第43話 ラブ・テイカー。
4限目が終わり、俺は琴音とアイコンタクトを交わし教室を出た。一瞬桜花の呼び止める声が聞こえたが、打ち合わせ通り琴音が足止めしてくれた。決戦を前に俺はトイレを済ませる。済ませて出てくるとミキティーナが立っていた。
「連れションの約束してた?(笑)」
「してねぇけど、ちゃんと誘えよ、冷たいなお前(笑)」
ミキティーナは小柄だ。俺もたいして身長は高くない。それでも20センチくらいの身長差。肩くらいの身長差の女子はそんなにいない。桜花は背が高いからいつも見ている景色が違う。
「佐々木、委員長に呼び止められてたぞ。なんかあんのか? アメ食べる?」
ポケットからふたつ取り出した棒付きキャンディのひとつをくれた。折角なので並んで食べる。傍目からはこれはこれでカップルに見えたりするから不思議だ。
仲間内ではミキティーナが1番精神年齢が上だろう。お姉さん的な立場で意見する。でも、お姉さん的なので言い過ぎたりしない。
愛莉ちゃんも少しは見習って欲しいところだ。俺に対しては過保護中の過保護。
「なんか言わされる感じなのか?」
俺は咥えた棒付きキャンディを落としそうになる。さっきの休み時間チャイムが鳴るまで廊下に琴音といた。だから琴音から何かを聞いたという事じゃないはず。
観察してそう感じたとなると相当勘というか、察しがいい。いや、違うかよく見てくれてる。見ようとしてくれてる。
なんか小さくて可愛いから抱き上げてハグしたいけど、毒吐かれて蹴られるんだろうなぁ……いや、それご褒美かも……
でも、まぁ……気にかけてくれてるのは嬉しい。前に出過ぎないミキティーナの距離感は尊い。
「言わされてる訳じゃない。はっきりとしないとってトコはある」
「あーしもそれらしいこと言ったけど、いいのか?
「俺もそう思ってたけど、時間が解決してくれるとは限らないかなぁって。いや、余計に期待させてややこしくなったりってない?」
「あるあるだなぁ〜〜でも、その方がお前らしいけど?」
「優柔不断がですか?」
「だな!(笑)今の感じ、仲間内の雰囲気も悪くないと思う」
「同じ。でも、なんかその為にもしないとかなぁって。はっきり」
「決断を鈍らせたか?」
「いや、大丈夫。遅かれ早かれはっきりさせるなら、変に期待させないほうがいい。」
「わかった。昼休みにするのか?」
「出来れば」
「偶然佐々木が出現しないようにしないとだから、アイツ変な方向に正義感あるから、下手に庇って後で泣くと思う。一応場所聞いとく」
「屋上にいることが多いらしい」
「了解」
ミキティーナは小さな手を振って去って行った。親戚のお兄ちゃんになった気分だ。こんな従妹欲しい。従兄権限でゴスロリとか着せたい。
冗談が言えるのはここまでだ。ミキティーナは俺を観察して、この昼休みに何か行動すると見たのだろう。その前に肩の力を抜いてくれた。
おかげで背伸びもせずに、等身大の俺で志穂に向き合える。
***
「なに、私の個人情報漏れてる感じなの? 昼休みはボッチで屋上で泣いてるのバレた?(笑)」
やさぐれ髪をかき揚げ、タレ目で笑う。その仕草に色っぽさを感じてしまう。視力が悪いので、神経質に目を細める感じも嫌いじゃない。いや、こいつの嫌いな部分を探す方が難しい。それくらいこいつは俺の中に住みついていた。
「何なんだろうなぁ、この感覚」
「なに? なぞなぞ? それは恋の病よ(笑)」
「実際そうだと思う」
「あら、意外ね。否定しないんだ。こういう時は大げさにおどけて……なんだ、そういうことか。うん、なるほど。答え出しちゃったんだね。慌てなくていいよ、全然待つのに」
「そういうわけにもな」
「そう? ひとまず聞くよ」
「あぁ……ここに居るのは聞いてた。琴音に、でも不安だった。来てみてひとりじゃない、木田といたらどうしよって(笑)」
「ん……気持ちは、わかる。うん。ごめん、わかったつもりかもだけど。きっと『木田とはもう何にもないよ』とか聞きたいんじゃないよね? 不安与えてるんだ今になっても」
「さすが、元カノ。エスパーレベルで察しがいい。そうだなぁ、ぶっちゃけて言っていいか分からんが」
「うん」
「口では、態度ではどうこう言ってるけど、落とし所探してる」
「どんな?」
「お前をどう許そうかって……」
「はははっ、最悪だね……ごめん、ホントに私バカだわ。こんないい人にここまで思われて、あの結果なんて、本当サイアク。何がいいの、こんなクソビッチ? ヤリたいとかじゃないのはわかる。でもさ、自分で言うのもなんだけど、値打ちないよ」
「いや、バカなのは俺だろ?『何がいいの』って言うけど、何がダメなのって思ってる自分がいる。別に他の男と寝たぐらいいいだろって、言い聞かせてる自分がいる」
「あはははっ、梶君。ありがと、でもそれはオススメしない。自分に嘘ついてもいい事なんてない。梶君の悩み、この先抱える悩み予言しようか?」
「予言?」
「そう、予言。当たるわよ? 例えば一緒にいても他の男の事考えてるんじゃないか、とか」
「まぁ、うん」
「放課後とか、休みの日会えない時間。誰か他の男と会ってんじゃないか、夜とかホントに家から送ってきたメッセージなの? とか」
「それは……」
「そうでしょ? でもそれ乗り越えても、まだまだあるよ。ふたりが進展したとして、思わない?『初めてじゃないだろ、何人目、何回目なんだ?』って」
「まぁ……思う」
「うん。でね、それを私にぶつけられる?『お前が悪い』って、怒鳴れる? 無理でしょ? じゃあさ、結局おんぶに抱っこ。ぜ〜んぶ、梶君に許してもらって、受け入れてもらって、我慢してもらって……そうじゃないと成立しない関係なの、我々。生産的じゃないよね。ギブアンドテイクなんて存在しない。私は単なる
「そうかもな」
「そして『そうかもな』とかいいながらも、探してるんでしょ、私が受け入れる耳障りのいい言葉。オススメしない。佐々木も委員長もミキティーナもそれはいくらなんでも受け入れないよ。私可愛いですけど(笑)あの3人とは流石に等価じゃないよ? でね、私からの最後のプレゼン……はぁ~こんなキャラじゃないのよ? なんでこんなキラキラキャラやんないとなの? 全部君のせい!」
「志穂、それは俺から……」
「ダメ。いい女は自分からお別れ言うのよ? バイバイ、梶君。マジでごめん。ホントに好き……たぶん、これ愛してるって言っいいと思う。それくらい大切。でも、なんだろ、ダメね。なんでうまくいくなんて思ったんだろね。バカみたい」
「志穂……その」
「いい! いいの! これでひとまずエンディング! はい、行く! 振り向かずに行く! 行って佐々木か委員長によしよしして貰って! 一応私は関さんを推薦する! たぶん、梶君には彼女が1番いい! 絶対浮気しない! 男子とは!」
「えっと……女子とは?」
「それ聞かれても困る! 保証出来ない!!」
そんな感じで俺と志穂は別れた。なんとも締まらない別れ際だけど、俺たちらしい。
初めての彼女。初めての寝取られ。そして初めてのお別れを経験しても俺はたいして大人になってない。実感がない。
でも、こうなっても思う。相変わらず志穂はいい子で俺は自分の見る目があったと。
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