第33話 私には冷たい……。

「梶〜〜(泣)ヤバい、おケツが割れそう……(泣)」


 関さんの剛速球をおケツで受け半泣きの佐々木を俺は保健室に搬送する。一応、澤北改め斎藤さんも保健委員なんだが、佐々木がデッドボールをくらった後、腹を抱えて爆笑した斎藤さんの救済を、佐々木はおケツを抱えながらも断固拒否。クラス対抗のサッカーをしている俺に白羽の矢が立った。ちなみに俺も保健委員。


「お前さぁ、女子としての恥じらいないの? おケツ、おケツって。だいたいおケツ元々割れてるだろ?」


「いいじゃない! ケツって言ってないでしょ!『お』付けてるからいいの! 丁寧語でしょ! 梶もさ、そんなこと言うならあの脳筋バレー娘の剛速球、おケツで受けてみ? 泣くからマジで(さめざめ……)」


 なんか、なんだかなぁな理由で俺は佐々木に肩を貸した。まぁ、痛そうなんでかわいそうだけど……なんだろ。寝取られ『ざまぁ復讐』のため、俺と佐々木は手を組み付き合うことになったのだが、それからというものクラスのトップカーストらしいオーラは見る影もない。


 佐々木ってこんなお笑い枠だったのか? 本気で首を傾げる。いいやつなのは変わらない。見た目も美少女なのも。だけど、なんかこれじゃない感が半端ない。いや、逆に普通のヤツなんだと安心感はあるけど。


「梶〜〜歩けない〜〜おんぶして(泣)」


「いや、別にいいけど、球当った場所もろ押さえるぞ?」


「はっ⁉ それは無理! じゃあ、お姫様抱っこは?」


「いや、どこの世界で学校の廊下お姫様抱っこして保健室に行くやついる? 別にいいけど、誰かに見られて『コイツのおケツ割れてるから』とか言い訳、面倒なんだけど……」


「梶は私にはマジ冷たい(さめざめ…)」


 普通にしてたらクラスのトップカースト。金髪をハーフクラウンアップにした碧眼のハーフ美少女なはずなんだが、滝のような涙でマンガ調で泣く姿から、美少女臭は全くしない。佐々木のことを「美少女なのに飾らないところがいいよなぁ~~」みたいな寸評を耳にするが、少しくらいは飾って欲しい。佐々木は俺の中で顔芸要員になりつつある。


「失礼します~~六花先生~~あれ?」


 保健室に辿り着いた。佐々木には悪いが、おケツにデッドボールを受けただけ。まるで負傷兵バリの憔悴しきった表情と足を引きずるさま。六花先生が不在でよかった。危うくコイツならモルヒネを要求してただろう。そしてあと少しで「この戦争が終わったら故郷で結婚するんだ……」みたいな意味不なフラグをぶっ立てるだろう。


「六花先生いないみたいだから、とりあえず座って待つか?」


「うう……っ、梶~~ぃ。痛すぎて座れましぇん(泣)やっぱ抱っこ~~」


「いや、普通に重いから。そうだなぁ……誰も使ってないならベット借りたら?」


「うん……そうする。梶~~っ、どうしよ、いつもより2割増しでおケツ割れてたら~~お嫁に貰ってくれる?」


「なにその当社比20%増しみたいなの? どう20%増しなの? 横に? もしかして深さ⁉ マジやべぇじゃん」


「わかんない~~見て~~」


「いや、場所が場所だからな。あとここ学校だからな? 斎藤さんみたく停学になるだろ(笑)」


「うぅ……梶って何気に斎藤さんイジり好きだよね……聞いたよ、放課後デート。マジなの?」


「放課後デートじゃねぇよ。誰から聞いたんだよ?」


「うぅ……委員長と澤北、じゃないや斎藤に。しかもドヤられた~~(泣)」


 アイツには秘密という概念がないんだろうか? 情報管理も下半身同様ガバガバじゃないか。まぁ、斎藤なりの自己主張なんだろうが『なんちゃって彼女』の佐々木には効果絶大みたいだ。そそくさと潜り込んだベットで顔だけ出してジト目。いや、本当に顔芸要員になってるけど。


