第30話 目覚めが悪い朝。

 志穂と木田の停学が明けて登校してきた。ふたり共容姿に大きな変化があった。木田はきれいさっぱり丸刈りになっていた。中学の時同じだったヤツが言うには相当厳しいご両親らしい。ラブホに出入りした挙句、言い訳三昧の木田に目に見える罰を与えたようだ。これが虐待かどうかは家庭の問題で俺には関係も興味もない。


 志穂は髪を染め、佐々木と変わらないくらい金髪になっていた。やさぐれ感は否めないが佐々木曰く、中学の時はこうだったらしい。付け加えると苗字も澤北から斎藤に。どうやら以前から夫婦仲がよくなかったらしく離婚。志穂は母親と、麻利衣は父親が引き取った。


 くわしく知らないが、志穂は母親の連れ子らしい。麻利衣は父親の連れ子なのか、それとも父親違いの妹なのか。まぁ、どっちでもいい。俺には興味がない。意外だったのは、父さんと愛莉ちゃんが麻利衣の退学に反対したらしい。


 理由は後で聞かされた。麻利衣はあまりにもヤバすぎる。このまま野に放ったら必ず仕返しにやってくる。目に見えない恐怖や嫌がらせに怯えるなら、目に見える形で管理しようになった。それがウチの強豪女子バスケ部に強制入部。


 まだ、停学中で登校してないが、運動が見るからに出来ない麻利衣にとって、女子バスケ部の練習に参加するだけで、体力的にも精神的にもボロボロになるだろう。特にひどいしごきなんか必要ない。一般練習だけで昼飯も食えなくなるほどキツイ。


 あんなキツイ練習を愛莉ちゃんや雪華ちゃんが、笑顔でしているのが信じられない。もしかしたら、とんでもない姉や幼馴染を持っているのかも。まぁ、少なくとも前みたいな異常行動を取れる余裕はないだろう。あと直接誰かが手を下さなくても、女子バスケ部部員の目がある。


 女子バスケ部にとって俺は、憧れのキャプテンの弟であり、付け加えると副キャプテンの雪ちゃんの幼馴染。麻利衣の汚チョコによる嫌がらせは知れ渡っていた。ふたりからいじめ厳禁の指示は出ているが、厳しい監視の目に晒されているのは変わらない。女子バスケ部は最大の部員数を誇るのだから、校内で居心地がいい訳がない。


 普通なら、退学してどこかの全寮制の私立でも行きそうなものだが、父さんが撮影した動画。なんでも、志穂の元父親が志穂を殴った動画があるらしく、麻利衣が卒業するまで学校を辞めさせないことを条件に、公開していない。県会議員の元父親にとって自身の身内への暴力行為は選挙に響くのだろう。


 そんな訳で、微妙なバランスが保たれていた。佐々木や琴音、ミキティーナの突き上げで俺は不本意ながら、志穂を孤立させないため自分たちのグループに誘うことになった。確かに不登校なんかになられては目覚めが悪い。


 そうそう、目覚めが悪いで思い出した。今朝の目覚めは今世紀最大級に目覚めが悪い。ちなみに俺は今ベットの中。まだ起きるのに30分以上ある。最近色んな事があって、色々精神的に限界だった。そんなこともあり、思春期男子の朝の営みを長らくしてなかった。


 くわしくは触れないが性の衝動へのというか、性衝動の原因物質のというか、まぁそういうのだ。最近迂闊にも周りに女子が溢れている。この抽出作業を怠り、男子特有のというか、が休み時間に生じたら俺の高校生活はエンディングを迎える。なので何というか、予防的行為をしないとなのだが。


 色々おかしい。あるべき身体的変化が起こらない。朝にあるべき直立不動的な何かが起こらない。そう、が目覚めない。朝だというのに。いつもならリトル淳之介が先に起きてるなんてことは当たり前、むしろリトル淳之介に起こされるのもしばしば。


 俺は思った。最近疲れてるし、精神的に色々あった。例えば寝取られとか。実際寝取られなんて一生の内そうそうないことだ。それを高2にして経験したのだ。精神的ショックはあるだろ。仕方ない、ここは想像力ではなく映像に頼ろう。


 いつもは愛莉ちゃんにバレるとマズいので極力映像は使用しないのだが、背に腹は代えられない。学園生活を無事にやり過ごすには必要な行為なのだ。動画を見始めて約10分。それでもリトル淳之介は目覚めない。動画のシチュエーションが、女優がタイプじゃないからか? 


