第19話 二段重ねの策。
「そ、それはあなたの個人的な意見ですよね。だいたい、この一連の流れもなんの証拠にもならないじゃないですか!」
「追い込まれて逆ギレですか? まだそんなに追い込んでないんですよ、実は。そうそう、汚ギャルさんはアレですよね? 証人とか証言とかなんの価値もないと思ってるみたいなんで、今はあなたの土壌で戦いましょうか。そうですねぇ~~では、あなたがお好きな動画を証拠にするというのはどうでしょう? 例えば今の状況の動画、どうです?」
麻利衣は古賀アリサさんの言葉に慌て、辺りを見渡す。見渡し終えて逆に落ち着きを取り戻した。焦りから見開いていた白目勝ちの三白眼が、なぜか自信を取り戻した。そして余程おもしろかったのか、腹を抱えて笑った。散々笑った後に呆れた声で付け足す。
「な、なんですか? 脅しになるとでも思ったんですか? い、今さら動画なんか撮って何になるんです? クソの脅しにもなんないですよ! どうせならもっと初めから撮らなきゃでしょ? 大爆笑ですよ! ワロタ~~っ‼」
麻利衣の言葉に反応したクラスメイトは教室中を見渡す。するとそこには、委員長の琴音、ミキティーナ、それからバレー女子の関さんがスマホを横にし撮影していた。
「そうですね、撮るならもっと初めから撮らなきゃ、ですよね」
「そうよ、バッカじゃない? いや、流石に一瞬焦ったわぁ、マジやめてって感じ~~ぃ」
「ところで、汚ギャルさん」
「いい加減、その呼び方やめれや。普通に殺○ぞぉ♡」
「そうですか、残念です。お似合いだったのですが……では仕方ありませんね。では改めて澤北妹さん、麻利衣さんと仰るのは、先ほどお姉さんの発言で承知してますが、慣れ合う気がないというか……ぶっちゃけますと、覚えても仕方ない存在なので(笑)妹さんでいいですよね?」
「なに、この女……マジでムカつく……覚えてろよ、この借りはキッチリ返すからな」
「あぁ、なんてことでしょう。隠しきれない小者感! そりゃ、梶氏が目もくれないワケです! 流石、梶氏は見る目がお有りです。ヤレるとなれば見境ないどこぞの木田君とは雲泥の差ですね! そうそう、この際ですどこぞの木田君。この面倒くさい妹さんもお相手すればよろしいのでは? ふふふっ」
古賀さんはサラリと木田をディスった。今まであまり絡みがなかったけど、すっごくいい子! 突然ディスられたどこぞの木田の肩はビクンと跳ねた。それは床に座り込む志穂も変わらない。
「では、では、本題に戻しましょうか。妹さん、あなたはどうして動画をいま撮り始めたと決めつけたのです?」
「そんなの、あんたがそれらしい話振って……慌てて、お兄さんの取り巻きのビッチシスターズが点数稼ぎに撮り始めたんでしょ、浅ましい!」
自分の浅ましさを棚に上げて、麻利衣は吐き捨てるように、ビッチシスターズと名指しした3人を見る。
うん、どうやら佐々木を筆頭に琴音とミキティーナのことらしい。君のビッチ姉さんならいざ知らず、彼女たちはビッチの欠片もないけどね。
「あらら、ミキティーナ。どうしましょう、私たちシスターズですって。それはこういう意味かしら? つまり、私たちはダーリンを中心としたア〇姉妹のして認知されたという喜ばしい事かしら? どうしましょう、身に覚えがないものの、そういう目で見られてるのは悪くないと思わない? これは俗に言うハーレムと言うやつね。自分がその構成員になる日が来るなんて感慨深いわぁ」
「何がどう感慨深いんだ? 委員長‼ いや、ミキティーナ呼び梶っちだけな? それからあーしまで巻き込むな! 〇ナ姉妹は委員長と佐々木、それから関っちで十分だろ!」
あれ? 関さんもメンバー入り? いや、それは流石に申し訳ないけど、来るものは拒まずと申しましょうか……
「へっ⁉ 私も選出されてんの⁉」
「なに言ってんの、関さん。あなたア〇姉妹の長女よ。ちなみに背の順ね」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って! そこは長女私じゃない⁉ ほら、実際さぁ……カノジョだし……(テレっ!)」
出た……佐々木の謎主張からのはにかみムーブ。どこに照れる箇所ある?
「はははっ、佐々木さん。私ったら大爆笑。なんで勘の悪いあなたが長女なの? いやむしろビッチシスターズ除名よ除名!」
「おい、委員長なんでビッチシスターズって名称、気に入ってる感じなんだ? それにしても佐々木。お前も漏れなく録画ボタン押されたろ?」
「録画ボタン……スマホの? あっ、マジだ! なんで録画状態なの⁉ 私のポッケの中撮影中なんだけど!」
「あっ、佐々木ちゃんだけ気付かなかった感じなの? やっぱしね……」
「なに、その謎の上から目線! 高坂のクセに、説明しなさいよ!」
「いや、佐々木さん。それは普通にわかるでしょ? じゃないと私いきなり梶君の膝の上に座ったりしないよ? その子の気をそらすためよ」
「いや、いや、いや、気そらされたのは私ですが⁉ 関ちゃんに軽い殺意湧きましたが? 敢えて言うと、関ちゃんに家の柱で足の小指ぶつける黒魔術掛けましたが? なに、誰か説明してよ‼」
佐々木はそのきれいで長い手足をバタバタさせて騒いだ。それとは対照的に呼吸してるのかさえ、わからない程追い込まれた麻利衣がひとりごとのように呟いた。どうせならこのまま呼吸を止めてくれたら、世界平和に繋がるかもなんだけど、死なれたら死なれたで後味が悪い。
いや、ショック死するほど、デリケートに出来てないか。
「あの時ですか、あの『ケータイ見せてよ』の時ですね。そうですか、あの時からこうなると、読んで罠を張って仕込んでたんですね、お兄さん……お兄さんケータイ見せた女子の録画ボタン押して録画させたんですね……」
「失礼。口を挟むご無礼を許してください、梶氏」
「あっ、いえ、どうぞ」
「恐縮です。えっと、ここからは私が解説しましょうか。あの時、梶氏が取った『録画ボタン』を押すという策略は実に素晴らしい! 感服しました! しかもしかも、あくまでも次善の策です。二段重ねの策! もう、唸るしかありません! わかりますか? もし、妹さんがあの時すんなり梶氏にスマホを、正確にはスマホデータを開示していたら、正直私の出番も、こんな回りくどいやり取りも、お姉さんをここまで巻き込むことはなかった。妹さん、あなた自身再起不能まで追いやられることはなかったはずです。残念です」
この言葉の意図がわかったのは何人いただろうか。
それは兎も角として、少なくとも佐々木を除く面々がそれぞれの角度で録画し、一連の自白とも取れる行動と高坂のスマホを叩き割った場面はちゃんと録画出来ている。普通に考えてみれば他人のスマホを叩き割る時点でアウトだ。
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