第36話 全回復!
「ぶっちゃけ、佐々木が拗ねてる」
ホームルーム後、関さんは愛莉ちゃん捜索に出た。高坂はノー部活デイで1年生彼女の元へ。古賀さんは欲しいラノベの発売日なので、そそくさと帰路に就いた。休み時間よく本を読んでいるが、ラノベだったんだ。俺もそこそこ読むので、そっち方面で話しできる仲間になれたら楽しそうだ。
残った琴音とミキティーナに佐々木が拗ねてる状況と、ケガの感じを共有した。琴音は視線を逸らし、ミキティーナは腕を組み苦い顔して何回か頷いた。ミキティーナの反応的に、そろそろ拗ねる予想はあったみたいだ。
「琴音」
「うん。ごめんなさい、最近ほんの少し煽り過ぎたかしら。あと、少しだけ何点かにおいてドヤった気もするわ。案外打たれ弱いのね」
「いや、そう言うんじゃないけど……なんか根暗というか」
「たまには拗ねさせとけば? それより梶君、帰りに『まっぷ』行かない? ほら、より戻したことだし? 新作バーガーが今日からなの」
いきなり参戦した志穂の発言に、琴音は俺を睨み、ミキティーナは「おい!」と脇腹を突いてきた。こういうのはなんて言うんだ? 情報のリークではない。風評被害……か?『風評被害』とは根拠の不確かな噂や、科学的な根拠に基づかない流言飛語。
そう、今に相応しい言葉だ。しかし、風評被害って目の前で発生することあるんだ。知らなかった。いや、呑気な顔してられん。こんな根も葉もないことを放置したら、認めたに等しい。
「あのさぁ、斎藤。悪いけど、よりは戻してません」
「またまた~~照れちゃって~~」
「いや、そこ返しおかしいからな?」
俺は同意を求めるように、他のふたりを見るが反応が冷たい。あれ? いや、このインフルエンサーのニセ情報信じちゃった感じですか?
「あーし的にはどうでもいいんだけど、委員長と佐々木の心情っていうか、気持ちを代弁するなら『お前、シバかれたいのか』だ、梶っち」
「え……っと?」
「明日。放課後デートするって聞いたけど、今日もなのダーリン?」
「明日は……買い物?」
「そういうの込みで『放課後デート』って言うんじゃないのかと、あーしは思うけど?」
マズい、確かにそうかも。今まで志穂と一緒に行動するのが当たり前だった。だから、うかつにそんな約束をしてしまった。マジで髪が鬱陶しいだけなんだけど、考えてみたら自分でも言い訳臭く感じる。
だけど『学校の裏サイト』の件。停学明けに孤立しないように、佐々木をはじめ琴音、ミキティーナが配慮して仲間に引き入れたのだけど、それは我慢の上で成り立っているのを、俺は軽く見ていた。
「ごめんなさい」
下手な言い訳はやめた。お前らが「構え」って言ったんだろ? そんな言い訳は言い訳でしかない。実際桜花に「構い方‼」と大声で指摘された。
俺と志穂の間では、どこかで停学という
もし、理解してもらいたいなら、相手が理解してくれるまで言葉と思いを重ねないとダメだった。俺は無条件で助けてもらった。もしこれからも助けて欲しくて、そして俺もいつかこいつらを助けたいなら、互いの理解が必要だ。
だけど、それは1度受け入れた志穂を投げ出すのとは違う。志穂を含めた融合と言えば大げさだけど、その調整は俺が取らないと。言われたから構って、言われたから冷たくするなんて、あまりにももったいない。もっと自分が何がしたくて何をして欲しくて、何が出来るか言葉にしないと。それは裏を返せば、何が出来ないか決めないといけない。
構いたいから構って、腹が立つからジト目で睨む。それでいい。誰かの顔色を見るのは少な目にする。でも、そうするには単純明快でないと。
「明日……みんなで行く?」
「委員長、梶っちヒヨったぞ?」
「そうね、まさに玉虫色の解決ね」
「まぁ、梶君に対して絶対強者の私ですから? 譲歩しないこともないけど?」
