第24話 最初から嘘。

「古賀さん。その……こんな時に大笑いしてていいの? その情報処理部のPC壊されちゃったのに……」


 佐々木は古賀さんの高笑いに驚き、心配げに眉間に皺を寄せ尋ねる。こういう時「なんか怖いから放っておこうか」になることが多いが、佐々木はそれでも口を挟む。面倒見やら、心配性、気遣いが鬼ってる。中々できないことだ。


「フフッ、佐々木さんはお優しいですね。でも御心配には及びません。実はは役目を終え長年ここで眠っていたのです。最後のお勤めでなってしまいましたが、梶氏の後顧の憂いを消せたのです。本望でしょう」


 そう言って、古賀さんはしゃがみ残骸になった、年代物のPCの欠片を撫でた。古賀さんにとって、スマホやPCは単なる道具ではない。役に立ってくれる仲間。言葉では「本望」というが、仲間が無残な姿になった胸の内は苦しいだろう。安っぽい言葉だけど、古賀さんだって優しい。


「梶君の……? 古賀さん、どういう……」


「関さん。簡単に言えばここは餌場です。まき餌というのをご存じでしょうか? 魚をおびき寄せるためにまくエサの事です」


「えっと……何となく」


「私がエサをまいたんです。回遊魚チックなお顔の汚ギャルさんを、釣り上げるために、映像に映り込んだ汚ギャルさんの顔認証をしているという、で」


「どういうこと⁉」


 高坂が素っ頓狂な声を出した。古賀さんとは小学校からの同級生で、どうも今回の事で古賀さんに助っ人を頼んでくれたのが高坂。だから、俺は高坂が事の詳細を共有されてるものと考えていたが、違うようだ。


 もしかしたら、古賀さんはこれほどの仕掛けを、状況を見ながら瞬時に判断し罠を仕掛けたのなら……


 激アツだ。


「わかりませんか、高坂君。なんですよ。ラブホの看板に妹さんの映り込みは無かった。彼女が言うように『』編集されてましたから。惜しむらくは、もう一度彼女が投稿した動画を見直してから、行動していればこんな単純な罠には掛からなかった。残念です、まだこちらはのですが、彼女如きでは私の好敵手には成りえませんでした」


 まだ、これ以上罠を仕掛ける準備があったのか……それじゃ、麻利衣なんて古賀さんに掛かれば、かごの中の鳥なのか。驚きだ。


「ん……わかんない! 梶が言った『情報処理部準備室』となんか関係あんの?」


「えぇ、佐々木さん。それはもう。澤北麻利衣にどんな証拠を突き付けたところで、彼女の人としての良心に訴えかけるのは不可能です。ですので、学校という枠組みで最低限犯してはいけないルールを破って貰いました。ちなみに情報処理部準備室に情報処理部のプレートを設置したのは、部室の方には購入したばかりのPCがありますので、壊されたくないじゃないですか(笑)せっかく効かせて生徒会から予算で購入したのですから(笑)」


 あっ、なんか少し悪い策士なのかも……だけど、生徒会に効果のあるって気になる。


「ごめん、更にわかりやすく!」


「承知しました。学校で物を壊しちゃダメですよと言っても、彼女には響きません。壊しても知らぬ存ぜぬを繰り返し、窮したらイジメと泣き叫ぶでしょう。調べたところ、澤北姉妹のお父さまはいわく付きの県会議員。なので動かぬ証拠、言い訳が通用しない次元の証拠を作り、学校側に裁いて貰います。もちろん警察にも」


「それで、動かなくなった旧式のPCを破壊させた?」


「ご明察です、梶氏。その映像を数か所に、設置した隠しカメラで撮影してます。ですので彼女の理解とか自白など必要ないです。学校側が器物破損で動けばそれで解決。ない罪を着せるのではなく、事実彼女はに追い込まれたら躊躇なく破壊する。もし、このまま彼女を放置すれば、なびかない梶氏もしくは佐々木さんや委員長に害が及ぶと考えました。べ、別に彼女が嫌いだからとかじゃないんだからね! 勘違いしないでよね! みたいな?」


