第46話 母は色々強かった。
「すみません、いつもウチの淳之介がお世話になっております(深々)」
ん? 誰が「ウチの淳之介」だ、元カノ。何しに来た。あとなに、こそこそ隠れてる金髪女子! 隠れても目立つからな。桜花に志穂。しかしこの組み合わせ斬新だな。
「えっと……ウチの淳之介? その……梶さんのお姉さん?」
まぁ、お母さん。そうなりますよねぇ、すみません。なんか別れたら突然この子ったら母親に目覚めたみたいで……ここまで拗らせたまま放置してすみません。
「母です」
言い切ったな! うちには萌美いるんだけど?
「いや、志穂! 違うだろ⁉ お母さんこいつは――」
「まぁ! 梶さんのお母さん⁉ 娘がいつもお世話になっております! それにしてもお母さん、お若いですね!」
「お母さま。そりゃそうよ、同じ歳だもん」
「同じ歳……あぁ(察し)」
「お母さま? 今の『察し』概ね間違えてるから。そういうのあるわとか、よそのご家庭の事情に首突っ込んじゃダメとか思ってない? あと、17歳結婚出来ないからね? 彼女見た目やさぐれてるけど、どうしましょう……実情はもっとやさぐれてた」
「委員長、どうでもいいけどフォローする気ないでしょ? いいの? 言うでしょ?『将を射んとする者はまず馬を射よ』つまりは淳之介を欲するならまず、母である私を甘やかしなさい‼」
「あなた、捨てられて余計にややこしい性格になったわねぇ……もう手の施しようがないわぁ……」
「捨て……梶さん。よそのお宅の事情に口を出すのはあれですけど。お母さんを捨てるなんてダメよ?
お父さまにもそれ相応のやんごとなきご事情があったのよ。わかるわ、同じ歳の女子がいきなりお母さんだなんて……あなたももう子供じゃないんだから、お父さまのご事情もわかってあげてね?」
「はぁ……」
いや、今日初対面なんでなんて言っていいか……うちのライトニングお父さまには、ちゃんとしたモエ・ダークネス母さんいます。息子が言うのもなんですけど、まぁまぁラブラブです。
口げんかもしません。それは全盛期のモエ・ダークネスを知ってるからかも知れませんが。いや、それ知ってて結婚してるし……
「そんなわけで、ここは母親同士腹を割って話しませんか?」
「腹? えぇ、それはもう! 立ち話もなんですのでどうぞ」
「その前に紹介したい娘がいます」
あれ? 志穂が後ろでそわそわ、ちょろちょろしてる金髪ハーフ女子、佐々木桜花を紹介するのか? ん……犬猿では? それとも知らない内に雪解けとか……
「この娘が私の推しです、淳之介の花嫁候補筆頭! 何してるのほら、来なさい‼」
花嫁候補? 志穂が桜花をそこまで⁉ すると志穂に腕を抱えられた『青と白』の見たことある服を着た長身女子が現れた。
「やあ! ハハハ……っ。私なにやってんだろ、こんな格好で?」
「「関さん⁉」」
ドヤ顔する志穂に腕を掴まれたのは、バレー部のユニフォームに身を包んだ関さんだった。
***
「なんでここ居んの?」
「前日に委員長つけたから」
「犯罪だろ?」
「母が息子を心配するのに法律関係ありません」
「誰が母だよ。なに元澤北家は法律とかどーでもいいの?」
「目覚めたの。母性本能? この立ち位置で悪い虫をバッタバッタと追い払えば『そして
いや、マジで今回だけにして欲しい。そういや最近「お母さんのいう事が聞けないの?」とか「親でもなければ子でもない!」とか「ひとりで大きくなったつもり?」とか。
うちの萌美母さんにも言われたことないことを、言ってやがったのはそういうことなのか……でもそうなると……
「なんで関さん、花嫁候補筆頭なんだ?」
「飴と鞭よ。アレもダメ、これもダメなら息がつまるでしょ? 幸いこの娘、梶君の遺伝子にしか興味ないからある意味安全」
アレか。愛莉ちゃんと俺の遺伝子が同じだから、娘を産んだら合法的に愛莉ちゃんの遺伝子を引き継いだ娘を育成出来るという、関さん妄想のことか。
