第47話 会食。
一応母同士の話し合いは済んだ。
どう、母同士なのかは不明だけど、琴音のお母さんにはまた別の日に説明しよう。今日はあまりにも外野が多すぎる。桜花も一応空気を読んでるみたいで「私が彼女なんですけど!」とか叫ばない。
こういうところが性格の良さというか、育ちの良さを感じる。いまこの和やかな空気を壊す必要はない。ただ目が合うと「ふーんだ!」みたいに目を逸らす。子供か。
志穂は志穂で、よくわからん俺の育ての親ポジションにきれいに収まっている。節度ある範囲なら俺に口出ししない、そんな感じだ。しかし1番節度がない志穂が節度とか、どうなんだろうという、ツッコミどころ満載だけど。
「ちょっと、あんた達……なにこの白と赤しかないお寿司のチョイスは?」
先程、桜花と琴音が注文してくれた、回転寿司系の出前が到着して志穂が呆れる。見た感じ志穂が言うようにマグロかイカしかない。視力が悪い志穂はタレ目を細めながら毒を吐く。
「誰よ、この謎のマグロ押し?」
「あっ、私です! ほら、マグロ好きでしょ、みんな? 梶も好きよね?」
「まぁまぁかなぁ……」
「まぁまぁってなによ! せっかく委員長のお母さんが注文してくれたのに!」
「いや、注文したのはお前だろ? 琴音のお母さん巻き込まないこと!」
「マグロはいいわ。佐々木馬鹿だし。で、この半数のイカ誰よ? まさか、このヤラカシも佐々木なの?」
「それ私」
「委員長? 別にいいけど、なぜ同じイカなの? あるでしょ? 大葉が乗ったヤツとか、梅肉が乗ったのとか。なんで謎の紋甲イカ推しなの? もう近海の紋甲イカ捕り尽くす勢いじゃない」
「好きだから。じゃあ逆に聞くけど、斎藤さんならなに注文してたの? どうせタコ一色でしょ?」
「ぶーっ! 残念。私なら玉子焼き一色よ! 見渡す限りの黄色!」
「あの……最初からセットで良かったんじゃ……その4人前とか、5人前とかない?」
「あっ……どうしよ、梶。私ら関さんに素で指摘された……1番普通じゃない子に!」
そんな訳で俺たちは、ほぼマグロとイカだけのお寿司をご馳走になった。これじゃあ、ほぼいつもの顔ぶれじゃねーかよ、と思いながら。
***
きょう琴音宅に来たのは、元々約束していた『ビーフストロガノフ』をご馳走になるためと、ご両親に挨拶するため。挨拶といっても「いつも仲よくしてもらってます」くらいなもので、交際の挨拶とかじゃない。一応、彼氏彼女みたいになってるけど、正確には恋人未満というのが正しい認識だと思う。
志穂の件があって以来、俺自身臆病になっている。幸いそれを理解してくれてる桜花と琴音は「彼女」という肩書だけで満足してくれてる。それと、俺の中で解決しないと行けないことが何点かある。ひとつは雪ちゃんのこと。
幼馴染の彼女とは常にいろんなことが曖昧なまま、今日まで来ていた。この先もこのままかも知れない。幼馴染としてはそれでいい。だけど特別な関係に進むなら、そろそろどうするか決めないと。
それは間違いなく、愛莉ちゃんを巻き込んだ形になる。場合によれば、愛莉ちゃんと大喧嘩しないと。だけど、俺にも雪ちゃんにもそこまで踏み込む材料が今までなかった。このまま何となく近くで仲よくいれたらいい。そんな感情が俺たちにはあったと思う。
だけど、雪ちゃんは高3で来年には卒業を控えていた。このままいけば、間違いなく女子バスケの強豪大学への推薦が決まるだろう。そうなれば県外への進学もある。生まれてこのかた離れたことがない幼馴染。俺の出方次第で、この先どう転ぶかわからない。
俺だって来年は高3で進路次第では、雪ちゃんとは全く違う地域に進学するかも。そうなれば4年後お互い地元に戻らずに就職となれば、お盆や正月に会う程度の関係になるかも。
