第37話 放課後デート。

 駅近くのショッピングモール。先程無事に逃亡中の姉、愛莉ちゃんが関さんの手で確保され、無事補習に参加することになった。俺も人のこと言えないけど、愛莉ちゃんほど勉強嫌いじゃない。逃げたら地区予選出れないって言われてても逃げるってどうなの?


 まぁ、よかった。これでなんとか地区予選には参加出来るんだ。おかげで雪ちゃんとの約束は飛んじゃったけど、棚ぼた的に桜花のフォローが出来てよかった。普段こいつおちゃらけてるから、ちょっと雑に扱ってしまうけど、麻利衣の件では感謝しかない。俺のリトルの問題はあるものの、幸い童貞なので、活躍の日は先だろう。


『1週間我慢して』なんて雪ちゃんに言われたけど、あのタイミングを逃したのだから、当分ない。これは経験上わかる。雪ちゃんは何ていうか、アレで満足らしい。愛莉ちゃんとの事もある。幼馴染で親友を天秤に掛けるのは難しい。それは俺も同じ。姉と幼馴染をどっちか取るなんて土台無理なんだ。


 とりあえず出来るところ、俺の手の届くところから大事にしないと。それが今日は桜花ということだ。並んで歩く姿が硝子越しに映る。やっぱりどう考えても、釣り合わない。調子に乗るから言わないけど、桜花はやっぱしモデルクラスだ。


 すっとした体型の割に胸とか腰回りはしっかりとした肉付き。しげしげ見る機会がなかったけど、女性っぽい体型だ。金髪碧眼でモデルのような体型プラス出るとこ出てて……もう、反則だろ、これ。それが俺の彼女をやってくれてる時点でハテナだ。


 やっぱ、これって『学校の裏サイト』の時の設定なだけじゃないのか。とはいえ今更聞けないのも事実だし、きっとそうじゃない。下手に聞いて膨れられても面倒だ。兎角佐々木桜花はすぐ膨れる。ここは桜花が否定するまで、彼女だと思うことにした。


「梶、梶〜〜これどう? 可愛くない? 紺だったら学校でも使えるし〜〜」


 なに、このデレデレ女子。考えてみたら、俺の周りの女子は中々個性が強い。姉ちゃんは女子とは違うが、女子って強ぇぇと感じた最初の人だ。基本俺には優しいけど、バスケする時のストイックさは、尊敬と畏怖というか、そんな感じ。


 雪ちゃんもバスケに関しては同じ。可愛いけど、生粋のアネゴ肌だし。甘やかしてくれるけど、ちょっとしたことで、けっこう説教される。そこもいいとこなんだけど。志穂に関してはホントよくわからない。前まではおしとやかだと思ってたけど、結構ネコ被ってた感じだ。いい娘なんだけど、よくわからない。


 琴音の立ち位置も実はいまいちわからない。俺のことをダーリンなんて呼ぶようになったのは、この間だし、それまでは中々の犬猿の仲だったような。そこそこ口喧嘩とかしてたし……それに、桜花みたいに『付き合って』とかは一切ない。いつの間にか友達以上恋人爆超えみたいな立ち位置に収まっている。