「まぁ、それはよしとして。母同士の話し合いをしてきますので、後は若いふたりに任せて、みたいな?」
***
その時、本来の彼女ふたり桜花と琴音は……
「ちょ、佐々木さん! そんなマグロ三昧じゃなくてイカも注文してよ」
「えっ~~マグロだけで良くない? 見渡す限り赤で! それより委員長~~ビーフストロガノフは?」
「急にこんな大人数になって、そんな手の込んだ料理出来ないわよ、あとエビも!」
「え⁉ マグロの中から選んでよ、キハダマグロとか中トロ、大トロ、炙りとか~~軍艦もマグロ1択でいい?」
「いいわけないでしょ、サラダ巻きも欲しい~」
「なに女子ぶってんの? もう鉄火巻きね?」
「鉄火巻きもマグロじゃない!」
「バレたか(笑)」
仲よくお昼用の出前寿司をタブレットで注文するふたりだった。
***
再びリビング。
「災難だったね。もしかして愛莉ちゃんネタで釣られた?」
「うん。愛莉センパイの試合連れてってあげるって(くすん)」
「部活中……だったんでしょ?」
「うん。朝練終わると同時」
「その……言いにくいんだけど」
「なに?」
「この格好で電車乗ったんだ」
「うん。コートだと別に気にしてなかったけど、ノースリーブにショートパンツは目立つよね~~ショートパンツってこんなに短かったんだぁって感じ、ちらっ! なんちゃって(笑)」
そう言いながら手で隠していた太ももをおふざけで俺に見せる。記憶に新しいかもだけど、俺のリトルが何故か反応する数少ない女子が関さんで、隣り合ってソファーに腰掛けながら至近距離で太ももを「ちらっ」とされたら……自明の理。
寝た子を起こすとでも申しましょうか、寝てていいリトルが目を覚ましたんですが……しかも、ノースリーブのユニフォームの二の腕辺りがさっきからちょいちょい俺の腕に触れる。
その都度「ごめんね~」「当たっちゃったね~」とニコリ。完全に悪気はない。しかしこのままでは俺の精神がもたない。リトルをここで発動するわけにはいかない。
今は脱いでハンガーに掛けて貰っている薄手のグレーのパーカーを取り「よかったら」と関さんに手渡す。
「いいの? 着ちゃうよ? その……肩とか腕とか素肌だけど……(にこっ)」
よくわからん、よくわからんが謎の破壊力がある。何だろう、前から思っていたが謎のこの親しみやすさ。琴音には琴音の、桜花には桜花の親しみやすさがあるが、ちょっと次元が違う。ちなみに志穂にも親しみやすさはあるが、常に何らかの毒を含んでいる。油断なんて出来ない。
「そう言えば関さん、部活戻んなくていいの? 着替えとか」
「あぁ、うん。ジャージで登校したし。朝練は練習試合だったからユニしか着てない。明日休みだから取りに行かないとだけど、梶君」
「なに?」
「迷惑料で付き合ってよ、明日取りに行くとき。あと明日はオフだから、遊ばない? 変な意味じゃないよ(笑)その遊びプロデュースしてよ」
「遊びをプロデュース?」
「そう、普段梶君が遊んでることに巻き込んで! 私さぁ、周りも部活ばっかだから、休みとか部活絡みなんだよ~~誰かとジャージ見に行くとか、練習用のTシャツ選ぶとか。たまには男子と出かけたい!」
「でも関さんって……」
「えっ? いや、違うよ? 私は愛莉センパイラブなだけで、その百合までは違う。あっ、でも万が一愛莉センパイに迫られたらって、無いか‼ あっ、面倒だから梶君のステディには内緒ね? それで手を打つよ。それとお金が掛かるのはダメよ? あくまで高校生! 低予算で楽しまないと!」
そう言って俺たちはモバイルメッセージアプリ『まいん』のIDを交換した。
えっと、どうなるんだ、これ?
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