第21話 手に負えない域。

「えぇ〜〜⁉ モブ先輩は妄想拗らせて、私が裏サイトに投稿したっていいたいんですかぁ〜〜? 馬鹿みたいですぅ〜〜まさに妄想乙って感じぃ〜〜お兄さん、笑っちゃいますよね(笑)」


「いえ、だから。それは梶氏と私の共通認識です」


「なんですぅ? モブ先輩、ちょっとお兄さんに自慰行為選ばれたからって、調子こいちゃってますぅ(笑)」


「えぇ、何にしても選ばれるのはうれしい。汚ギャルさんは選ばれなかったから、こんなにも絡むのですか。ご愁傷さまですし、あと面倒くさい」


「もう〜〜モブ先輩、話通じない〜〜麻利衣ぇ、面倒なんで帰るぅ~〜」


「言いませんでしたか。あなたは教室に戻ることはない。予言です」


「もう、お兄さん〜〜モブ先輩変な方に行ってますよぉ〜責任取ってください、もう見られたくて見られたくて、先輩ますよ(笑)責任とれるんですかぁ?」


「梶氏。は……ご想像にお任せします。いいですか、私のは『めっ』です! こほん、冗談はさておき。もう流石に皆さんも飽きてきたでしょう。恐らく現時点で汚ギャルさんが、投稿犯じゃないと思ってるのは佐々木さんくらいですか」


「えっ、私⁉ 名指し⁉ いや、薄々は感じてると思ってるけど……(チラッチラッ)」


「すみません。名指しではなく、ご指名でした」


「ご、ご指名⁉ な、なら仕方ないかなぁ〜〜ご指名ってなんか人気者みたいでうれしい〜〜(てれっ〜)」


「古賀っちって、佐々木の扱いうまいな……」


「扱いというか、あしらわれてるだけよ、ミキティーナ」


「そんなに言うなら証拠、あるんでしょ? いい加減温和な私も怒りますぅ〜〜」


「温和ですか、なだけでは。まぁ、いいです。動画の時間ご存知ですか。16:35でしたか。このラブホは最寄り駅より3駅。この時間に着くためには終わってすぐに駅に向かわないとです」


「お姉ちゃんのやる気マンマンさが伺われるけど、私関係なくないですか?」


「そうですね、やる気……その辺は置いておきましょう。でも、残念です。この時間にこのラブホに迷いなく到達するということは、初めてではありません。もし、澤北さん、お姉さんが梶氏に『1度だけのあやまち』と申し開きしようとされてるなら、ごめんなさい。無理ですね」


「お姉ちゃんがなのはよしとして、私関係ないですよね、なんで撮影犯なんですぅ? 意味わかんない」


「結論を言います。映り込みです。よく、動画投稿者が映り込みで身バレしたとか聞きませんか? 反射して写ってましたよ、間抜け顔」


「そ、そんなはず……、あっ……」


「『』どうされました? まぁ、ベタな引っ掛かり方で笑えません。もう、飽きてきましたので、簡単にネタばらしをします。動画の最後、ホテルの料金表がアップになるシーン。そこで反射した料金表に映り込みしてました」


「そ、そんなの暗くて私かどうかなんて……」


「暗かったですか? いや、気付きませんでした。ご存知で? そこにいたからですよね?」


「いないもん! しょ、証拠……そうよ、証拠見せてよ、証拠もなくこんなこと言ってイジメよ、イジメ!」


「そう言うと思いまして、証拠は解析中です。なにせ、情報処理部のPC旧式で、顔認証ソフト動かすの大変なんですよ、重くて。まぁ、解析完了してます。その時には汚ギャルさんも、クラスの皆さんにも結果をご提示出来ます。しばしお待ち下さい。そうそう、私の用事は終わりました。どうぞお好きにお引き取りください、では」


 そう言って古賀さんは一方的に話を完了させた。本当に飽きたのかも知れない。


 麻利衣は志穂と会話どころか、目を合わすことなくトボトボと教室を後にした。いったい何がしたかったんだ?


