第23話 来島雪華。
「情報処理部準備室ってどこ⁉」
俺たちは例のメンツで廊下に駆け出した。今更走ったところで状況は変わらない。そんなことはわかっていても、俺たちは廊下を走る。足元がスリッパなのでスピードには限界がある。
運動部の高坂と関さんが先行し俺が続く。少し遅れて佐々木。琴音とミキティーナは早々に諦めた。
「君たちなにしてるの⁉ 急がないと~~」
遅れ出した情報処理部部長の古賀さんと、後輩たちが顔を歪めながら苦情を言う。
「高坂君、私は生粋の文化部ですよ! 運動部のあなたや関さんと同列に語らないでください‼」
「そうです、ちなみに私たちは折り返しなんで、もうヘロヘロです!」
部室から急報で駆けて来た後輩たちは更に息が上がっている。いや、日頃の運動不足がたたっているのでは? それにしては運動部でもない佐々木が少し遅れるくらいで付いて来ていた。俺は元々体を動かすのが好きなんで、これくらいはどうもない。
「あっ、淳之介だ‼」
「淳ちゃん、何してんの⁉ あんた体調悪いんでしょ? センセーが教室来てくれって」
部活棟に向かう廊下。スカーフの色が違う、見慣れた上級生ふたりに声を掛けられた。3年生の色のスカーフをした背が俺とほとんど変わらない。目つきが若干アレで、圧強め、切れ長クール目元にセミロングの黒髪が姉の梶
そして、佐々木程の金髪ではないが明るい髪色に特徴的なタレ目。サラリとした肩までの髪の女子が来島
ちなみに『淳之介』と呼んだのは雪華ちゃんで、姉の愛莉は俺を『淳ちゃん』と呼ぶ。見た感じ姉の愛莉は気の強そうな顔立ち。実は俺にはめちゃくちゃ甘い。しかも、かわいいもの好きで、学校でのイメージと違い部屋にはぬいぐるみが溢れていた。
「あっ、愛莉ちゃんに雪ちゃん!」
「ちょ、淳ちゃん! 学校で愛莉ちゃんはやめてよ‼(小声)」
「あっ、ごめん。でも、愛莉ちゃ……姉ちゃんも……」
「私はいいの! 淳ちゃんは淳ちゃん!」
「雪ちゃん! あの……今日もかわいいです!」
「もう、そんなこと言ったらまた愛莉に怒られるでしょ、私が(笑)淳之介もかーいいよ? あっ、見たよ裏サイト。災難だったねぇ~~君さ、見る目ないよ~~別れたんでしょ? どう、そろそろ私と婚約しとく?」
「あっ、はい! 喜んで‼」
「ユキ‼ また、あんたウチの淳ちゃんたぶらかせて! 裏サイトって何よ? またふたりの秘密なの⁉」
「あっ‼ あっ、あっ、あっ‼ 愛莉センパイ‼ ご機嫌麗しゅ~~です‼」
「あっ、関か。あんた淳ちゃ……ウチの弟と同じクラスだっけ?」
「はい!はい!はい!はい! その仲よくして頂いてます‼ もうそれは目に入れても痛くない程に!」
姉ちゃんがいい感じで関さんに捕まっていたので、俺は雪ちゃんと情報交換をする。今の感じでは雪ちゃんのおかげで、ラブホのこと志穂のことは姉ちゃんに情報統制されてるみたいだ。
(愛莉ちゃんまだ知らないんだ……雪ちゃんのおかげだよね?)
(そうよ、かーいい淳之介の為にね、一肌脱ぎました!)
(一肌脱ぐの⁉)
(もう、思春期さん! 私なんか興味ないクセに、エイ!)