「部長、大仕事終えた後で達成感を味わいたいのは理解できますが、最後のツンデレは蛇足中の蛇足! キングオブ蛇足かと! それにツンデレとしては未完成‼」


 そんなツッコミをしながら情報処理部の後輩たちは、本棚や掃除道具入れに設置してあったビデオカメラを回収する。そこには狂ったように暴れる麻利衣の姿が記録されていた。


 まさに狂気の沙汰だ。こんなバットで暴れられたら、男女問わず対処できない。マジキチの域まで達していた。もう、ここまで狂ったら警察にお任せするしかない。


「あっ、ごめんなさい。梶氏、満足感に浸ってる場合じゃないです! 確認ですが、梶氏のご自宅。どなたかご在宅でしょうか?」


「俺の自宅? この時間なら母さんが」


「そうですか……では取り急ぎご連絡ください。一刻も早く自宅を離れるようにと」


 ***

 俺たちは情報処理部から教室に猛ダッシュで戻った。事態は思ってもない方向に向かおうとしていた。


「愛莉ちゃん! 大変だ‼ ってなんで雪ちゃん、たんこぶ出来てんの⁉」


「うぅ~~っ、淳之介~~愛莉にぶたれた~~淳之介、して! ~~(泣)」


「愛莉ちゃん‼」


「だって、ユキが私にだけ内緒にしてたしぃ……」


「ごめんなさい、ダーリン。私あなた達に付いて行く体力ないからここで、とお近づき……いえ、情報共有をしていたの。お姉さまだけ『学校の裏サイト』の動画知らないって。それでお見せしたの、勝手なことしてごめんなさい」


 遅かれ早かれ、それは言わないとだから逆に助かる。この帰り道に話すつもりだったし。それで内緒にしていた雪ちゃんがゲンコツ喰らったワケか……でも、琴音ナイスだ。おかげで説明する時間が省けた。


「淳ちゃん。志穂と別れたのはいい判断だし、こんないい娘が傍にいてくれるのは私的にはうれしいけど、なんで相談してくれないの?」


「お姉さま、口を挟んですみません。その……ダーリン、いえも今朝学校で知ったばかりで、ショックを受けていました。何よりお姉さまにご心配掛けたくなかったのだと……申し訳ありません」 


「あっ、が謝ることじゃないから。淳ちゃん、が出来て姉ちゃん安心!」


 琴音は口元でピースサインをして佐々木を煽る。どうやら、俺たちはがいない間に、自分が真の彼女アピールを猛烈にしたらしい。その結果愛莉ちゃんはまんまと琴音を気に入った感じだ。俺の周りは策士だらけか?


 いや、愛莉ちゃんの場合、雪ちゃん以外なら概ねいいみたいだ。なんせ、雪ちゃんに取られた、みたいになるのが嫌でしょうがない。ぽかんとしてた佐々木だが、ようやく事態を把握したのか「はっ⁉」みたいな顔した。


「あっ、その! 梶センパイ!」


「えっと、なに? 誰?」


「あのあの、実は私が彼女――」


「悪い、佐々木。知っての通り緊急事態だ」


「わ、わかってるけど‼ 私的には緊急事態です‼」


 一瞬駄々をこねたが、事態を知ってる佐々木は頬を丸々膨らますくらいで我慢してくれた。古賀さんの予想では、麻利衣は学校から姿をくらませ俺の自宅を目指している。目的は自宅冷蔵庫で冷凍保存された麻利衣の汚チョコ。


 いざという時、証拠になるように厳重封印し、冷蔵庫の奥底に眠らせてあった。顔の映り込み映像を破壊した今、汚チョコを回収すればすべての証拠が失われると思っている。実際は画像を破壊する際に決定的な証拠を握られたのだが、本人は知らない。


 だからか。だから担任の柿崎に体調不良で早退するって古賀さんが言ったのか。つまり、時間を短縮するために、愛莉ちゃんが送るように手配までしてくれたのか……なんかすごいなぁ、古賀さん。まさに軍師だ。


















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