第20話 興味深い二択。
「再起不能だなんて脅しても、別にって感じですが。だいたいスマホデータってなんですか? そんなヤバい動画データなんかないですよ、姉のケータイにならイケメンとの『ハメ撮り』とかあるんじゃないですか? お兄さん、見たいですか愛しい人のハメ撮り(笑)?」
もう、麻利衣はここまで来たら強がるしかない。佐々木以外の琴音、ミキティーナ、関さんがそれぞれの角度で動画を撮影していた。合成だとか捏造だとかの言い訳はきかない。
それにしても、ここで誤爆か……ははっ、なかなか堪える。これでしばらく志穂のハメ撮り映像が脳内で再生され苦しむんだ……マジでメスガキだ。俺がここで凹んだ顔したらさぞメシウマだろう。
「妹さん。話をそらすのに必死ですね。俗に言う『必死スギ、ワロタ』ってヤツですか。ご存じなんでしょ? 梶氏が求めているデータ?」
「さぁ、なんのことやら……いくら姉妹とはいえ、姉のハメ撮り映像までは共有されませんよ? それとも私のエッチな自撮りですか? なぁんだ、お兄さん。私の自慰行為見たいんだぁ(笑)そんなの動画じゃなくて、生で見せてあげますよ?」
「あんた! 黙って聞いてればバカなの!」
金髪碧眼娘は髪の毛を逆立てる勢いで怒り狂う。とはいえいまいち迫力に欠ける。だけど、こういう前に出る姿を見ると、佐々木がいいヤツだと改めて思う。少々メンタルのヤラれてる俺にとって、こういう庇ってくれる行動は心のどこかにしみた。
「佐々木さん、バカなのは確定してます。なので、お静かに。一応自習時間なので。それから、実に興味深い二択を思いつきました! 梶氏、ご質問してよろしいですか?」
「えっと……どうぞ」
イイ感じに怒っていた佐々木は古賀さんに注意され、すぐにシュンとした。クラス最大派閥の中心人物とは思えない。まぁ、逆にこういう素直なところがあるから、いつもクラスの中心なんだろう。
「ありがとうございます。では妹さんに影響を受けて、メスガキ風な質問をします。いいですか? ダメなら今言ってください。質問聞いてナシはなしです。どうされます? 答えれる範囲とかもなし!」
「えっと……いいけど、なに?」
古賀さんは実に、そう実に神妙な面持ちであごに手を添え、真剣な眼差しで俺を見ながら、小首を傾げた。ただ、ほんの少し口元がいたずらっぽく上がったのは見逃さない。目は口程に物を言う、しかし口元は真実を語る。明らかにいたずらをしようとしてる。
「梶氏。二者択一です、どちらかを選んでください、いいですね?」
「はい」
「では遠慮なく。もし、妹さんが言う自慰行為を見ないといけないとして――」
「見ないといけない……?」
「はい。妹さんの自慰行為を見たいですか、それとも私、古賀
「なにバカなこと言ってるんです? クラスのモブ先輩~~なくないですか? 先輩を選ぶ理由? 私ですよ、わ・た・し。実際私お姉ちゃんと違って中古じゃないし~~いや、ここは敢えて中古でも、お姉ちゃんの方がモブ先輩より需要あるんじゃないですか? ほら、汚れがいいって一定の需要ありますし?」
なんなんだ、ここまで言わないとなのか? 確かに俺は志穂に裏切られた情けない寝取られ男だけど、そこまで足蹴にしたくない。それに、裏切られたというのは、俺側の感想で志穂には志穂の言い分があるかも。
だけど、それはふたりの問題で、このメスガキ妹に中古呼ばわりされる筋合いはないし、汚れというなら薄汚れた精神が、今は顔にまで出てきているお前の方だろ。
「そうだな、ここは古賀さんでお願いします」
「よっしゃ! 聞きましたか⁉ 汚ギャルさん‼ 私の完全勝利です‼ な、なんでしょうか、この高揚感は⁉『ビクトリー!』と叫びたい気分です! いやいや、身を切る思いで自慰行為などと言ってみたものの、流石にクラスメイトの前では恥ずかしいもの。恥を忍んでの勝利は格別ですね……あっ、梶氏! 仮にの話ですよ? 実際今から自慰行為しろはダメですよ? めっ、です! めっ!」
照れながらの怒った顔。想像以上にかわいいなぁ……こんな緊迫した事態だけどなんか和んでしまう。これが人柄というもので、麻利衣にはないものだ。元カノだから庇うワケじゃないけど、志穂は人に配慮出来る子だったと思う。
『だった』か……無意識で俺は志穂を過去形にしつつあるなぁ……
「などと脱線しましたが、散々私にマウント取っておきながら、実はまったく梶氏に見向きもされない現状に私、汚ギャルさんに代わりさめざめと泣きましょうか? クラスのモブ先輩と蔑んだ私に負ける気持ち、さぞ惨めでしょう(笑)お悔やみ申し上げます。さて、ここからカウンター攻撃です。どうしてわかったんですか?」
「何が? 主語がないとわかりません」
「そうですか、実はこうなんじゃないですか? 主語がなくてもわかってる、伝わってる。私そう見てますが?」
「まどろっこしい……用がないなら教室戻ります、もう半分終わっちゃいましたが」
「ここで、予言です。汚ギャルさん、あなたが教室に戻ることはないです」
「なにバカなこと言ってるかなぁ…監禁でもする気ですか?」
「いえいえ、先程の話です。どうしてわかったんです? スマホデータとしか言ってないですよ、私は。梶氏はデータのことすら触れてない「まいん」の履歴かもだし、通話履歴かも。むしろ『ケータイ見せてよ』から連想するのはこちらじゃないですか?」
「ちょ、なに言ってるかわかんない! 私帰ります!」
追い詰められて癇癪を起こした。じゃあなんで、わざわざ2年生の教室に来たんだ? このメスガキは、意味がわからないことしかしない。いや、意味はある。弱った姉……弱らせた姉にとどめを刺しに来た。あと単純に姉を笑いたかったか。
「俺も、古賀さんもスマホデータとしか言ってない。なのに君は『そんなヤバい動画データなんかないですよ』と言った。だから古賀さんがなぜだと聞いている、都合が悪くなると逃げるのか? 新しいヤリチンお兄さんが寂しがるぞ?」
「待って、待ってよ梶……古賀さん。それはないよ、感じ悪いメスガキだけど、澤北の妹。いくら何でも姉妹だよ? そんな家族を陥れるようなことするかな?」
「佐々木さんは純粋でお優しい。梶氏の新しい彼女になる訳ですね、でも残念ですが、佐々木さんの善良な感性はここでは、彼女には通じません。これはすべて確定されたこと、過去形です。つまり『学校の裏サイト』に澤北さんと木田くんがラブホに入る動画を撮影投稿したのは、澤北麻利衣です。梶氏はそれを言ってるのです」
「ど……いう、こと?」
憔悴しきった志穂は床に座ったまま、顔だけ上げて言った。まるで憐れみを乞うような目で。
「投稿する前の未編集マスター動画データを、スマホ内に保管してるはずだ」
絶対に言い逃れさせない。その為に長々外堀を埋めて来たんだ。ここで確実にこのメスガキを潰して、将来の禍根を絶つ。
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