第10話 恋愛ジャンキー。
私は深い溜息と嫌味と共に迎えられた。
「ああ~~悲劇のヒロインさまが何の御用でしょうか?」
なに、この養護教諭。保健室の先生ごときが態度悪い……嫌な感じ。悲劇のヒロインって……そうか、1限目梶君と佐々木来てたもんね。
佐々木がチクったんでしょ、どうせ。性格サイアクか、アイツ。今更移動教室行ってこれ以上さらし者になりたくない。ここは我慢しないと……
「その……お腹痛くて」
「そうか、じゃあ保健室ではなくトイレに行くべきだろ?」
なんなん?
ただでさえメンタルヤバいのに、ぽっと出の保健室の先生ごときに絡まれないとなの? はいはい、わかりました。
「あの、アレが酷くて」
「そうか、それは難儀だなぁ。しかし、なんだ。最近の子はアレが酷くても、出来るんだなぁ……」
「何が言いたいんですか。もし佐々木の言ったこと鵜呑みにしてるなら」
「してるなら、なんだ? 言ってみろ?」
なに、この強気な態度……後で担任に報告してやる。いや、私もそこそこイラついてる、自分の口で言い返してやる、どうせ教師なんて何にも出来ない。
「あの、体調悪いって来てる生徒に酷くないですか?」
「あぁ、心配するな、酷くしてる自覚ある。おいおい、まさか、お前。私が何の覚悟もなく、こんな態度に出てると思ってるのか? 私は離島でも山間部でもどこでも飛ばされる覚悟はある(笑)飛ばされたら梶が責任感じて嫁に貰ってくれるかもな(笑)」
「か、梶君関係ないじゃないですか!」
「そうか? ちなみに梶は今お前が座った椅子で、1時間ずっと泣いていた。佐々木は梶の背中を擦って一緒に泣いた。悔し涙なんだろう、私なら梶にこんな思いはさせないって。そう思わないか、澤北志穂?」
「なんで私のフルネームを……保健委員だからですか?」
「笑わせる。たいして委員会にも出ない奴がぬけぬけと。愛莉は知ってるのか、今回の不始末」
うっ……痛いところを……愛莉センパイ。梶
えっ、待って。
ウチの女子運動部で最大の部員のキャプテン? 待って! 梶君の親友高坂君は男子バスケのレギュラー……男女共に公立高なのに全国の常連組。
だから男女共に脳筋スポコン、バーサーカー揃いの大所帯。はははっ。笑っちゃう。こんなん中学の時のアンチなんかと、比べもんになんないじゃない!
こんなバーサーカー集団敵に回したの、私⁉ 終わったわ、私。愛莉センパイのブラコンなんて、全校生徒周知の事実じゃない……
私、愛莉センパイが愛してやまない梶淳之介君を裏切って、傷つけたんだ。マジサイアク。それに忘れてた。愛莉センパイ、保健委員長だ。
つまりこの教師とはつうつうの関係……だからあんなデカい態度だったんだ。大人はズルい……でも、それがなに? ラブホの前にいたからってなんなの?
体調崩して休憩しただけとか、木田に強引に連れ込まれたけど、最終逃げたとか……あっ、これ使えない?
動画は部屋の中を撮ってるんじゃないもん。なんとでも言い訳たつじゃない! そうだよ! 佐々木桜花が同じ中学出身だからって、私の中学時代少しくらいの素行の悪さ、噂で聞いただけでしょ?
何とでもなる! まだとどめを喰らったわけじゃない。梶君だって泣いて誤解だって謝れば――でも、私のそんな淡い期待は簡単に崩れた。
「お前知らないのか? 私は2年前、北中に勤務していた。まぁ、自分のことしか頭にないヤツが若くてきれいな養護教諭のことなんて覚えてないよな?」
えっ……北中に勤務⁉ 2年前って……私が3年の時は知らないのか? ならギリギリセーフじゃない。
「正確にはお前が卒業と同時にココに転勤になった。だからお前の素行が悪いのはぜ~んぶ知ってる。まぁ、飛ばされる覚悟で付け足すが、素行以外の条件は満たしていたが、素行が悪すぎて学校長判断で、推薦入試も受けれなかったくらいのことも、知ってる」
うわっ……しくじった。こんなの佐々木桜花の上位互換じゃない。しかも、転勤上等で怖いものなし。下手したらあることない事、梶君に吹き込まれる。
あることだけで、十分終わるけど……笑えないわ。もうここまでネタバレしてんなら、小手先の技は通じないか……
実際疲れたし、もうどうにでもしてって感じ。
「それで先生はどうしたいんです? 梶君に土下座しろって言うならします。実際私が悪いんだし、梶君には申し訳ないと思ってます。中学の時のこと知ってるならわかるでしょ? 今も口先だけで言ってるって。涙うるうるさせながら平気でうそつくヤツだって」
「まぁ、自覚があるのはいいことだ」
「ありますよ(笑)それで言うんです、私ってヤツは『でも梶君に対しての気持ちに嘘はないです』って。実際そうなんだけど、私が言うと底が知れてますね。ついでに言うと自虐ネタで同情も引いてます。おかしいでしょ? 私みたいなのが嫌いな先生とか佐々木桜花にとっては、今の私はさぞメシウマなんでしょうね……」
藤原先生は曖昧に頷きそれ以上話は続かなかった。私なんかを相手するのがめんどくさかったのかも知れない。私が知らなかっただけで、今朝から学校は修羅の国だったんだ、笑えない。
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