 壮絶に騒いで、爆死。まぁ、あの子らしいちゅーたら、あの子らしいけど。しかし、古賀さんも古賀さんで用が済んだらさっさと自席に戻り、かばんから取り出した文庫本サイズの本を読み始めた。まるで何もなかったかのように。


 仕方ないので俺も自席に戻った。隣の席のミキティーナは肩をすくめて「意味わかんない」みたいな顔をした。それは俺もだし、クラス全員が同じだ。仕方なくクラスメイトたちは白けた顔をしてそれぞれの席に着いた。


 それから数分もしない後に、担任の男性教諭柿崎と保健室の藤原六花先生が現れた。あとで思えば、古賀さんがすっと自席に戻り、話を打ち切ったのは柿崎がそろそろ来るのを読んでいたからかも知れない。


「木田。それに澤北、わかってるな? 藤原先生と先に生徒指導室に行け。直に親御さんも来る。藤原先生、すみませんお願いします」


 いつもは軽薄でいい加減な口調。やる気をみじんも感じさせない柿崎だったが、苦い顔して、ふたりを連れた六花先生が教室を出たのを確認し口を開いた。


「もう耳にした者もいるだろうが、どえらい問題になってる。3時限目はこのまま自習をしてくれ。4時限目に関しては全校集会になるだろう。事が事だけに静かに自習してくれ。ぶっちゃけ騒いだり廊下に出なければ自由にしていい。学校は午前中のみの短縮授業だ。部活動は禁止、自主練もだ。真っすぐ帰宅すること。午後からは緊急職員会議。夜には保護者説明会と目白押しだ。間違ってもな行動は慎め、何か質問は?」


 すると古賀さんがスッと手を上げた。


「先生。梶氏……梶君具合が悪いみたいです。全校集会は無理です、3時限目までで早退させてください。あと、ひとりでは危ないんでお姉さんと帰った方がいいと思います」


「そうか、古賀。ん……梶、1限目も保健室だったなぁ。わかった、お前の姉ちゃん3年3組だっけ? 迎えに来てもらうように言っとく。明日無理なら休めよ」


 担任の柿崎が教室を後にしたが、古賀さんからはこれと言った説明も、接触もなかった。俺たちは「よくわかんないなぁ」みたいな会話をして、3限目を終えた。終えたと同時に教室の前の扉が勢いよく開いた。


 セーラー服のスカーフの色から麻利衣と同じ1年生とわかる。まだ真新しいセーラー服の女子ふたりが、血相を変えて叫びながら飛び込んできた。


「部長~~‼ 大変です‼ 何者かに、部室のPCが‼」


 1年生ふたりの用は古賀さんだった。古賀さんを部長と呼ぶという事は、彼女たちも情報処理部だろう。それまで自席で文庫本を読んでいた古賀さんは「ガタン」と椅子を鳴らし勢いよく立ち上がった。


 そして頭を抱えて、髪の毛をくしゃくしゃにし、天を仰ぐように宙を見ながら首を振った。


「ま、まさかここまでするとは……私が迂闊でした。申し訳ありません、梶氏。早退前に情報処理部ご同道ください!」


 俺は一瞬で悟った。冷静な古賀さんの取り乱しようと、ふたりの後輩が告げた『何者かに、部室のPCが』という情報。そして古賀さんの『ここまでするとは……』


 古賀さんは言っていた。情報処理部の旧式PCでラブホの看板に映り込んだ撮影者を、麻利衣だと確定する処理を行っていた。旧式なので昼休みまで掛るとのことだったが……アイツだ。麻利衣だ、映り込んだ証拠を握り潰すために、情報処理部のPCを破壊しやがったんだ。


 もう、完全に狂ってる……手に負えない域だ。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る