馴れ馴れしく上山君の肩を叩いて去っていった。


「……誰?」

「あ、いや、中学の同級生だよ。そういやいたなあってくらいなんだけどさ」

「ふーん」


 嘘をついてる様子はない。

 でも、彼女の方はきっと、上山君のことを気にしていたはず。


 私がいるのをわかっててわざわざ声かけてきた感じだったし、それに、中学の同級生で、仲良くもなかった人があんな風に声をかけてくるのは不自然だ。


 やっぱり、上山君は自分の魅力に気づいてない。


 優しいし、男前だし、人を包み込むあたたかさがある。


 だから知れば知るほど、みんな惹かれていく。

 

 私なんかより、もっと素敵な女の子が彼にアタックすることだってあるかもしれない。

 

 だから、やっぱり怖い。

 私なんかより相応しい人がいるんじゃないかなって。

 モヤモヤしちゃう。


 でも。


 やっぱり、伝えたい。

 この気持ちを。

 上山君を。

 あなたを。


「ずっと、閉じ込めていたい」

 

 

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