第40話 君の未来に。

「ああ! 腹立つ!! 何が『お前とは違う』よ! なによ、佐々木だってただの女子だっーの! 梶君がパンツ脱がせたら顔真っ赤にして……

 もう! 私だって、梶君なら顔真っ赤にするし! 

 あぁ、腹立つ! 決めた! 戻ってもう一撃カバン食らわす! 運よく気絶したら……拉致って……ん? あれは……」


 ***

「ちょっとあんた、梶に接近禁止令出てるでしょ! なに、しれーと破ってるの! 馬鹿でしょ!」


「接近禁止令? それ学校が決めたことですよねぇ、そんなの国の法律が許すわけないじゃないですか。もし、そうしたいならちゃんと法的な手続きしないとですよね、


 停学1週間の喪が開けた麻利衣が堂々と俺の前に現れた。左手は三角巾で吊られたギブス。鼻は母さんにへし折られたので、ガーゼで固定され、不自然に白い前歯は総入れ歯。これも母さんの裏拳によるものだ。

 普通に考えて、ここまで無慈悲にボコる母を持つ俺に最接近するとは思わなかった。母さんの裏拳が効きすぎて、脳がやられたのか?


 だけど、麻利衣なりに計算しつくした登場。話し掛けないと決め込んでいた俺の前に堂々と現れ動揺させ、揺さぶり、恐怖を植え付けようとしてる。もしここで、俺が動揺を見せたら麻利衣の思う壺だ。


 わかっているが、俺は少し動揺した。ここには桜花も琴音もいる。何かされないか、気が気じゃない。そこに――


!』


「ふみゅ!」


 踏み潰されたカエルみたいな声を上げ、麻利衣は床にうずくまる。その背後にはブンブンとカバンを振り回した志穂がいた。志穂の振り回したカバンが麻利衣の後頭部を直撃したのだ。

 辞書でも入っていたのか、相当重い音がした。俺の時はここまでの音はしなかった。つまり俺の時には手加減していたらしい。


「――⁉」


 その呼びかけには答えず、そのまま進む。自然、志穂は転がった麻利衣を踏み付ける。しかもギブスをしてる左手もお構い無しだ。麻利衣はこの世のものとは思えない悲鳴をあげるが、ガン無視。

 うるさいからか、振り回してたかばんを麻利衣の顔の上にどさりと置く。そして――


「あのさ、梶君。言っとくけどこのふたりも、梶君がパンツ脱がせたら大差ないからね! 女子の顔になっていい声出すんだからね、私だけビッチみたいに思ってるみたいだけど、おあいにく様」


 だからなんだ? いや、足元で唸ってる麻利衣が気になってまったく話が入ってこない。それどころか琴音も一歩前に出る。つまりぺちゃんこになってる麻利衣を踏み付けたわけで、更に低い悲鳴を上げた。


「何が言いたいの、斎藤さん。そんなの当たり前じゃない。私ダーリンにパンツを下ろされたら、ご近所中が羨むようないい声を出す準備があるわ、女子としての嗜みでしょ、そのための発声練習にも余念がないわ」


 更に『ムギュ!』


「わ、私だって……その声出ちゃう……その経験ないけど、梶がそうしたいのなら……でも私は、その恥ずかしいから声は…出来るだけ我慢する!」


 いや、お前も踏むんか〜い! 颯爽と復活を遂げたハズの麻利衣は見事に踏みちゃんこ。女子3人がためらいなく麻利衣を踏んでいた。しかも眼中にない扱い。


「ふん、それはどうかしら? ここからは経験値が物を言う世界よ、わかる? 私とあなた達ふたりじゃ、レベチなの、レベチ! 

 言っとくけど、私のパラメータ振り切ってるからね? もう私ならチート級だから! 梶君なんて、手のひらで転がすんだから!」


 いや、志穂。それ自慢していいヤツなの? それが元でお前色々やらかしてんじゃないの?


