第8話 マジサイアク。

 私は訳がわからないまま、この異常な空気の教室にいた。慣れてる。中学の時クラスの女子はみんな私のアンチだった。あの頃は自業自得だから仕方ないし、無視とかされる覚悟みたいなのがあった。


 何した?


 思い当たらない。昨日も今朝も私はほとんど誰とも口をきいていない。うっかり誰かを傷つけることとか、裏垢使ってヤバいコメントしたりしてない。


 考えられるのは今朝、梶君が保健室に行ったこと。彼女で保健委員の私が連れて行かなかったから冷たいとかかな……


 でも、知った時には梶君は佐々木と保健室だった。そもそもあの時、梶君たちが保健室に行くの知ってたのって委員長の和田さんくらい。


 待って、和田さんの言葉も少し変。普段あまり絡んだことがないけど、和田さんも佐々木同様、梶君と仲がいい。


 いや、どちらかといえば喧嘩友達。私には言わないような毒のある言葉がふたりの間で飛び交ってる。


 羨ましい。しばしばそんな風に感じる。


 何回か和田さんと仲いいんだね、なんて聞いたことがあったけど、梶君は信じられないみたいな顔して私を見た。


 それで実感した言葉がある。喧嘩するほど仲がいいって。でも、どういうことかなぁ……家に招かれるほどの関係だったの? 


 しかも手料理を用意してまで。和田さん、料理とか出来そう……私は全然出来ない。でも、日曜日に和田さんの家に行くってことは、家族と会うんだよね?


 ふたりはどう思ってるかわからないけど、和田さんの家族からしたら、梶君のことを特別な存在だと和田さんが思ってるって位置づける。


 梶君のことだから、すぐに気に入られちゃうだろうなぁ……ご両親に。そりゃ、娘が日曜日に手料理を振る舞う関係なんだから、ただの友達とは思わないよね……


 私の中学時代は品行方正とは程遠い。親からも何度も注意されていた。なんかの拍子に「中学時代は――」なんて言われたくないから、親がいる時には梶君を自宅に呼んだことはない。


 自分は梶君の家族に紹介されたけど、私はその時家にいた妹にしか紹介してない。お父さんは無口だし、お母さんは神経質。


 会話が盛り上がるなんて、ありえないからなんて言い訳を自分にしてたし、逃げてた。それを和田さんの家で、日曜日に手料理に誘われて行く感じなんだ……


 なんで? おかしくない? 


 土日はふたりで予定決めようねって約束だよね。えっと、聞かれてない。今週週末どうするかなんて。男友達の高坂君と遊ぶ時だって「遊んでいい?」みたいなこと聞かれるのに、和田さん女子だよ?


 自分たち気付いてないかもだけど、ふたりの口喧嘩傍から見たら「いちゃついてるよねぇ」って噂されてるのよ? 


 だいたい何よ、ビーフストロガノフって! 


 料理出来ないから、それがどれだけ手が凝った料理かはわかんないけど、ただのクラスメイトに作る料理じゃないよね? 


 なに、和田さん梶君狙ってるの? それにしては露骨じゃない? それになに? 騙されるとか性癖とかわけわかんない。


 それになに?


 普段から梶君と仲がいい佐々木や和田さん、佐々木と仲がいい楢崎さんが私が保健委員で彼女のクセに、梶君保健室に連れて行かなかったの怒るのはわかんなくもないけど、なんで高坂君まで出てくんの?


 私普段から高坂君、梶君と仲いいから割と親切にしてるつもりだし、おかしくない? いつも、あんなな対応しないでしょ? なんで今なの? なに、最後のプレゼントって。


 意味わからないことだらけ。聞きたくても梶君には近寄れないし、いま高坂君とトイレだし……近寄れないなら、電話しようか。高坂君の「澤北ちゃんだけ、のけ者」って言葉も気になる。


 私は佐々木一派から離れ廊下でケータイを取り出した。モバイルメッセージアプリ「まいん」を開いたその時、思いもしない人物から声を掛けられた。


 クラスの女子古賀さんだ。


 いつも本を読んでて、自分に自信がないのか前髪で目元を隠してる。いわゆるボッチ。佐々木一派と絡みたくない私も、梶君がいなければクラスではボッチ。


 だから佐々木一派と話すくらいなら、古賀さんと話す方がいくらかはマシ。そんなこともあって、このクラスの中ではまだ話をする女子だ。


 でも、このタイミングで話し掛けられるのは少しウザい。休み時間の半分は終わってるし、一刻も早く梶君と話がしたい。いや、声が聞きたい。


 もし、保健室に連れて行かなかったこと梶君も怒ってるなら、謝りたい。それくらいで怒る人じゃないかもだけど、体調悪い時は誰だって心狭くなる。いつも優しい梶君でも同じかも。


 謝りたいし、正直そこまで体調悪いのは心配。何なら私も一緒に早退して家まで送ってもいい。そうだ、そうしよう。その時色々話せばいい。ここ2日ふたりでの時間取れてない。


 明らかに今の私は梶君要素が不足してる。そうか、そうだ! この2日ほったらかしだったから、寂しかったんだ! それで拗ねてるんだ! 


 なんだ、そうか。よかった! なんだ、言えないけど全部、木田君のせいだ! よし、決めた!


 もう、木田君がどんな脅しして来ても! しつこくしたら、警察に相談するって逆に脅してやれば解決じゃない?


「古賀さん、ちょっと待ってくれる? 梶君に『まいん』で通話したいの」


 顔では申し訳なさそうな表情を作るが、今はクラスのモブを相手してる時じゃない。私はモバイルメッセージアプリ「まいん」で梶君を選び通話ボタンを押した。


「あれ……このユーザーは存在しませんって……なに?」


 独り言のつもりだったが、返事が返って来た。古賀さんだ。


「あっ、そのメッセージが出るのは相手が退会したか――」


「退会……梶君が?」


「その……です」


 ……⁉ なんで⁉ わけわかんない……マジサイアク。




















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る