 俺のリトル淳之介は、そんな我がままをいうヤツではないのだけど……俺は仕方なくまだ見ぬ新ジャンルを求め、ネット閲覧を繰り返すのだが、一向に変化が訪れない。仕方ないので直接リトルを呼び起こすことにした。そしてあることに気付く。


 いや、元気なさ過ぎだろ……へたっとし過ぎだろ? どんだけ疲れてるんだ。俺は残念ながら動画に頼ることを諦め、いつも通り妄想の世界に浸ることにした。そんな訳で申し訳ありませんが、雪ちゃん。お願いします。俺は雪ちゃんの家の方に軽くぺこりと頭を下げ、行為に。しかし……


 おかしい。どう考えてもおかしい。雪ちゃんとの鉄板ネタなんだが? これで抽出出来なかったことは今まで一度もない。それなのに俺のリトルはうまく機能しない。こんなこと今までなかった。それか、あれか? 雪ちゃんが好き過ぎて、俺の精神が知らず知らずのうちにリミットを掛けているのか?


 あり得る。そうだあと数日もすれば、雪ちゃんのアレが終わり晴れて俺たちは大人の階段を登る日が訪れる。その来る日為に俺の精神世界が、自らにお預けをしてるのではないか⁉ あるある!


 しかし、なにせ俺は高校男子。やんごとない事情でになっては非常にマズい。ただでさえ、寝取られ男子と注目度を増している。寝取られたくせに、じゃんはダメ! 絶対‼


 そう、これは絶対に成し遂げないといけないミッションなんだ。そんな訳で、申し訳ないが雪ちゃんには想像世界から退場してもらい、新たな救世主を召喚しないといけない。


 ここは……スマン。佐々木、お願い出来るか? とばかり佐々木でエロい想像をするのだけど、いまいちピーンと来ない。オレ自身もリトルもまったくピーンと来ないのだ。


 ここは女優さんが悪いのか? そうなると琴音に頼るとしよう。怒った顔で自らパンツをチラ見してくれるのを想像するのだけど、リトルは俺のリトルはうまく機能しない。このあとミキティーナや、これは人道的にどうなんだろうという、ご批判はあるだろうが古賀さんの自慰行為まで想像したが……結果は芳しくない。


 いや、理由はわかっている。いつも協力を仰いでいる、女優さんをまだ呼んでいない。そう、ここ1年ほど朝のお供は彼女に任せていた。


 志穂だ。寝取られた彼女。麻利衣の言葉のせいで脳内では、予期せぬタイミングで木田とのハメ撮り映像が再生された。たぶんこうなってるのもそのせいだ。彼女だった志穂が寝取られたショックが思った以上に俺のピュアハートを侵食していた。


 お前が悪いんだからな。前置きをして志穂を使うことにした。するとあら不思議。目覚めすらしてなかったリトルが起きようとしていた。やっぱ慣れは必要なんだ。変に納得して抽出作業に移るが、ここぞという時に芯の部分と言うか、その辺りの力が抜けている。


 やはり脳内再生されてるハメ撮りが思った以上にキツイ。何より自分の中のリミッターが作動し、抽出には至らない。


 もう、これ以上俺の妄想ベットに呼べる娘はいない。そう諦めかけた瞬間。思い出した。あとひとりいることに。関さんだ。今まで関さんを妄想ベットに連れ込んだことはない。だけど……実は関さんに対しリアルな感触が体に残っていた。


『ケータイ見せてよ』の絡みの時、関さんは俺の太ももの上に座って俺の首に手を回そうとしていた。その時の関さんの体重や、柔らかいおしりの感触、シャンプーの匂いが脳裏に蘇った。それと共にクタクタになったリトル淳之介も息を吹き返した。


 ごめん、関さん。俺は無事関さんの笑顔で抽出作業を終えた。そんな訳で目覚めの悪い朝だった。



















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