 佐々木は安定の顔芸を披露した。


「お前らが斎藤構えって言うからだろ」


‼ いや、そこまで構うなら、まず私からじゃない⁉ 放課後デートよ⁉ 私まだしたことがな~~い‼ やっぱり昔の女がいいの~~⁉ わぁ~~ん‼ 週末は委員長んち行くんでしょ‼ ビーフストロガノフに釣られてさ‼」


 なに訳わからない方面に拗らせてる。いや、確かにこの澤北事変とでも言おうか『学校の裏サイト動画』で真っ先に味方してくれたのは佐々木だった。志穂に『ざまぁ』をするために彼女になった。


 でも、実はあまり実感はない。佐々木とは普段から少しは話をしていた。だけど、彼女はクラスのトップカーストで、誰に対しても面倒見がいい。


 だから、なんて言うか……同情というか、寝取られた俺が可哀そうで表面上彼女をしてくれてるのだと、どこかで思っているし、友達として見ていたが、彼氏彼女としてのつり合いが取れてない気がする。それくらい俺はフツメンで佐々木は美少女だ。


 そういう意味では、独自路線を突っ走る琴音や関さんの方が現実的だし……でも、恋愛まで踏み出せないのは雪ちゃんへの思いと同時に、姉愛莉ちゃんへの配慮があった。志穂の寝取られの件は、まだ生傷だけど、どこかで麻利衣に受けた仕打ちや両親の離婚が可哀そうに思えたし、やさぐれた見た目が少しほっとけない。


 まぁ、志穂アイツのことだから若干を狙ってるんだろうけど。


「ところで。おケツのどこに当たったんだ? 尾てい骨とか骨盤か? 折れてたりしないだろうなぁ……」


 冗談ばっか言ってる場合じゃない。確かに佐々木が言うように、佐々木に冷たい気がしてきた。そんなつもりないのだけど、もしかしたら『なんちゃって彼女』とか言っておきながら、気を許して甘えてるのかも知れない。もしそうだとしても、ここはけが人優先だ。


「うぅ……それは大丈夫。おケツ……おしりの頬っぺたのトコだから」


「おしりの頬っぺた? じゃあ、骨は大丈夫かもな……」


「梶、いま大丈夫とか思ったでしょ?」


「思ってないし、デカいのか? そんな風に見えないが」


「まぁ……たしなむくらいはねぇ」


「見えないな」


「見る?」


「なぜ、この流れでお前のおしりを見る話になる?」


 いや、正直見たくないことはない。だけど、残念。保健室。


「だって、油断したら梶、斎藤のパンツ脱がすでしょ?」


「ハハハっ、ねぇよ!」


 俺はミノムシみたいに布団の中で丸まる、佐々木のおしりを軽く叩いた。


「痛い‼ おしり叩かないで‼ これ以上腫れちゃうでしょ‼ うぅ……痛い」


 あぁ……眼の淵に涙浮かべる程なのか……なんかごめん。


「あぁ……悪い」


「うん。梶さぁ……」


「ん?」


「シップ貼って」


「シップ? っておしりに俺がか⁉ いや、無理でしょ、普通に‼」


「なんでよ、けが人だよ~~」


「いや、保健室! 公共の場な? エロ漫画みたいな要求するなよ、どうすんだ、俺がその気になったら」


「大丈夫。梶って意気地なしだし……」


 いや、俺が意気地を出したらどうすんだ? しつこいが保健室だ。しかも只今リトルは営業外で休止中。またのお越しをお待ちしております。


「おい! そうだけど、しんみり言うな、しんみり。とりあえずシップ探すから自分で貼れ。カーテン閉めるから」


「貼ってくれないの? 彼女だよ?」


「いや、お前さぁ……彼女はいいけど、いきなりおしりじゃないだろ……手をつなぐとか」


「斎藤とは手繋いだ?(泣)」


「うわっ、なに⁉ 突如、めっちゃ面倒くさいんだけど!」


「しょうがないじゃない! おケツが割れそうで、弱ってるのよ! 彼氏ならおしりのひとつやふたつ、よしよししてよ、よしよし!」


「佐々木。私が不在をいいことになに、梶を誘惑してるんだ? 保健室だぞ? 停学したいのか、停学!」


「はひっ⁉ 六花先生⁉」


 俺は気付いていたが、カーテン越しの佐々木は六花先生が戻ってきたことを知らなかったようだ。






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