第18話 躍動する軍師。

「古賀さん……?」


 思いもしない人物の思いもしない立ち振る舞い。情報処理部の確か部長をしてる古賀亜莉莎アリサ。下の名前を漢字で書くと「何て読むの?」と聞かれることが多いので普段は「アリサ」とカタカナで書く。


 テストの時、漢字で書くと教師に「ちゃんと書くように」注意されたことがある。本人は亜莉莎アリサという漢字も響きも相当気に入ってた。


 古賀アリサのぷち情報はさて置き。

 正直なところ、俺は古賀さんとの絡みは極めて低い。それはクラスのボッチだとか、モブだとかそんな理由ではない。彼女は休み時間、四六時中読書をしていた。だから俺は「話し掛けないでオーラ」を張っているのだと思っていた。


 志穂とは少し話すようだけど、俺が入ると途端に口を閉じた。彼女の事を多少なりとも知っているのは、親友高坂の小学からの同級生だから。でも、ちゃんと声を聞くのは授業の発表以外ではそんなにない。


「梶氏。ごめんなさい。話し掛けて貰っててアレですが……」


 そう言って前置きをし、床に投げつけられ、麻利衣の足で踏みちゃんこにされたスマホを手に取り、そっと割れた画面を手で拭き「かわいそうに、まだ活躍できたでしょうに」とスマホに慰めの言葉を掛けた。


『変わってる子』クラスの多くは古賀さんをそう評した。こういうところを見てだろうが、俺はそうは思わなかった。いい恰好する訳じゃない。勿体ないとかでもない。


 ただ、古賀さんが言うようにここで麻利衣に破壊されなければ、このスマホは高坂のために働けただろう。役に立つ機会を奪われたのは、確かに可哀そうだ。古賀さんはスマホをハンカチで綺麗にして、神妙な顔つきで高坂に手渡した。


「梶氏。お待たせしました。先程は『つまんない』みたいな発言をしたことをお詫びします。ただ、梶氏が思う程度には澤北さんの妹さんを『つまんない』ヤツ……違うか。とは認識しました。故に梶氏に肩入れしたいと存じます。あと、梶氏の。感服しました」


「ご、ご丁寧に…どうも」


 なんか純和風……そんな言葉使いに気圧され、こんな微妙な返ししか出来ないのを恥じたが、それを察したのか「いえ」と短く俺の恥の部分を否定した。


「よくわかんないですけど~~見た感じ、クラスのですよね? いま出る幕かどうか、判断誤ってません? それにの立ち位置で私を『つまんない』ヤツ、とか出過ぎてますよね? そう思いませんか、?」


 いじめっ子にありがちなタイプ。常に周りを巻き込み多数を作る。ひとりでも笑い声を洩らそうものなら、古賀さんは瞬時にアウェー戦だ。それが例え愛想笑いでも麻利衣の意見に同意したように映る。


 幸いにも、この状況で1クラスメイトの古賀さんが前に出たことを、笑うようなものはいない。むしろ羨望の目すら向けられた。そして俺は俺で気付いた。


 古賀さんは、麻利衣をワザと苛立たせようとしている。だから『つまんない』ヤツとか、反吐が出る女などと形容した。怒らせて、頭に血をのぼらせて冷静さを失わせ、主導権を奪い取る感じか。


「澤北さん、お姉さんもですが、汚ギャルさん……失礼しました。妹さんも詳しくないようですね、こういったスマホ関係」


「お兄さん~~誰ですぅ? 私、こういう女子苦手ぇ~~陰キャはすみっこいろって感じ? そう思いませんか? ウケる(笑)」


「ん……俺にはむしろ君にすみっこにいて欲しい。教室は邪魔だから、校庭のすみっこな? あといい加減『お兄さん』はやめろ、


「梶氏。その意見には同意なのですが、ここは型にハメて自らここに居れなくする方が良いかと……なので、話を進めます。先程の話ですが、もし仮にの話です。もし私の憶測が外れ、汚ギャルさんのプライドを著しく傷つけたらすみません」


「汚ギャルって呼ぶのは謝らない気なのねぇ? で、なにモブっ娘先輩?」


「いえ、もし私の憶測が当たってるなら……あなたの脳は蚊並なのですが……もし恥を知る方なのなら、後ほど文章で……」


「いいから、いま言って! どっちの頭が蚊並みか証明してあげますぅ~~(笑)」


「先ほど、高坂君のスマホを破壊しましたよね? なぜですか?」


「破壊~~? 麻利衣なに言ってるかわかんない~~」


「あぁ、根っからのおバカさんでしたか……では仕方ありません。しかし後ほども残念ながら詰めます。わかんないようなので、配慮は必要ありませんか、梶氏?」


「えっと……精神的にならコ○しても平気です」


「了解です。では、佐々木さん。汚ギャルさんがスマホを破壊したのは何故だと思われますか?」


「えっ⁉ 私⁉ そりゃ~高坂のスマホで撮ったこの……汚ギャル? 毛の入ったチョコの写真を消すためでしょ? 違う?」


「正解です。鳥頭並の記憶力の汚ギャルさんは……おっと、これは失礼しました。私うっかり蚊から鳥類に進化させてしまいました。でも、梶氏の人としての優しさという血を吸う、彼女はやはり蚊か……それはさて置き、違和感を感じませんか? ん? それでいいのか的な……はい、楢崎さん」


 胸元で小さく挙手したミキティーナに話を振った。


「全部のスマホがどうなのか知んないんだけど、少なくともあーしのスマホは写真データとか動画? クラウド上で保存されてる」


「そうですね、正解です。よほど高坂君が変な設定してなければ、スマホを破壊しても汚ギャルさんのの映像はクラウド上に普通に残ります。私と高坂君は小学校から一緒で、彼はスマホ関係全然なので私が手助けを。だから写真データ等はSDカードにも保存する設定にしてます。何回か落として壊したことがあるので念には念を」


「だから、何が言いたいワケ?」


「ですから、汚ギャルさん。あなたがスマホを破壊したのが高坂君憎しなら、成功ですが、、ご自身ので作られたの証拠隠滅なら……残念です。まさに蚊並の知性かと」


「クラウド……SDカード……なにそれ、麻利衣知らない」


「そうですか。それは勉強不足ですね。それと気づきませんか? なぜ、高坂君のスマホにあなたので作られたの写真があると思います? 確かに梶氏がデータ共有した線も考えられますが、そうしますか? どう思いますか、佐々木さんは?」


「えっ、私なら……データ共有もありだけど、普通に撮るかな? だってあの写真、にしてたじゃない? ってことは梶がって事でしょ? なら撮る。自分で撮りやすい角度で、違うかな?」


 その言葉を聞いた麻利衣は初めてたじろぎ、体を後退させた。明らかに動揺している。いま明かす気はなかったが、いい機会だ。古賀さんに任せよう。


「つまり、汚ギャルさんは知らなかった。自分ので作られたが、賢明な梶氏により密かに持ち出され、秘密裏に冷凍保存にでもされていることを。ご存じですよね、汚ギャルさん。陰毛はDNAの塊です。もしあなたの理論のをいくら盾にしたとしても、それは机上の空論。あなたがしたのは脅迫です。梶氏次第で警察に被害届を出せます。お姉さんと破局したいま、梶氏はなんの躊躇をするでしょうか。警察は物的証拠を優先するし、被害者の梶氏の証言を元に動くでしょう。つまり汚ギャルさん。あなたは、詰みです、(笑)」


 古賀さんは軽く手を打った。















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