 意外に1番わかりやすくてシンプルなのは、桜花かもな。


「それとさ、これも似合いそうだけど。どう?」


 俺はゴムに紺色のリボンが付いた桜花が選んだやつとは別に、学校で使えそうな髪留めを指さした。


「ふたつも? 悪いよ」


「別に。どうせお前のことだからヘビーローテするんだろ? ふたつでも足りんだろ……あっ、ふたつ買ったことは志穂には内緒な〜〜お前らつまんないことで、ドヤり過ぎ」


「だって〜〜ほら、元カノって中々の警戒対象なんだよ? それにアイツさぁ、すぐ『私にはこうしてくれた』とか言うの!」


「煽り体質だからな(笑)」


「笑えない(泣)それよかさぁ、梶。その……これからどうする?」


「なに、ラブホは早いぞ?(笑)」


「ハハッ! それいいね、停学になってどっか遊び行こか?」


「いや、遊ぶために停学とか。しかも、ラブホ経由か? まぁ、面白いけど、俺さぁ、恥ずかしながら子供なんで」


「私も! それでね、うち来ない? お母さんいるの、紹介したいんだけど……嫌かな?」


「嫌とかないけど、いきなりはマズくない?」


「えっとね、さっき『まいん』しといたの! 是非って!」


「そうなんだ。別にいいけど、若干緊張する」


「大丈夫! お母さんフレンドリーだから、平気平気〜〜」


 まぁ、いいか。ビーフストロガノフの件でこの週末琴音の家に行くことになっていた。なんで、そうなったのか覚えてない。


 話の流れでそうなったが、琴音の家に行って桜花の家に行かないってのも変だし……一応彼女なんだから、先に行くほうがいい。そもそも、怪我して送ることになっていた。突如元気になったけど。


 そんな訳で予定通り桜花の家に送る事になった。まだ、日がある夕方。忙しい時間に訪問するのは気が引けるが、挨拶もしておきたいし、デッドボールの怪我も、から元気で誤魔化してるかも知れない。


 早い時間に家に送る方がいいしなぁ、なんて言い訳をしながら桜花の家に着いた。駅前で何買って行こうか考えたけど、残念。高校生の財布はそんな豊かじゃない。明日志穂のこともあるし、週末は琴音の自宅訪問。


 けが人の桜花を送るという名分で手ぶらでご勘弁願うしかない。知らなかったけど、桜花はマンション住まいだった。そう言えば琴音もだ。娘を持つ親としてはマンションの方がセキュリティ的にいいのだろうか? わからん。まぁ、ふたりだけしか知らんのだけど(笑)


 立派なエントランス。明るい色彩。ちょっとしたリゾートホテルに近い。場違い感を感じながらも、桜花の後を付いてエレベーターに乗り込む。


「どうしたの、梶。もしかして、緊張してるの?」


「ははっ…そうみたい」 


「ふうん。澤北……じゃないや、斎藤の家とかは行かなかったの?」


「行ったけど、ご両親とは会ったことない。会ったのはあの馬鹿妹だけ」


「あぁ…黒歴史ねぇ〜〜うちのお母さんは大丈夫よ、放っといたらずっと喋ってるから、相槌だけで」


 それは助かる。俺はなんてゆうか人見知りだ。慣れたらそこそこ話せるけど、友達のしかも、彼女の母親となると……そんなこと考えてるうちに、桜花のマンションの部屋の前に着いた。桜花がチャイムを鳴らすと、きれいな女の人の声で返事があった。


「ワォ、あなたがジュンノスケですか、初めましてヘレナです!」


 桜花が言ってた通り、フレンドリーで勢いがある。桜花同様金髪碧眼で、髪は少しクリクリとしたくせ毛。足がとても長くジーンズが似合っていた。


「初めまして、その梶です。梶淳之介。その桜花さんとは仲よくして貰ってます」


 そんな当たり障りのない挨拶をしながら、ちょっとした疑問。ヘレナさん。桜花はお母さんが家にいると言っていたが、明らかに若い。どう見てもお姉さんだ。


「えっと……桜花、お姉さん?」


「あぁ……言っちゃったか」


 桜花は眉間に手を当てて、マンションの天井を仰いだ。


「ワォ、とってもいい子デス! ハグしてあげます〜〜あと、チューも〜〜」


「お母さん。ハグはいいけど、チューはやめてね。娘もしたことないんだから、母親が娘の彼氏に先にチューとか国際問題よ」


「ワォ、辛辣デス〜〜ジュンノスケ、私は桜花の母親デス〜よろしくデス!」


「あと、梶。こんなアメリカンなノリだけど、お母さんアメリカ出身じゃないから」


 俺は桜花のお母さんにハグされながらカチンカチンになった。彼女の母親にハグされる経験は日本ではそうそうない。桜花が大人に見えるまさかの事態。














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