「そう、澤北さん改め斎藤さん。ダーリンの顔を立てることに余念がない私だから、仕方ないのであなたの譲歩を受け入れ、明日の放課後デートは『琴音フィーチャリング、ビッチシスターズ』で参加するわ」
「色々口を挟みたいけど、長女明日部活だろ? 古賀っちも情報処理部あるだろうし、あーしも正直面倒くさい。お前らだけで行けよ」
「あらあら、じゃあ明日は私と斎藤さんとダーリンで放課後デートね?」
「いや、琴音。そこは桜花も入れてやれ、また拗ねるだろ?」
「「「桜花⁉」」」
「梶っち、お前佐々木を桜花って呼んでんのか?」
「そのさっきから。なんていうか委員長のことは、いつの間にか『琴音』って呼んでたし、志穂のことはイジリで『斎藤さん』呼びするのはあるけど、基本志穂だし、佐々木だけいつまでも苗字だから」
「まぁ、関係ないあーしですらミキティーナだからなぁ。なにアイツそんなことで拗ねてんの?」
「じゃあ、心が私同様に瀬戸内海サイズのダーリンは、佐々木さんの下の名前呼びにする訳ね。仕方ないわね、ここは快く許可しましょう」
「えっと、琴音の許可が必要だったんだ……心が瀬戸内海って? うず潮とかあるって話?」
「梶っち、そのくだりつまんないから、スルーで。それよか佐々木頼むわ。斎藤が邪魔しないか見とくから」
***
佐々木桜花を連れ最寄り駅に向かった。俺は自転車通学なので自転車を押し、桜花には歩道側を歩かせる。自分のリュックを肩に掛け、桜花のリュックを自転車のかごに入れて。
「あのさ」
「はい……」
「なんでそんなカチカチなの? 俺も緊張するだろ」
「ごめん、なんか意識しちゃって……」
「なんだ、かわいいとこあるな、桜花」
「かわっ⁉ 桜花⁉ あわわっ~~」
あっ、やらかしたか? いや、深い意味ないんだけど。それにこの場合の「かわいい」は容姿というか、行動? どっちか言えば、小さな子供の行動がかわいいと感じる「かわいい」に近い意味で言ったんだけど……ただでさえ透き通るような白い肌が、真っ赤に染め上がっている。
もしやこれが桜花との『初デート』になるんだろうか? そう思うと俺も緊張してきた。そういえば志穂の時も緊張し……いや、なにちょいちょい俺は志穂とのことで比べてんだ? こういうのが『梶は冷たい』につながるんじゃないのか? 俺は息を吸い込み、気持ちを落ち着かせた。
「誤解しないで欲しいんだけどと先に言う」
「えっと……?」
「明日その……斎藤と約束をしてた件」
「ドヤられたやつね(笑)いや、笑えないけど……」
「おまえと琴音も含めたメンバーにしようって」
「そうなんだ……もしかして気使ったの?」
「多少は。でも、まぁ、それくらいしないとだったかなぁって。後さ」
「うん」
「その、アイツさぁ……鬱陶しくて髪」
「まぁね~~中学時代はまんまアレだよ?」
「前にシュシュ買ってやったんだけど、着ける資格ないって言うから」
「そうなんだ、割と梶には、まともなんだねぇ……そうなんだぁ。それで?」
「買うことになった」
「なんで⁉」
「いや、鬱陶しいからなんだけど。ちょっとデリカシーに欠けたと反省中」
「反省してるんだ……ならいいかぁ……」
「でも、鬱陶しいのは変わらん‼」
「いや、梶? お父さんじゃないんだよ?」
「いや、そうなんだけど。だから買うよって話と」
「うん」
「その……志穂の前に桜花に買いたいってのはダメか? こういうの」
俺は桜花のハーフクラウンアップにされた、長い髪を束ねた髪飾りを指さした。
「髪留め? えっと……いいの? 一緒に行ってくれるの、その今から?」
「おしり痛いならやめとくけど?」
「よっしゃー! 全回復〜〜!」
跳ね回ってるところを見ると、デッドボールのケガはもう大丈夫みたいだ。それにしても4歳児さんの反応と大差ないなぁ……まぁ、いいけど。
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