第2話 見間違えるはず……。
「佐々木桜花。グッジョブだ」
保健室に自称体調不良の佐々木を連れて行った。そこには保健室の藤原六花先生が白衣を着て、なぜか仮病っぽい佐々木を褒める。
「あぁ……先生も知ってる感じ?」
気のせいか、委員長ちゃんこと和田琴音といい六花先生といい、なんか核心を避けた会話を佐々木としている。みんな友達なのか?
それともグル? はっ⁉ まさか俺、監禁されるの⁉
「まぁな。これでも先生、学校の裏サイトは欠かさず閲覧してるからな!」
「変なところでドヤんないでください。一応クラスには胃痛ってことで」
「梶弟は胃痛……と。お前はアレでいいか?」
「先生。男子の前でアレとか言わないでください! 違いますし!」
「いいだろ? 梶は姉ちゃんいるんだから、知ってるよな~~梶くん?」
なんて答えろと? 知ってますが? 姉ちゃんのそれ近辺、めちゃくちゃこき使われますから、身をもって知ってますが?
もうほぼ奴隷ですが? 奴隷制度反対! まぁ、姉ちゃんのことはいいか……
「六花先生、ところでなんです? 俺、もしや拉致られてません?」
「ん……佐々木。まだ伝えてないのか?」
「伝えてたらこんな呑気な顔してると思います?」
「思わん。よし、ここは私に任せろ」
「お願いします」
「梶。実を言うと……私は婚活をしている」
「先生、なに生徒に聞かせてるかな! 全然関係なくないですか?」
「佐々木。まぁ、聞け。梶も見たろ? この同年代の女子のギスギスしたツッコミ! 私はだな、自分の自虐ネタでだな、場を和ませてからの――」
「先生。時間ないです、マキでお願いします!」
「梶、聞いた? な? ちょっとくらい若いからってさ……梶、いいかよく聞いてくれ」
「はい」
「私はお前より、ほ~んの少し年上だ。安心しろ、ひと回りは変わらん! しかも私は年上故の心のゆとりがある! お前も来年18だろ? 先生、1年くらい全然待つ! お前が望むなら先生、お前を実費で大学まで通わせる貯金はある! なんてったって公務員だからな!」
「先生。婚活に疲れたのはわかりますが、本題がまるで見えません。あと勤務時間中に生徒口説かないでください。それにお金で釣ろうなんて……なんか涙で前が見えません!」
「黙れ! 佐々木のクセに! わ、私だってお前くらいの歳の頃は、お前みたいにお高くとまってたさ! でもさ、最近しみじみ言われるんだ、両親に『六花そろそろ、お相手のひとりやふたり』って。わかってるさ! わかってる! いや、わかって欲しい! お相手の『ひとりやふたり』なんて簡単に言わないで‼ ひとりでも無理なのに、ふたりなんて無理ゲーだろ! そう思わんか⁉」
「先生。本題に入る気ないんなら、邪魔なんで職員室に戻ってください、私が話します」
「邪魔⁉ 違う! それは断じて違う! 私は持論として『恋を忘れるなら恋だろ?』だと思ってる」
「いや、先生。残念ですが先生は恋をすっ飛ばして婚姻関係結ぼうとしてます。生徒を救うフリして自分救済ですから……って言うか、先生時間ないから本題に入っていいですか?」
「まぁ、うん。いくら場を和ませても、どうしようもないこともあるからなぁ。どうする、佐々木? 百聞は一見に如かずと言うが……見せるか? 裏サイトの」
そこまで言って六花先生も佐々木も黙り込んだ。どうやら学校の裏サイトが問題らしい。
ふたりはその裏サイトを見てる。それで俺に関係してる感じか?どうせアレだろ? 志穂と出来てるとか、もうそういう関係だとか。
でも、安心してください! まだ、手しか握ってません! 清い関係です!
「あのさ、梶。その……言いにくいんだけど」
「なに?」
「誤解なら謝る。でも、もし間違いないなら……考えた方がいい」
そう言って佐々木は俺の手を握った。ひんやりとした手をしていた。いや、何より驚いた。仲がいい女友達ではあるけど、手を握られたことは初めてだ。
「佐々木。そのまま握っておいてやれ」
「はい」
鈍い方だと自覚はある。うん、察するとか空気読むとか出来てないと思う。だけど、たぶん、これがただ事じゃないのはわかる。
そして察しの悪い俺でも理解しかけていた。出来るだけダメージが少なくて済むように、佐々木が仮病まで使って保健室に連れ出してくれたこと。
委員長ちゃんもその片棒を持ってくれたこと。六花先生は自分のスマホを取り出し、机の上に立てた。3人で見れるように横に置き、3人で並んだ。
両側を挟まれる感じ。逃げられない現実がそこにはありそうで、イヤだった。流石に察しが悪い俺でもわかった。志穂絡みだと。
見る前から嫌な汗が額に浮かぶ。ははっ……委員長ちゃんが言ったとおりだ。大なり小なり胃痛になるって。今まで胃痛なんてなったことないのに。
佐々木は俺の顔色をうかがいながら、再生ボタンをタッチした。動画はある街角。繁華街から始まりやがて裏通りに入った。歩きながらの撮影なのか、画面が揺れる。
揺れる画面でもわかる。そこに写る見慣れた制服の後姿は俺の彼女の澤北志穂だ。小さい映像だが間違いない、だって彼女なんだ。見間違えるはずない。
見間違えるはず……ない。その見間違えるはずない志穂が、笑顔で誰かの体に寄り添っている。
そしてご親切にもここで撮影者はカメラをズームした。ズームされた映像には、腕に手を絡ませた志穂とクラスメイトの木田が映っていた。
木田はクラス、いや校内で1、2を争うイケメン。そのイケメンの木田がどうして目立たない方の志穂と……
そして否定できないほどしっかりとした映像で、ふたりはラブホの入り口に消えた。
映像はその後ご丁寧にラブホ前の料金表を映して終わった。画面下の撮影時の日付は一昨日の16:35。志穂が用事があると先に帰った日だった。
気付かなかった。佐々木が背中を擦ってくれるまで。理解できなかった。六花先生が俺の頭を乱暴に撫でるまで。俺は気付かないうちに、くしゃくしゃになって泣いていた。
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