第13話 ケータイ見せてよ。

「じゃあ、信じて欲しいなら


 その言葉に麻利衣は凍り付く。予想通りの反応。いつもは志穂の手前、手のひらで踊らされてるフリをしていたが、今回はそんな忖度はいらない。狙いは今生の別れなんだから。


 思えば今までコイツは色々ヤラかしてくれた。初めて志穂に連れられ、家に行った時からそうだった。俺と志穂はまだ高1だったから、麻利衣は中3で受験を控える冬休みのこと。


 出会った瞬間からだった。はっきり言ってその言葉に尽きるし、この言葉だけで説明は十分だと思う。


 そもそもおかしいだろ、姉の彼氏が来ること知ってて、ペラペラのキャミソールに極端に短いミニスカ。小学4年生なら冬なのに元気だねで済む。


 姉のを突いてコーヒーを出してくれるのはいい。だけど、肩ひもをご丁寧に片方ずらしたり前かがみになったりの色仕掛け……


 最初は偶然かと思ったけど度重なるとコメントできない。出会った瞬間芽生えた嫌悪感。好きな子の妹相手に「おおっ!」とはならない。考えればわかることだ。


 まだそんなこと言ってるのかと笑われるかもだけど、この当時は志穂のことが大好きだった。だけど、俺も男子だしこの状況が「誘われてる」くらいはわかった。自意識過剰ならどれだけよかったか。


 このシチュエーション。安っぽいエロ漫画仕立て……その当時の俺は思った。いや、姉がキッチンで用事してる間に、どうとかなんて普通の頭ならない。


 だってこっちは節度ある童貞なんだから。しつこいが、その当時大好きだった志穂の妹さんに手を出す可能性があるかと言えば。あるわけない。考えもしない。


 もちろん今でもない。いや、敢えて言葉にするなら、今なら更にない。あまりにもエロな方にカスタマイズされ過ぎている。


 エロ漫画の世界では姉妹丼なるカテゴリーが存在するが、実生活でそのカテゴリーに進出する者は、余程の勇者か破滅願望がある男だ。


 そもそも、現時点においても志穂にさえ手しか握ったことがない。いや、だから寝取られたのかとも思うが、交際している姉より先に進むなんて俺の常識としてはない。


 先どころか1歩たりとも進む気なんてない。それは姉に捨てられた(泣)今でも変わらない。


 もし、姉と別れてワンチャンあるとか考えてるなら、シ〇で欲しい。麻利衣とのワンチャンなんて俺からしたら、チャンスどころか大ピンチ。


 それと姉である志穂からのプチ情報。


「あの娘私のもの欲しがるから、気を付けてね(笑)」


 いや、志穂さん。笑えない。妹さんの下の毛を浮かべられたコーヒーなり、紅茶出されてる身になって。しかも! しかもだ! 飲むまでその場を離れない! 最初は失敗かな、なんて思ってた。


 だけど3回目くらいで初めて指摘した「あれ、麻利衣ちゃん、その……毛が入ってるけど」って。そしたら「気にしないで、お兄さん♡」だと?


 正直殺意しかない。それ以降澤北家で出される食べ物すべてが、要警戒食材に認定された。俺も悪かった。妹の痴態ぶりを報告しなかった。したら、志穂は平謝りに謝っただろう。だからしなかった。


 だけど、聞いてほしい諸兄。自分の陰毛が、俺のご褒美になるなんて考えてるクソメスガキなんて、憎悪の対象でしかない。そもそも、その発想に吐き気がする。ジンベイザメさんみたいな顔しやがって、ジンベイザメさんに謝れ!


 長々と語りましたが、こんなのは氷山の一角ですから‼ それを踏まえての縁切りなので、ご了承ください。


 そう「じゃあ、信じて欲しいなら」のくだり。


「でも、ケータイは個人情報ですから」


 麻利衣の青い顔が更に引きつる。攻めるのは得意だけど、攻められるのは苦手らしい。可哀そうなんて感情皆無だから追い込むけどね(笑)


「そうなんだ、じゃあ君はウソつきなんだね?」


「えっ?」


「だって、そうでしょ? 俺のためならなんだってするって。?」


「そ、それはそうですけど! 女子なら嫌だと思います‼」


 出たよ、出た‼ 何様なんだ? なに自分が女子の代表みたいな口きいてんだ? 少なくとも俺が知る女子さまは、トッピングに下の毛は使わないし、そんなの1ミリも、バえない! そんなミステリーなイ〇スタ見たことない!


「佐々木~」


「なに、梶?」


「スマホ見せて。俺のも見せる」


「いいよ~、あっでも……やっぱダメ!」


「なんでさ」


「だ、だって、だって! さっき撮ったツーショットもうホーム画面に設定してる!『まいん』のアイコンも……化学の授業中にね、加工しちゃった〜〜浮かれてる風で恥ずかしい〜〜(てへっ)」


 なにこの金髪娘、かわいい。そんなこと考えてると佐々木は慌てて耳打ち。


(あのあの、梶~~私だってお年頃だから、見るよ? その履歴……朝チュンものとか)


(朝チュンとか、逆にアリだろ!)


 よっしゃー! みたいな顔して上機嫌な佐々木はスマホのロックを外し預けてくれた。俺は麻利衣の方を向き佐々木のスマホを見せた。ドヤ顔で。


「そ、それは……ぐ、偶然その人はそうしただけですぅ! 他の方は絶対ないですぅ!」


 相変わらず鼻に抜ける小さな「ぅ」が癇に障る。大きい声では言えないが○ネばいいのにと思うくらい嫌いだ。だけど、確かに現状佐々木は彼女だから、見せてくれてもおかしくない。するとつっけんどんに琴音がスマホを差し出した。


「笑いたければ笑えばいいわ、ロックナンバーはその……ダーリンの生年月日。壁紙は……さっき盗撮したダーリンの横顔。もし肖像権とかの問題が生じるようなら、それ相応の対価を支払う準備があるわ」


 そして謎のはにかみ。これはこれでかわいい。麻利衣は生唾を飲み込むくらい焦っていた。どうやら俺の勘は当たったらしい。


 やっぱ、


「どうする? ふたりも見せてくれたけど。ミキティーナも見せてくれる気満々だけど? 今なら、俺とことを条件に、これ以上追及しないけど?」


 しかし、間の悪い時はある。ここまでやっておいてなんだけど、出来たら穏便に終わらせたかった。穏便に笑顔でとどめを刺したかった(笑)でも、間の悪い時に間の悪い人物が話し掛けてきた。


「その……麻利衣? なにしてるの、こんなところで」


 現れたのは、妹と変わらず顔を真っ青にした志穂だった。神経質に寄せられた眉間の皺。顔色を伺うような視線。自信のない表情がまるで別人みたいだ。先程は「間が悪い」と言ったが、実はグッドタイミングなのかも。


 どうせ、ふたり共血祭りにあげるんだ。同時の方がさぞ燃えるだろう。
















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