第52話 確かめたかった。
ひょんなことから関さんの家でご飯をご馳走になった。大人しいお父さんだったけど、ニコニコして感じのいいお父さんだった。
「それでハルナはうっかりユニフォームのまんま電車に乗ったわけか」
「いや、お父さん。話聞いてた? 無理やり連れて行かれたのよ、クラスメイトに! それで、あの格好でしょ? 見かねた梶君が送ってくれたの!」
「なに、ハルナ。梶君は彼氏じゃないの?」
「か、か、彼氏⁉ と、と、と、とんでもござらん!」
「なに動揺してるの、おかしな子ね(笑)」
こんな感じで和やかな時間を過ごした。俺はいきなりの訪問だったので食後すぐにお暇することにした。せっかくの休日、ご両親はゆっくりしたいだろう。家族とはリビングであいさつをして別れた。関さんは玄関まで送ってくれる。
「帰っちゃうの?」冗談っぽく関さんが呼びとめる。
「なんちゃって(笑)」というので帰ろうとしたら「冷たくない?(泣)」みたいな感じ。だったら「あと5分」となり「私には5分の価値しかないのね、ふぅ~ん。そうなんだ、間接ファーストキスした仲なのに」となり、なんやかんやで玄関でも外で2時間近く立ち話をした。
時折「早く帰んなよ(笑)」と謎の煽り。帰ろうとしたら「よよよっ」と時代劇風に泣いて見せる。ここまで芸達者だったんだ。しかし流石に玄関先では迷惑だと思い、そろそろ帰ることにした。手を挙げてまた明日。そんな感じで別れた。
夜道は暗め。弟の和人くんのアイスを買ったコンビニの灯りを目指す。初夏なので夜風が心地いい。関さんを追いかけて琴音のマンションを後にした。琴音にはある程度のことは言っていたが、桜花と志穂には何も言ってない。内容が内容なだけにフォローをすべきか悩む。
桜花は今カノみたいな立ち位置で、自宅まで行った。普段付き合うのに1番気心が知れてる。特に意識せずに付き合える半面、逆に俺の問題……立たないみたいな話は出来ない。言えないとか、言う対象じゃないとかじゃない。そんなディープな相談してバカ話出来る相手を失いたくない。
志穂は問題外だ。そもそも原因を作ったのがコイツで、なぜかいま反応する数少ない相手。だけど、どうなんだろ、なんか負けた気がしてならない。寝取られた元カノにいつまでもお世話になってるなんて、論外だ。知り合いとして、友人としての付き合いは続くかもだけど、冷静に考えて志穂とはない。
きれいに、かどうかわからないが、きっちり別れたはず。志穂が今更どうこう思ったとしても、俺的にはもう思い出にしたい。恋愛はあくまで楽しいもので、苦しむものじゃない。情はある。だけど、流されたら色々と詰む。計算高いかもだけど。
だから、志穂には敢えてフォローしないでおく。文句や不満があるなら言えばいい。その数十倍俺には文句も不満もある。考えてみればいまだにチョコを食べれないのは、コイツにも少しは責任があるはずだ。
そうなると問題というか、対処というか、配慮が必要なのは桜花だけになる。どうしようかなぁ、気まずいなぁ……笑って誤魔化せねぇかなぁ。そんなことを考えていたときだ。不意に肩を叩かれた。強くはない「ぽんぽん」くらいで。何も考えずに咄嗟に振り返る。
***
私は何をしようとしてるんだろ。玄関先で2時間も立ち話して見送ったばかり。彼女がふたりもいるクラスメイト。1年の時からよく話をする男子。でも、私が思ってた彼氏彼女の関係じゃないみたい。これじゃ私と梶君の関係と変わらない。
なんで追いかけてる? 明日の朝。学校に付いて来てもらう約束してる。その後だって和人連れて遊ぶ予定。もしかして明日まで待てないの? ただの仲のいいクラスの男子。でも、追いかけてくれた。委員長のマンションから逃げ出した私を。なんで逃げ出したのか。わかってた。
私は弄られるのが苦手だ。弄られるような立ち位置にワザと立つくせに、苦手だ。気付いてないかもだけど、私は意外に繊細だし、今日みたいに委員長の家に押し掛ける「ダシ」にされるのは腹が立ったりもする。ヘラヘラしてても。
言えばいいんだけど、思ってること感じてること全部言う子って、どれだけいるだろ。少なくとも私は言わない。今までもこれからも、クラスの明るい女子という立ち位置で満足。満足……?
じゃあ、なんで追いかけてる? 夜道を彼女がいる男子を。そういう目、えっちな目で見られたからじゃないけど、ゼロじゃないかも。だけど、思う。みんな梶君の扱い意外に雑。私とミキティーナは少し引いた立ち位置だから感じる。
これって、便利使いしてないって。興味半分で土足で立ち入り過ぎじゃない。人のこと言えないか。私だって立ち聞きした。でも内容を聞いて心底血の気が引いた。梶君が斎藤さんのことでそんなにもショックを受けている。だけど、私たちときたら興味半分で……
だから逃げ出した。マンションから。梶君や仲間は立ち聞きの内容……梶君が私をその……使ったことにショックを受けてると思ってるだろうけど、違う。恥ずかしかった。梶君の抱えている問題に気付けないことと、その相談相手が自分じゃないことが恥ずかしかった。仲がいいなんて、自分の勘違いだったのか。
確かめたい。梶君にじゃない自分自身に。この気持ちが本物なのか確かめたかった。だから追いかけて彼の肩を叩いた。
ごめん、少しの間黙ってて、私の心臓。
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