第39話 翌朝の喧騒。

 次の朝。想定はしていたが、俺が桜花のパンツをズラした話は『身内』に拡がっていた。もちろん、俺が言ってない以上に犯人は桜花しかいない。


「梶君。きのう佐々木の家でパンツ脱がせたんだって?」


 目つきが悪い女子。やさぐれ担当。付け加えると真正ビッチの志穂が、靴を履き替えたばかりの俺に、カバンをぶつけて尋ねた。いや、カバンぶつける必要あるか? 元々コイツは視力が良くない。だから、見えにくいせいもあって目つきがアレなんだが、今回は普通に睨んでる。


 おかしくないか? 君は俺と付き合ってる時に木田にパンツずらされたはずだけど? なにか、それともパンツ穿いたままプレーしたのか? 穿いたまま無罪はないからな? あぁ、なんで、こんなに簡単にコイツのハメ取りが脳内再生されるんだ? 表向きは別れたふたりなんだけど、そこそこ辛い。


「脱がせてないし、アイツも脱がされてない。お前とは違う」


 少しくらい嫌味も言いたい。正直本当に好きだった。無理やり納得してるけど、心のどこかが、じゅぐじゅぐと痛む。そして、俺のリトルが反応する僅かな人物なのも腹が立つ。頭でどうこう思っても、体はコイツが欲しいのだと思うと、ドロップキックでもしてやりたい。


「なによ、梶君がさっさと脱がさないから悪いんだからね、勘違いしないでよね!」


 うん。ツンデレ風なセリフからもう一撃カバンが飛んできた。いや、脳天にクリーンヒットなんだけど。それにしても、俺が手を出さなかったから、寝取られたってのは、言い掛かりにも程がある。志穂はぷりぷり怒りながら姿を消した。


 コイツは、まぁいい。そもそも言い訳を必要とする相手じゃない。寝取られておいて、シップを貼るためにパンツをめくった、しかも上にだ。もう、これ単なる医療行為。まぁ、でも今俺の背後を取ったヤツにはちゃんと説明しないと。言い訳する時間を与えてくれるなら、だけど。


「ダーリン、


 言葉は穏やかだけど、ピキピキとした空気を纏っている。言い訳と言ったけど、実は言い訳しちゃいけないナンバーワンなのかも。


「琴音。今日もいい天気だ」


「そうですね……ところで」


 来た。そう思ったが身構えるのはやめた。桜花同様、琴音もはじめから味方してくれた。1年から一緒で割りかし喧嘩友達と言っていい仲だったのが、志穂のことで急接近。言い訳が必要な相手ではない。必要なのは対話だと思う。相手にその気があればね。俺は一瞬さっきの志穂のけんもほろろな対応を思い出した。


「なんでも答えるよ」


「なんでも……そうですね、佐々木さんの怪我は? あの脳筋バレー娘、柄にもなく気にしてたので」


「しばらく痛いかも。だけど、骨までどうこうって感じじゃない。場所が場所だけに、ガン見はしてないけど、動けてるし。座ったりはどうかなぁ~〜クッション持ってくるって言ってたけど」


「あまり見なかった……触ったりも?」


「痛いかどうかちょっと押してみたくらいかな」


「下着は着用したままなんでしょうね。ごめんなさい。少し考えたらわかることなんですけど、きのうわざわざわ佐々木さんたら『まいん』でドヤる、いえ、自慢するだけに延々2時間も通話してきましたので。流石にイラッと来て……ダーリンに事の真相をと思ったのですけど……ごめんなさい」


「琴音が謝ることじゃないけど、まぁ…なんていうか、たまにはドヤらせてやってくれ。ちょっと虐げられすぎで、たまに涙が出る。まぁ、腹筋崩壊でだけど(笑)」


「そうですね、イジり甲斐があるんで、つい行き過ぎてしまうけど、佐々木さんも生きてるんですものね」


「そうだなぁ〜〜」


 表面的な怒りは収めてくれたけど、桜花に対してはまだ……だけど、そこは口は出さないでおこう。俺が下手な発言をしたら、どちらかの肩を持つことになる。どちらかが一方的に不利な状況ではない。そうそう……


「琴音。よかったらこれ使ってくれ」


 俺は小さな紙包みを琴音に軽く投げた。驚いた顔で琴音はキャッチする。おしとやかなキャラだけど、運動神経はいいのかも。


「開けていいのですか?」


「あぁ…でも、何ていうかよくわからなかったから直感でお前に似合いそうだと……どう?」


「かんざし……?」


「してるだろ? こういうの好みとかあるから、アレだけど、よかったら――」


「使う。うん、ありがと。なんか…嬉しい……」


「えっと……志穂、髪鬱陶しいから始まって、シュシュ買うから束ねろってまぁ、軽い気持ちで言ったんだけど、桜花拗ねるし。それで、きのう見に行ったら、お前に似合いそうかなぁ……みたいな?」


「つまりそれは、佐々木さんと居ながらも、片時も私のことを忘れられなかったと……あぁ…なんて素晴らしい。これでまた佐々木さんにドヤり返せる」


「いや、アイツ普通に泣くからお手柔らかにな?」


「はい、泣かない程度に、生かさず殺さずで(笑)」


 うん。若干笑えないけど、いいだろ? 琴音は俺の袖を引き、廊下のすみに。そこで付けていたかんざしを外し、新しいのを付けて見せた。こういうところが、琴音のかわいいところだ。同年代とは思えない落ち着きがあるけど、同年代らしい喜び方を見せてくれる。


「ダーリン。どうかしら?」


 学校で付けるので、地味めにしたが琴音の動きと合わせて揺れる飾りが、どこか幻想的で、まるで夏祭りに参加してるような、涼し気な印象を受け迂闊にもドキッと。


「に、似合ってる、うん」


「ありがと、ダーリン。危うく私、フルボッコにされて、泣きながら教室に駆け込まないとでした」


「えっと?」


「いえ、そろそろ現れるかと」


「あっ! いたいた! 梶〜〜委員長〜〜おはよ! 見てよ、委員長〜〜きのう『まいん』で言ってた梶がね、ほーかごデート? 買ってくれた髪留め! 早速付けてみたの! よくない? いいよね? もう、ウルトラハッピー!」


「佐々木さん。ウルトラハッピーターンのところ申し訳ないのですけど、これどうかしら?」


「かんざし……? いいんじゃない? かわいい〜〜委員長にぴったりよ〜〜センスいいよね、でも私なんか〜〜」


「そうですか、ありがと。いえ、ダーリンが私を思って用意してくれたので……センスいいですか(笑)それはもう、私を思って悩んで選んでくれた1品ですから? それはもう! センス爆発間違いなし!」


「梶〜〜どういうこと? えっ、なに? 私とのほーかごデートの時に委員長へのプレゼント選んでたの⁉(ぷ〜〜う!)」


 桜花はドヤりに行ってドヤりカウンターで撃退され、案の定膨れた。今朝もいつもの風景、いつもと変わらない学校の喧騒に俺たちは混じった。そいつが現れるまでは。


「御無沙汰してます、


















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