第9話 祭りのあと。

 ど、どういうこと? 


 梶君にブロックされた⁉ 私が? 彼女だよ⁉ っていうかブロックなんてで、私される側じゃない! 


 しかも、彼氏でずっとこの人の彼女したいと思ってる梶君にだよ⁉


 ブロックって、ちょっと2日放置したくらいでやり過ぎでしょ、寂しくさせたのはごめんって……謝るから……


 いや、あの梶君だよ? 


 そんなのなくない? そうだ、電波だ! 回線状態が悪いんだ!


「ちなみになんだけど……もし、澤北さんが通信異常疑ってるなら、それないから」


「えっと……古賀さん、なんで?」


「通信異常とかなら『回線状態をご確認ください』ってメッセージ出る『このユーザーは存在しません』は相手が何らかの理由で退会したか、ブロックだって。公式サイトに出てる」


 なんでクラスのモブの古賀さん、こんなに語るの? もしかして親切なつもりなの? 


 いや、親切心なんだろう。


 古賀さんは佐々木とは違う。あっ、そう言えば古賀さん情報処理部だ。


 こういうの詳しいから、いつになくグイグイくるんだ。でも、その情報いまはいらんわぁ……


 なんで私ったら廊下で途方に暮れてるんだろ?


 考えても頭真っ白で何も考えられない。どうしよ、このまま梶君とお別れなんてなったら……


 一生後悔する。何かないの? 


 あっ……そうだ。さっき高坂君が『最後のプレゼント』って……最後の? 


 あれ? プレゼントの聞き間違いかな? 


 最高のプレゼントの聞き間違いなら、高坂君が何かヒントくれたのかも。


 そうよ、そう! 私、梶君の友達の高坂君には良くしてきたもの! 確かURL送ったって……ここか! 


「ん……学校の裏サイト?」


 小首を傾げる私に、古賀さんが急にキョドり出した。どうしたの? 


 トイレでも行きたいのと聞きたくなるほど、落ち着きを失くした。


 それでなんでかわからないけど、申し訳なさそうな顔して、言った。


「あ……っ、その。澤北さん、もしその動画観るなら……家の方がいいかな? その……ひとりでとか? ここじゃ、ちょっと……マズい? が……」


 なに? 古賀さん、動画だからパケ代とか気にしてくれてるのかなぁ……


 情報処理部的気遣いって訳ね。


「あっ、私パケ無限だから、大丈夫よ」


「そ、そうなんだ…………あの、澤北さん! 次、移動教室だから、私行くね! なんか、ごめんね! 私、ちょっとだから!」


 謝られた。移動教室に先に行くからかなぁ……? 


 でも、移動教室一緒に行くほど仲良かったかなぁ……偶然廊下で一緒とかあったけど。


 まぁ……高坂君だから、あんまし期待はしないでおこう。


 いい人だけど、なんやかんやと詰めが甘いとこあるし……私は特に考えなく学校の裏サイトを開いた。


 へぇ…こんなんあるんだ。学校の裏サイトなんて都市伝説だと思ってた。どうしよ、怪談とかだと怖いなぁ……


 ただでさえ移動教室って不気味なんだよなぁ……なんとなく。梶君、一緒に見てくれないかなぁ……


 今は無理か。流石に……


 仕方ない。すぅはぁ~すぅはぁ~して観るか。よし……


 えっとこの映像……学校じゃない。外よね……駅。3つ先の駅だ。ここなら知ってる。


 駅と学校の裏サイト、しかも3駅も離れたところ。なんか関係あるのかなぁ。


 あっ、画面が変わった……裏通りだ……ここ知ってる。


 隠れ家的なカフェあるんだ。梶君と仲直りしたら、誘ってみよう……えっ……?


 なにこれ……小さいから気付かなかったけど……ウチの制服じゃない……ここ確か……


 この先は……って待ってよ、待って! 待ってって‼


 そうだ、そう! ど、動画の日付‼ 噓……きのうだ……えっ⁉ 


 あの制服で並んで歩く後ろ姿って木田君と……私じゃん……ダメ! 絶対! 


 こんなの……そうだ時間、時間は……16:35……ガチじゃん、この後入る……ラブホのに。


 あっ、でもこんなに小さかったら、私だって特定されないよね、最悪言い逃れきくわよねって、なんでズームするかな! 


 これじゃバレるじゃん! 私だって……なにニコニコしてんだ、私。


 うわっ、キショ……我ながら……。


 しかもなにこれ、意図的? なんでシュシュアップにしてんだろ……


 あぁ……最悪だ、最低サイアク。このシュシュ……


 初デートの時、梶君に買ってもらったやつだ……私、木田に抱かれたんだ。


 ヤバい、マジで倒れそう。ははっ…なに私。


 親がお金持ちのボンボン大学生の高価なプレゼントに慣れ過ぎた? 


 高校生が買える程度のプレゼントなんて、興味なかった?  


 大切な思い出のシュシュなのに。はははっ、最低だな、私。


 大好きな梶君が、おこずかいから買ってくれた大切な物なのに。


 私なにした? これつけたまま木田に抱かれ、私の上で……


 もう、私、自他共に認めるクソビッチじゃん。


 どの口が「大好きな梶君」なんて言ってんだ? 


 だいたいだって……使、喜ばせるのに……このクソビッチ‼


 泣きたい。消えたい……深海に沈められたい……


「おい、。そろそろ行かないと間に合わないぞ?」


 えっ、ウソ……梶君⁉ 心配して声かけてくれたんだ……梶君優しいから。


 泣きそうになるのを頑張って無理やり笑って振り向いた。


 違う、違う、違う、違う、違う、違う‼ 


「――なに? 


「いや、もうチャイム鳴るだろ? 移動教室遠いし…」


「そうじゃない、だからなに?」


「えっと、何ってなに?」


「いや、色々なに? 何で約束守れない? 学校じゃ話し掛けないでって言ったわよね。あとなに? って?」


 そこに立っていたのは梶君じゃない。薄っぺらいイケメン木田だった。


 私が少しキレただけでしどろもどろ。まったく情けない。こんなヤツに脅されたなんて。


「いや、オレたちさぁ、だろ? そろそろさせてもいいかな、みたいな?」


「ははっ、笑っちゃう! 1回2回ヤッたからってもうカレシ面? もし脅してんなら、どうぞご勝手に梶君でも佐々木にでも言えば? もうバレてるつぅーの! 移動教室にはひとりでどーぞ」


「志穂……澤北どこいくんだよ」


「私は保健室。と話して頭痛いから」


 ふん、今更八つ当たりしても後の祭りよね。


 でも、いったい誰……こんな動画撮ってわざわざアップするなんて。


 佐々木桜花? 


 いや、違う。あの女ならこんなまどろっこしいことしない。直接文句言うだろ。


 それに佐々木桜花みたいな、金髪で長身のJKがラブホ街なんかいたら目立つ。


 そんな注目浴びてたら気付くだろ。いったい誰がこんな……


 










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