第61話 それぞれの始まり【最終回】

 数日後。

 俺が通う学校の掲示板に1枚のプリントが掲示された。


『2年1組 木田隆 本校を退学処分とする』


『1年3組 澤北麻利衣 本校を退学処分とする』


 こんな感じだ。こうして『学校の裏サイト』から始まった寝取られ事件に一定の結論が出た。


 大人しくしていれば、肩身は狭いだろうが卒業までいれただろう。まぁ、そういうまともな思考回路があれば人の彼女を寝取ったり、ありもしない強制わいせつの疑いで『汚チョコ』を無理やり食わせたりしないだろう。


 後日知ったのだが、木田は警察から逃げようとして二階からダイブ。玉を潰す大けがを負ったらしい。


 敢えて誰もコメントしなかったが心の中で『ざまぁ』と思ったことだろう。残念ながら、俺はそこまで木田には興味がなかった。志穂のことも。


 もうすべてが俺にとっては過去のことだった。


 ***

 実のところ、特に誰とも進展がないまま俺たちは高校2年を終えて3年に進級した。


 いや、そうなる前に一応触れておくと、麻利衣の親とウチは示談が成立した。条件は幾何いくばくかの慰謝料と、2度と接近しないという事。しかし、こんなことを守る麻利衣ではない。


 しばしば、俺の前に現れて改めて警察に通報しようかと両親に相談していた矢先、志穂からあることが共有された。


「実家……って言えば変かな? 前住んでた家、売りに出されるみたい」


 聞くところによると、志穂の前の義理の父親の志穂に対する暴力事件で逮捕、執行猶予が付くものの議員辞職した。


 その結果、収入が途絶えた澤北家が父親の地元である東北に戻る事となった。そしてある疑問。


「あのバカ、簡単に受け入れたのか?」


「そんなワケないでしょ、お母さんに泣きついて『一緒に住ませてくれ』とか『家族でしょ!』とか『聞いてくれないと死ぬ』とか。ハイツの駐車場で転がりまくって……」


「折れたのか?」


「冗談! お母さんも清々してたから。警察呼んだ、脅迫で」

 至る所で脅迫しまくるヤツだなぁ……流石にウチには来ないだろ。最強系お母さんがいるからな。


「ところで、梶君。これからどうするの? 梶君だけ外部進学クラスだけど、言ってないんでしょ? ?」


 ウチの高校は大学の付属校。だからある程度の成績があれば、大学へ進学出来た。


 愛莉ちゃんが、県外の女子バスケ強豪大学にいい条件で進学してくれたので、このままエスカレータ式で付属大学への道もあったのだけど、少しでも家計の負担を減らしたい俺は国公立大学を目指す進学クラスに入った。


 ちなみに言うと、雪ちゃんは予想通り愛莉ちゃんと別の進路を選んだ。実家から通える国立大学に見事合格していた。


「来島先輩と同じ大学行くの?」


 探るような質問。志穂の成績は知っていたので逆立ちしても、ついて来れるとは思わなかったが曖昧に首を振った。


 俺は大学進学を期に地元を少し離れようと考えていた。


「決めてないけど、雪ちゃんと同じ大学は無理だな」

 自虐的に笑った。事実だった。


 3年のクラス替えの日の屋上。

 強めの風が吹いて少し寒い。俺は少しあの日からのことを思い出していた。


 琴音の家で立ち聞きされた日からの事。あれから何度か関さんと遊んだが和人君と3人だ。進展がないまま、何となく前の仲よしみたいな関係に戻っていた。


 琴音とも桜花ともこれといって何もない。温い会話をして馬鹿笑いする、そんな関係。古賀さんとは相変わらず同じゲームをしているが、古賀さんも医療系の公立校を目指すので、お互いゲームも控えめになっていた。


「梶君。もしかしたら、これがふたりでする最後の会話かもね」


 強い風に髪を整える志穂の横顔は相変わらずきれいだった。そして志穂の予言通りふたりで会話する最後になった。


 内部進学と、外部進学では3年の過ごし方がまるで違っていた。雪ちゃんが勉強を教えてくれるといってくれたが俺は予備校に通った。


 今までの色んな甘えをかき消すように、俺は女子との関係を薄くした。いや、そうでもしないと国公立に受かるなんてあり得ない。


 ***

 時は流れ、俺は幸いにも目標の大学に合格した。古賀さんも医療系の公立校に入学を決めた。


 内部進学をする桜花達も特に不祥事がなかったから、進学しただろう。


 そう、高校3年の1年間でこんなことも知らないくらい疎遠になっていた。俺は顔見知りに「またな」と手を振り、地元を離れ大学のある関西の地方都市に向かった。


 ***

「思ってたより悪くない」

 学生寮やワンルームマンションも考えたのだけど、狭いし高い。なので築古年なる木造アパートで暮らすことになった。


 家賃は安いし大家さんが畳や壁紙を新しくしてくれたので、古さは感じない。


 心残りがない訳じゃない。

 もう少しちゃんと話をして地元を離れてもよかった。桜花や琴音、そして関さんのことだ。


 だけど、この1年受験一色だった。今更、合格したからって話しかけるのは少し、いやめちゃくちゃ気が引けた。


 今なら桜花の「気まずい」という気持ちがわかるけど、覆水盆に返らずだ。


(――とはいえ、無事に引越した連絡くらいするかぁ……)


 喧嘩別れしたワケじゃない。俺はアパートのベランダに出た。見渡しがいい。どこからか春特有の匂いがした。土のような匂いが心地よかった。


 スマホを取り出し、少し考えてハードルが低めの琴音の『まいん』に通話した。


(出ないな……ブロックでもされたか)


 それも仕方ない。何も言わずに来たんだ。いくら温厚な琴音でも怒るだろ。


 自嘲気味に笑う俺の耳に遠くから電子音が響いた。なんとなく見た視線の先に……


「何やってんの、お前ら?」


 アパートに横付けされたトラックから姿を現したのは琴音と桜花だった。琴音は柔らかな笑顔で手を振り、桜花は不機嫌そうに睨んだ。


「言ったでしょ、佐々木さん。ダーリンはまず私に連絡をくれるって」


「梶! ここで連絡はメインヒロインたる私じゃない⁉ せっかく血を吐く思いで受験勉強したのに‼」


「あの……なに言ってるかわからない」


「ダーリン。私はダーリンと同じ学部に合格しました! 佐々木さんは一番偏差値が控え目な学部に補欠ながら……」


「どういうこと?」


「それはこっちのセリフ‼ なんで黙って受験した⁉ なんで何も言わずに引っ越した‼ その事をこれから4年掛けてじっくり反省してもらうんだから‼」


 激おこな桜花だが、どうやら要約するとこの四月から同じ大学に通うらしい。


 付け加えるとふたりがルームシェアする形で俺のアパートの隣に住むことになった。賑やかな大学生活待ったなしの予感だ。


 ***END***


 長々とお付き合い頂きありがとうございました。


 次回作は12月1日お昼0:02公開します。

『NTRから始まる恋もある⁉』はこれにて完結します。

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 アサガキタ。







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NTRから始まる恋もある⁉ アサガキタ @sazanami023

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