第4話 清純派ビッチ。
私、澤北志穂にとってその日も普通の朝だった。
梶淳之介。カレシだ。いい人、優しい、思いやりがあっていつでも私を笑わせようとしてくれる。
一緒にいて楽しい。きっとすっごく頭がいい。成績とかじゃなくて、地頭がいい人。同級生。
今まで付き合ってきた人にはいないタイプ。彼の隣はすごく居心地がいい、ここが居場所なんだ、そう思える。頭では。彼でいい。そう思えた。でもここが私の問題点。
『彼でいい』と思ってしまう。頭では『彼がいい』と感じているクセに。唯一無二だと思っている。だけど、どこかで『彼でいい』と思う自分もいる。
そうです、私にとって最適解なはずなのに『彼でいい』と、どこか妥協している気でいる自分がいた。
何様なんだと自分でも思うが、どうしようもない。存在が複数いれば比較してしまう。だから、どうしようもない。
梶君と私の自宅の位置は真逆。交通手段を持たないただの高校生。だから、下校は寄り道をする時以外彼は隣にいない。中学時代。初めて付き合ったのは大学生。
親に買ってもらった車を持っていたので、私は家の傍まで送られるのに慣れていた。生意気だけどエスコートされるのが普通だった。
元カレの大学生は、当時中学生の私から見ても、薄っぺらいイケメン。梶君みたいに私に寄り添う優しさも、会話の中に織り込まれる「クスッ」としてしまうユーモアの欠片もない。つまんないだけのイケメン。
裕福な家庭で育ち、欲しい物を当たり前に与えられて来たのだろう。人としての進歩というか、内面を磨かないとなんて考えたことがない人。
気にしてるのは最新のファッションと芸能人と同じ髪型。同年代に相手にされないのか、単なるロリコンだったのか。
ほんの少し前まで、ランドセルを背負っていた当時の私に、手を出そうとするような人。興味もあったので、勿体ぶりながらも関係を持った。
正直、求められるのが好きだった。誰かが自分の体で満たされることに、優越感を感じ、その優越感が私を満たした。
当時の私は子供だった。精神的にというか、この先に続く自分の将来に対しての見積もりが甘かった。年上のイケメン大学生を、満たせる自分が特別な存在だと普通に思っていた。
だから、大学生と付き合ってることや、記念日に何をプレゼントされたとか、どこに遊びに行ってきたとか、同級生に話すのが好きだった。
まるでおとぎ話を聞くような顔する同級生を見るのが、堪らなく私の優越感を満たした。中3になった頃。私は浮いた存在になっていた。
当たり前のこと。大学生の彼氏がいるのは知れ渡っていた。でもその頃の私は、何人かの同級生とも付き合っていた。どうやら私は薄っぺらいイケメンを引き寄せる体質らしい。
その時の私はいい気になっていた。校内のイケメンは誰も自分に興味があると思っていた。もちろんヤリたいだけなのはわかっていたので、適度にヤラせた。優越感を満たすために。
イケメンの最初の女になるのは悪い気がしないとまで思っていた。当たり前だけど、弊害も。女子は見渡す限りアンチだった。今ならわかる。自分の好きな男子が、片っ端から私と関係を持っていたのだから。
ビッチ認定は避けられない。実際自分でもそう思っていたし(笑)だから軌道修正した。背伸びした大人のような髪型をやめ、少し、いやかなり、いも臭い髪型に変えた。化粧もリップ程度。
爪の手入れも程ほどにし、フレグランスも石鹼の匂いのようなものにし、デオドラントも中高生がCМで起用されてる物を使い、同じ中学からあまり進学していない高校を選び、高校デビューをした。
真新しい制服。
何ともありふれた髪型にすることで、自分で言うのもなんだけど、不思議と清純派に見える。ヤルことやってるクセに(笑)
その努力の結果、梶淳之介君と付き合うことが出来た。彼は典型的な高校生。はしゃいだり、笑ったり、笑わせてくれたり。初めて同級生との付き合いが、こういうものだと教えられた。
だから、それまでズルズル続いていた、薄っぺらいイケメン大学生も、何度か関係を持っただけの中学の同級生も切った。
ブロックしたり、音信不通にしたり、行きつけの店を変えたり。
受験した高校を最後まで誰にも明かさなかったこと、中学とはまるで違う見た目にチェンジしたことで、大きなトラブルは避けられた。
例外を除いて。
私が進学した高校は、中学の校区から少し不便な場所にある。だから、ここ数年ほんの少数しか進学してなかった。そもそも、同じ中学出身でも学年が違ったら余程の有名人しか知らない。
髪型も大幅に変えた私に「どっかで見たような……」にはなかなかならないはずだった。そう「だった」のだ。
いくら見た目を変えて、あまり進学をしていない高校に進んでも、名前を変えた訳じゃない。初めてのクラス分けで私は驚愕した。
貼り出されたクラス名簿に「佐々木桜花」の名前があったからだ。自分で言うのもなんだけど、ハーフの佐々木は私と違い正統派の人気者。
佐々木以外もあろうことか、何人か同じ高校に進学していた。しかも全員女子だ。アンチが多い私には受難としか言いようがない。
いや、自業自得なんだけど(笑)
最悪なのは、梶君と佐々木が意外に仲がいいこと。梶君は隠し事が出来ないタイプだから、佐々木から私の過去を聞いたらすぐに耳に入る。今のところそれはない。
でもなんかナイフを首元に突き付けられてるようで落ち着かない。
2年生になっても佐々木と同じクラス。私は梶君にバラされないかという猜疑心から、悪いクセが出た。
1年間我慢したイケメン喰いだ。
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