「えっ、斎藤ってその域なの(震え)」


 あっ……桜花がなんかヒヨった。


「困ったわね……私そっち系のパラメータは子供同然だもの。やっぱりダーリンの筆おろしは……」


 あっ、琴音さんが諦めモードに……


「琴音さん、なに勝手に俺の初体験の相手決めてんの? しかも、よりにもよって寝取られホヤホヤの相手なんだけど、斎藤さんは!」


「ダーリン。ここは四の五の言ってられないわ。私や佐々木さんには荷が重いもの。妥協の産物として斎藤さん……

 でも、確かに冷静に考えると妥協にも限界はあるわね……ある意味妥協の限界突破だわ……ダメな意味で神ってるわね、斎藤さん‼」


「委員長。ちょっと言ってる意味がわからない。妥協の産物じゃなくて、高嶺の花の間違いじゃないの? 高嶺に咲く一輪の白い花、それが私よ!」


 高嶺に咲く一輪の白い花……それ絶対毒があるよな。もしくは食虫植物。


「あのさ、別にどうでもいいんだけど、そろそろ降りないと、校内で圧死事件が起きるけど。これ以上ても困るだろ?

 ぺっちゃんこになるのは別にいいけど、こいつ油断すると漏らすからなぁ……」


「梶〜〜色んなもんでコレだよね?」


「ダーリン。いくら情報共有とはいえ、この写真モザイクなしではキツイわ。よく、こんな写真撮られて話し掛ける気になれたわね。さすが、斎藤さんの妹ね」


「委員長。言ってなかった? ね? 正確には元義理の妹。私流石にここまで性格悪くないわ〜〜あと、こんなに鼻上むいてないでしょ?

 付け加えると目もこんなに離れてない。だって遺伝子1ミリも共有してないんだから~~」


「まぁ、確かにお前の場合イケメン喰い以外はだからな」


ってなに(笑)? 褒める気あんの? ちゃんと美少女って言ったら? 照れちゃって。かわいい〜〜そうそう、今日も下着かわいいわよ? 校舎裏で見る?」


 コイツ、ビッチネタさせたら最強だな。


「いや、お前やってること少女じゃねえからな? 寝取られって相当上級者だからな? 正直そのカテゴリー熟女女優さん出演作だから」


「梶『少女』は否定しても『美』は否定しないの? やっぱし元カノが……(泣)」


「いや、お前の涙腺基準変だろ? なに泣いてんの? 後ね、汚れとかよくないよ? いや、俺も内心思ってるけど……」


「梶くん。お話中申し訳ないんたけど、その足元に転がってるのが1年生の澤北さん?」


 俺は不意に声を掛けられ振り向いた。そこには同じ学年の女子バスケ部の主だった面々がそろっていた。俺に声を掛けてきたのが、愛莉ちゃんの後を継いで次期キャプテンになると噂されてる大沢さんだ。同じクラスで、愛莉ちゃんと雪ちゃん繋がりで面識がある。


 礼儀正しい。体育会系。あまり絡みはない。挨拶とかあと、愛莉ちゃんからの業務連絡の連絡係で話すことはある。


「うん、ちょっとボロっちくなってるけど」


「そう、よかった。。私、2年の大沢。来島副キャプテンが今日の昼レンから参加するようにって指示だから」


「昼レン……? 来島副キャプテン?」


「なに、あんた父親から聞いてないの? あんたが退学しないで済んだのは、女子バスケ部に入部するのが条件よ、もちろんあんたの意思なんて関係ないから」


「女子バスケ部⁉ 強制入部なんて、そんなの基本的人権の――」


「知らないの? お義父さん私のこと殴ってケガさせたの、学校で。その動画あるんだ、これが。あと殴られた時の診断書」


「そんなの私関係ないし‼」


「そうね、じゃあ私は診断書持って警察に行くわ。あと動画も。そうそう、診断書なんていくらでも再発行出来るから、梶君の家襲った時みたいなのは無駄よ。動画も何人も持ってるから、いつでも公開出来るわよ?」


「そ、そんな事したらお父さん、議員続けられないじゃない……」


「そうね、義理の娘に暴力なんてなったら次の選挙もほぼ無理ね」


「そうなったらウチの収入なくなるじゃない……私、どうしたら……」


「だから、女子バスケ部で頑張りなさい」


「歓迎する、澤北。梶キャプテンも来島副キャプテンも特別扱いは不要とのこと、私たちと同じメニューを今日からこなしてもらう、いい?」


「ひっ⁉」


 颯爽と再登場を果たしたつもりだったが、両脇を抱えられ退場していった。麻利衣、君の未来に幸あれ。


 これにて麻利衣『ざまぁ』完。







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