この事は今考えても仕方ない。雪ちゃんがどう思ってるかわからないし、バスケが関わるなら出たとこ勝負な面もある。もし雪ちゃんと付き合うなんてことになるなら、俺は雪ちゃんを追いかける感じで、近くの大学を目指すだろうし。
向き合わないといけない問題はまだある。
「梶さん。その…少しいいかしら」
食事を終え、
相談した琴音も、これから相談するお母さんにも隠す必要はなかったのだが、いま現在、和田家には桜花、志穂、関さんまでいる始末。女子でいないのはミキティーナだけ。恐らく桜花が誘っただろうがストーカー行為に加担するほど暇じゃないだろう。
本来なら安全を期して今日はナシになるところだが、お母さんが気をきかせてくれたのだろう。俺の悩みをいち早く取り除いてくれようとしている。ここは好意に甘えたい。俺自身心配事とは一刻も早くさよならしたかった。
「ちょっと個人的な話があるから、用事が無いなら先帰ってていいぞ。俺も済んだらすぐ帰るし」
特に桜花と志穂に言った。言葉には嘘はない。この後長々と居座るつもりはなかった。気を使ってくれてるのはわかるが、初の和田家訪問。緊張してそこそこ疲れた。相談を聞いて貰って自宅に帰り、熱いシャワーを浴びたいところだ。
***
ダーリンはお母さまと一緒にお母さまの書斎に向かった。流石に両親の前で「ダーリン」とは呼べない。よく考えたら私、臆面もなくクラスメイトの前で「ダーリン」なんて呼んでるわね……ある意味、流石よ私。とエールを送りたい。
だけど、少し困った。佐々木さんと斎藤さん。ダーリンがやんわりと「帰れ」と言ったことなんてまるで理解してない。意外にも関さんの方がおろおろしてる。鈍感力が叫ばれる昨今。ここまでの鈍感力は求めてない。
しかも斎藤さんに至っては「食後の口直しが欲しいわ」と暗にコーヒーを要求。でも思うんですけど、口直しが必要なのはあなたの毒を吐く口の方であって、後口じゃないと思うの。こんな口の悪い子だとは思わなかった。思ってること全部口にしたら、私ですらダメだと思う。
まぁ、コーヒーを飲んでる間は大人しいでしょう。ダーリンの相談してる時、お母さまの書斎に近寄らさないようにしないと。相談の内容が内容『ED』なのだ。恐らく男性にとっては一大事。それを相談頂いた私。彼女冥利に尽きるというもの。
でも、アレですわね……お母さまが相談に乗ってくれるとはいえ、専門外。心配がないと言えばウソになる。私にはかなりソフトな相談……「立たないんだ」みたいな。いや、ソフトではない。でも、同級生で異性の私に最大限聞かせる限界はここまでだろう……
たぶん、後でお母さまに聞いてもはぐらかされる。守秘義務。そんなのがあるのはわかってるけど、私は私でダーリンの役に立ちたい。リビングは静かだ。大人しく食後のコーヒーを楽しんでるのだろう。なら、私がすぐに帰る必要はない。
私は廊下をすり足で移動し、お母さまの書斎を目指す。聞き耳を立てるなんてはしたないのは重々承知。でも、気になる。心配でしょうがない。お母さまに相談して、もし力になれなかったとしても、ダーリンならきっと気を使って「治った」って嘘をつく。
なんにしても、情報取集が寛容。ここは抜き足差し足忍び足で……⁉
(な、何してるの⁉ 3人とも‼)
お母さまの書斎の扉にはリビングでコーヒーを啜ってるはずの3人がスパイさながらに、ドアにへばり付いていた。正確には佐々木さんと斎藤さん。関さんは……一応止めようと試みたようですね、半泣きで。
いや、この行動想像出来たわ。
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