第57話 仲いいんだ。

「そういうわけだ、高坂」


 俺はまず親友の高坂に連絡を取った。時間的に練習試合が終わってるだろうと思って。高坂は男子バスケ部でレギュラーだった。女子バスケ部ほど強豪ではないが、顧問の先生が熱心なので土日は他校と練習試合をしていた。


『例の件』と言えばすぐに話は伝わった。数少ない男友達なので引退するのが待ち遠しい。まぁ、あと1年はある。


「そうか、案外早かったなぁ。わかった、何か困ったらいつでも言ってくれ」


「そうする。悪いな、疲れてるだろ?」


「はは……そうなんだけど、思いのほか今日の試合大敗でさ、これから反省会なんだ~~メッセージくれたらこっちから連絡するわ」


「わかった。大変だなぁ、じゃあ明日」

 こんな感じ。いつもと変わらない親友との会話にホッとする。ここ二日いろいろあったから、高坂とのぬるい日常が懐かしい。


「次、誰すんの?」

 さっきまでキレてた関さんだけど、機嫌が何故か直ってる。負の感情を引きずらない性格なのか、それとも俺の脛を蹴り上げてすっきりしたのか。もし後者なら、この先俺は生傷が絶えないだろう。まぁ『汚チョコ』に比べればかわいいもんだ。


「親友の古賀さん」


 えっ? みたいな顔するがこれは間違いのない事実だ。古賀さんとは趣味での繋がりがある。ラノベ好きなのに気付いたのを皮切りに、ラノベ原作のアニメやコミカライズの話をしたり、本の貸し借りしたり同じゲームをしたりで友情を深めていた。

 ちなみにラノベ原作でアニメ化した映画にも一緒に行った。高坂が部活や1年の彼女とのお付き合いで忙しい中、フラットな感じで遊べるのは古賀さんだけだ。


「あっ、ジュン。おは~~」


 再び「へっ?」みたいな顔。そう言えば古賀さんと俺が、友情を深めてるのは誰も知らない。隠してるワケじゃないが趣味での繋がりに下手に口出しされたくない。どうせ男と女の友情なんて成立しないとか言われるんだし……


「古賀さん、まさか寝てたの? また『朝まで周回』?」


「うん、おかげで錬成素材ウハウハ(笑)って、なによ?『古賀さん』って。いつもみたいにアリサって呼んでよ~~もう愛してないの? 錬成素材ダブり分けたげないよ?」


 ちなみに言うと同じオンラインゲーム『フライング・バトルシップ・レクイエム』をしていて、俺のゲームネームがジュン。古賀さんがアリサ。まんまなんだけど、ふたりっきりのギルドで肩寄せあってプレーしてるから、仲が良くなるのは当たり前。ゲーム内でお互いそう呼び合うようになったので、実は苗字で今更呼ぶ方が違和感ある。


「いや、それが……」


「なに、また浮気なの? 私というものがありながら……(シクシク)てへっ(笑)」


 こんな感じで軽口を叩きながらプレーしてるのだけど、ゲームに縁がない女子にはきっと受け入れられないだろう。


「またって、なに?(笑)」


「またはまたでしょ?」


 はは……っ、やめて「またなんだ、そうなんだ、そういう子なんだ」みたいな視線。堪りかねた俺は古賀さんにネタバラしをする。隠してたんじゃないけど。


「えっと……つまり今、この会話はスピーカーでジュン……じゃない、梶君以外も聞いてて、高確率でそれは女子で、しかも梶君に実ることない恋心を抱いてる女子に私ったら『もう愛してないの?』とか『私というものがありながら』とか言いやがった訳ですか……そうですか、死亡フラグですか……待って、せめて当てさせて。ここはあれね、ジュン……じゃない! 梶君が愛してやまない、愛が止まらない来島先輩ね? どう、正解?」


『おい!』みたいにショルダータックル。部活女子、鍛えてるから手加減して。相当痛いよ、関さん!


「違うよ……」


「よかった~~じゃあ、来島先輩にダンクシュートされなくて済むんだ~~じゃあさ……」

 どんなイメージだ。いや、そんなことはいい。このまま俺の周りの女子を不作為にピックアップされたら、隣にいる部活女子の攻撃が激化するだけだ。待ったを掛けようとした俺を遮って関さんが声をあげた。


「どうも、いつも淳之介がお世話になってます」


「誰? 愛莉先輩? それともお母さん? 例のダークネスお母さま⁉」

 古賀さんは謎にテンションを上げた。いや、前からウチの母に、というか武勇に激しく興味があった古賀さんだったが「関です」の言葉にあからさまに落胆した。


「つまりは『例の件』が発動基準を満たしたってことですね。了解しました。ご連絡ありがとうございます」

 急によそよそしい口調になった古賀さんだったが思い直したのか、間をおいて。


「ジュン、今日インするでしょ? もう、リアルの女子なんかさぁ、放っといて私の悪役令嬢に決めちゃいなよ(笑)じゃあ、また夜ね?」

 切られた通話。軽い咳払いと共に俺を見た。


「古賀さんて、こんな子なの?」


「概ね」


「仲いいんだ」


「うん。同じゲームしたり、ラノベの話したりで」


 なんか納得したようで納得いかない顔してた。この頃には和人君が目を覚ましたので自宅に送ることにした。ここから先は俺一人で話を進める事にする。残りは桜花と琴音、ミキティーナそして自分の家族。雪ちゃんと愛莉ちゃんには事後でいいだろう。特にこのふたりは元澤北姉妹に関わることを嫌っている。それが最後の関りになるとしても。















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る