そう言って雪ちゃんは俺の脇腹を軽くつねった。行動ひとつひとつがかわいい。年上とは思えないお茶目さ。生まれた時からの幼馴染。そして姉愛莉から常に俺に近づく女子として要警戒対象にされてきた人。
優しくて可愛いい、大好きな隣のおねえさんなんだけど、迂闊に姉ちゃんの前で仲よくしたら数日機嫌が悪い。だから、姉ちゃんの前ではお互いあんまり仲いい感じは出さない。
だけどこんな風に不意に会ってしまったら、うれしくて仕方ない。雪ちゃんはどう思ってるのだろう。ただ、俺たちは姉ちゃんの寂しそうな顔を見たくないので、適度な距離を保っていた。
(でもさ、淳之介。全校集会やら保護者説明会になったら、もう隠せないよ?)
(うん、どうしよ?)
(早めに言っちゃいなよ、淳之介が悪いんじゃないし。別れてないの?)
(それは別れた……それで)
(それで?)
(佐々木……あの金髪の娘)
(うん)
(付き合いだした)
(早ッ‼ なに、私に相談なしであんなかわいい娘と⁉ もう、雪お姉さん出る幕ないじゃない、さめざめ……くすん)
雪ちゃんは基本芸達者だから、ウソ泣きやらキレたフリやら色々やってくる。美形なのに鼻に掛けないのは佐々木と似ていた。基本楽しいことが大好き。
(付き合い始めたのは、志穂にざまぁをしようってことで、なんだけど……よくわかんない)
(なんだ、よかった。落ち込んでないか心配してて……やり返す根性あるならヨシ! さすが私の淳之介!)
考えてみたら、淳之介と呼び捨てにしてくれるのは雪ちゃんだけだ。それは昔から変わらない。もし姉ちゃんの顔色を伺わないでいたら、俺たちはどうなってたろう。まぁ、それは今考える時じゃない。
「姉ちゃん、ごめん! すぐ戻るから俺の教室で待ってて! 久々にとりよしのランチ行かない?」
「あっ……いいわね! って行けるの? あんた胃の具合悪いんでしょ? ちょっ!」
俺は姉ちゃんの言葉が終わる前に手を上げ、先に行った仲間の背を追った。まだ名残惜しそうな顔する関さんの腕を掴んで。
***
結局俺と関さんが追いついたのは情報処理部の部室だった。先に到着していた高坂と佐々木は言葉を失い、首を振っていた。その脇を通り部室の前に立つ。柱には「情報処理部」とプレートが掛けられてあった。
開け放たれた扉から室内が見えた。これをひとりでやったのかと驚くほど、PCが破壊しつくされて、ご丁寧に水まで撒かれている。どう親切に考えても顔認証データを取り出せるとは思えない。
床ではあれほど強気な口調で、麻利衣と対峙していた古賀さんがアヒル座りで肩を落とした。
掛ける言葉が見つからないまま、俺は佐々木と関さんの顔を交互に見て、最後高坂を見たが、苦し気に顔を左右に振るだけだ。明らかに俺のせいでこうなったんだ。俺に肩入れをしたばかりに、古賀さんにとばっちりが行った。
お詫びの言葉。慰めの言葉を頭の中でグルグルと探したけど、見つけられない。見つからないまま、古賀さんのある言葉が脳裏をよぎる。古賀さんは確か「早退前に情報処理部準備室までご同道ください」と言っていた。
「古賀さん、その……情報処理部準備室って?」
そう質問した。すると部員の後輩ふたりはオロオロしはじめ、その動揺をみた古賀さんが声高らかに笑った。あまりの事に、正気を失ったのではないかと心配になるほどの、声で散々笑った。
「これは失礼。梶氏、私はそんな失言をしていましたか。我ながら気付きませんでした。はい、そうですここがその情報処理部準備室。聞こえがいいですが物置です」
「でも、古賀さん。表の表札『情報処理部』ってなってるよ?」
「はい。それはこの子たちに朝、指示しておきましたから。本当の情報処理部は一つ手前の教室です。つまりは全部が罠です。言いませんでしたか? 汚ギャルさんにはご退場願うって(笑)」
それはなに? 麻利衣にニセ情報を握らせてワザとPCを破壊させたのか……マジかよ、すげえなぁ。でもなんで?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます