第25話
♤
朝になった。
昨日、冬咲を送り届けた後は特に何もなかったけど。
起きてすぐ、冬咲からラインがきていた。
「昨日はありがとう。今日の買い物、よろしくね」
なんてことない文章だったけど、俺は朝から気分が良かった。
冬咲の方から連絡をくれただけで随分と進展があったと言える。
昨日も昨日で色々あったが、着実に距離が縮まってはきている。
かといって、このまま更に発展するような手ごたえはない。
俺という存在に警戒心を解いてくれて、慣れてくれたところでそれはそれ。
俺を一人の男として見てもらえるには果たして何をしたらいいのか皆目見当がつかない。
冬咲の好きな男のタイプってどんな人なんだろう。
……恋愛話とかも、してみようかな。
♡
「……ってわけなの。どうしよう、さくら」
「そもそも聞くけど、あんたは上山君のどこが好きなの?」
「ええと、かっこよくて優しくて料理うまくて……ううん、下手でも好き。上山君だから好き」
「んー、重症ね」
朝目が覚めて、すぐに私はさくらに電話した。
泣きじゃくったせいで目はパンパンに腫れていて、喉はガラガラ。
そんな自分に嫌気がさしながら一人孤独に部屋に篭っていると発狂しそうだったのでさくらに連絡して昨日のことを話してるところ。
「とにかく、私のことをデブだと思ってるかもだからさくらの方から斎藤君に連絡してうまくフォローして」
「なんでそんな回りくどいことしないといけないのよ。なんなら私が直接上山君に」
「さくらはダメ。上山君に近づいたらダメ」
「好きな人も親友も一切信用しないのねあんたは」
「そ、そうじゃないけど……でも、さくら可愛いし」
「あのねえ、可愛い子がいたらホイホイついていくような男なの彼は?」
「ち、違うもん。上山君は浮気なんかしないもん」
「あーもうめんど。電話ダルいからそっち行くわ」
ブチっと電話を切られた。
そしてさくらがうちにやってくることになったので、慌てて着替える。
服を脱いで自分の下着姿を鏡で見ると、柔らかそうなふわふわしたお腹と腕が嫌でも目につく。
やっぱり、太ったかな……。
うう、もっと痩せたい。
でも、上山君のお店に行って何も食べないなんてこともできないし、通うことも辞めたくない。
お金が尽きるまではなんとしても通い詰めて上山君との距離をもっと縮めないと。
「雪乃ー、いるー?」
「あ、さくらだ。ま、待ってー」
慌てて服を選んで、結局大きめのシャツを着ることにした。
そして玄関に向かいさくらを出迎えると、開口一番「わかりやす」と笑われた。
「むー」
「ほら、膨らんでるわよ」
「ふ、太ってないもん」
「あはは、かわい。雪乃はそのふわふわしたのが可愛いのに」
「やだ、そんなのマスコットみたいじゃん」
「そお? 男はみんな肉付きいい子が好きなのに」
さくらにほっぺや腕をツンツンされて、私はまた落ち込む。
上山君も私のこと、マシュマロみたいに見えてるのかな……やっぱり今日はご飯控えないと。
「それより立ち話もなんだからどっか行かない? まだ上山君と会うまでに時間あるんでしょ?」
「でも、目が腫れてるし喉ガラガラだし」
「ほっといても治らないでしょ。それとも、今日せっかく会えるのにキャンセルするの?」
「や、やだ。会いたい」
「じゃあ目あけないと。ぶらついてスッキリしたら腫れぼったい目も治るかもよ」
「……わかった」
こんなぼろぼろのまま外に出たくなかったけど、さくらの言うことも最もだ。
時間は待ってくれない。
夕方までに、上山君に会うまでになんとかしないと。
「うう、眩しい」
「引きこもりか。朝日が気持ちいいでしょ今日は。どこいく? とりあえずゲーセンとか?」
「は、初めてゲームセンター行くのは上山君とがいい」
「あ、そ。なら駅前にできたクレープは?」
「は、初めては上山君が」
「そんなん言ってたらどこも行けないでしょが。じゃあ駅前ね、行くわよ」
「ま、待ってよさくら」
そんな具合でさくらに連れられて駅前へ。
いつもは閑散とした場所なのに、今日は日曜とあってか多くの人で賑わっている。
久しぶりに駅の方へきたけど、随分お店が増えている。
以前は夜になると暗い場所で、小学校の時なんかは人が少なくて危ないから放課後は駅方面へ行かないようにって言われてたくらいなのに。
「なんかいっぱいお店あるね」
「そういえば雪乃とこっちくることなかったよね。去年頃から結構店増えたのよ」
「ふーん。上山君、来たことあるのかなあ」
「上山君らって中学は西中でしょ? あっちは国道沿いに結構店あるから来ないんじゃない?」
「じゃあ上山君とここに来たらお互い初めての……あ、さくらときちゃった! さくら今すぐ帰ろ」
「失礼すぎてビビるわ。ほら、あそこ。クレープのお店にみんな並んでるから私たちも行こ」
「で、でも」
「バカねえ雪乃。今度のデートであんたがいいところ見せるための予習でしょ? 上山君は料理人だし、美味しいものとか紹介してくれたら絶対喜ぶわよ」
「ほ、ほんと?」
「間違いなしよ。だから早く行くわよ」
「う、うん」
上山君が喜んでくれる。
それを想像しただけで私は、早く駅前のクレープの味を確かめないといけないという使命感に駆られていた。
上山君、今なにしてるのかな。
もう、お店で仕事してるのかな?
……ライン、してみようかな。
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