第14話 仲よくしてやってくれ。
「えっと……梶君。その……これは何の集まり? その麻利衣までいるから、気になってごめん、声掛けたけど」
志穂は額に浮かんだ汗を拭ってやりたくなるほど、しどろもどろだ。なるほど……ようやく主演女優として出演した『学校の裏サイト』動画を見たらしい。
実際は教室の隅で静かに生息したかったのだろうけど、澤北家が誇る爆弾娘が教室で、しかも寝取られ元彼の傍にいるとなると、呼吸が止まりそうなんだろう。
正直少しも吹っ切れてない。時が解決してくれるとか言うが、残念ながら寝取られホヤホヤなんで、記憶の風化も期待できない。
だいたいまだ、怒りで指先が震えている。だけど目の前で澤北姉妹が怯えているのを見ると、不思議と落ち着いた。
「いや~~いまみんなでスマホの見せ合いっこしてたんだ。俺の見せるから、見せてみたいな? 佐々木と琴音、ミキティーナは快く見せてくれたんだけど、君んちのクソガキが個人情報みたいなすかしたこと抜かして、見せてくれないんだ。見せれない何かあるの? 澤北さんちのクソガキ?」
「「澤北さんちのクソガキ……⁉」」
ふたりだけぶっちぎりで氷点下の世界で凍り付いた。まだこんなモンじゃないでしょ。俺はサラッと付け加えた。
「澤北さんちのビッチ姉さんの方は見せられる? あっ、ごめん。1番無理だよね……ごめん、ごめん。俺ほら、空気読めないでしょ? だからなんだろうなぁ。いや逆に男女問題でどろどろした『まいん』のやり取りとか見せられても、純粋な俺には無理。また保健室の六花先生に迷惑掛けかねない(笑)」
「ビッチ姉さん…って……」
案外ちゃんと嫌味って言えるもんだ。我ながら感心した。笑顔で言ったつもりだけど、全然笑えてない自信がある。それが証拠にさすがの3人娘も言葉なく乾いた笑いをこぼした。
少しの沈黙。だけど、その沈黙は思いもよらない人物が、思いもよらないテンションで、いい感じにぶち壊した。
「なになになに⁉ 梶君スマホの見せっこしてんの⁉ もう、呼んでよね~~あっ私も混ぜて貰っていい?」
ウルトラハイパーテンションで駆け寄ってきたのは、麻利衣を案内したベリーショートのバレー女子、関さんだった。
「いいよ、どうぞ」
「やった! これ私のね? ちなみに壁紙は弟となんだ~~かわいいでしょ? 4歳なんだ~~おっ! おぉ~~‼ 期待通り‼ 愛莉センパイとツーショット壁紙~~しかも、センパイ私服‼ ヤバい‼ 私服だけに至福のひと時~~なんちゃって! 前から聞きたかったんだけど、梶君て来島先輩とも仲いいよね?」
「来島先輩? あぁ、
「いいなぁ~~なんで天は二物を与えずなのに~~愛莉センパイお姉ちゃんだし、来島先輩、幼馴染でしょ? ズル~~い!」
ちなみに来島先輩。来島
この関さんの異常なテンションは姉の愛莉の需要に寄るものだ。姉はウチの強豪女子バスケ部でキャプテンをしていて、なんていうか女子に大人気。だから、このテンションで来られるのは、実は慣れてた。同じ意味で雪華ちゃんも需要があった。
「ねぇ! ねぇ! 梶君‼ これどうやって撮ったの? めっちゃくっついてるけど?」
「えっと……これは愛……その姉ちゃんが……いや、俺がまずソファーに座って、姉ちゃんが俺の太ももの上に座って撮った」
「えっ! 太もも‼ この太ももだ! 失礼します~~おっ! ヤバい! 梶君つながりで愛莉センパイと~~‼ ここから首に手を回すんだよね~~あっ……」
どうやら関さんは俺を通して、姉ちゃんを感じたかったみたいだ。さながら俺は生きた聖地的な存在。太ももの上に座り写真を再現すべく俺の首に手を回そうとして、周りの視線に気付いた。
「あっ、ごめん、梶君! 愛莉センパイの事となるとつい……ねぇ、梶君。私どっちに謝ったらいいかな?」
「どっちって?」
「ほら、元カノの澤北さんか、今カノの佐々木さんか。ここ重要じゃない? 女子的に!」
「元カノ……!? 佐々木が今カノ⁉」
志穂の小さなつぶやきが耳に残った。何をそんなに驚いているんだ? 他の男に抱かれたこと、俺の耳に入ってないとでも思ったのか?
しかし、俺の目を引いたのは麻利衣のクズっぷりだ。ショックを受ける姉志穂を見て、半笑いを浮かべた。ホント、クズ感が漏れ出てるの気付かないのか? エチケットとして、少しは隠して欲しい。
場の空気は相変わらず凍り付いたままだ。関さんはそれを知らずに踏み入ってきた。この場に居つづけさせるのが、かわいそうに思ったのか琴音が口を開く。
「謝罪先は私一択。関さん、今日のところは許してあげる。以後気を付けて頂戴」
「了解! あっ、そうそう、委員長! 3限目自習だって! 何でかは知らない! ではでは‼」
そう言って颯爽と関さんは、太ももの上から退散した。関さんがいなくなって、また空気が重くなったが、空気読まない系腹黒ぶりっ子は、ここぞとばかり前に出る。落ち込んだ姉の横顔を燃料に、不死鳥のごとく復活したらしい。どうしようもないクズだなぁ……
「お、お兄さん‼ 今カノってどういう意味ですか‼ 私そんなの聞いてない! 説明してください‼」
「聞いてないって、言う義理ないよね(笑)説明かぁ……説明ねぇ……単に、君らより佐々木のが性格可愛いし。高坂~~どう思う、もういい? もうちょっと飽きてきた!」
「おまっ、飽きてきたって……もう少し頑張ろうか? でも、まぁいいんじゃね? 役者も揃ってるし、潮時かもな」
「あのあのあの……かわいいのは性格だけ? いや、ほら、ぱっちりお目目とか、物憂げな眼差しとか……おい、梶! 聞いてる?」
「じゃあさ、澤北妹さん。付いて来て」
「あっ、はい!」
遠くで佐々木が「聞いてな~~い!」と叫び声を上げた。
何も知らない麻利衣は小走りで俺の後を付いてきた。それはもう、子犬が尻尾ふりふりの上機嫌で付いてくるように。残念なのは子犬ほどかわいくないことだ。少しぐらい子犬を見習ってほしい。そして俺は目的地に着いた。
会わせたい人物の前で、麻利衣の背中をポンと押した。
「澤北妹さん、彼が新しいヤリチンのお兄さん。木田、仲よくしてやってくれ。ヤリチンの木田なら、そっち系のお相手もしてくれるかもよ?(笑)」
俺は、志穂を寝取った木田に麻利衣を引き合わせ放置した。この行動にクラスの男子から歓声が上がった。慌てふためくイケメン木田が滑稽でならない。そこにもの凄い勢いで志穂が掛けてきた。ビンタのひとつでもありそうな予感だったが外れた。
「梶君……ごめん。傷つけてごめん。今更なのはわかる、わかるけど少しだけ話したい。最後でいいの」
俺は少し考えた。ここで謝罪を受け入れて、きれいなサヨナラもアリかも知れない。でも、それ俺とか、佐々木、琴音、ミキティーナ、高坂にはなんのメリットもないよね、何よりざまぁを完遂してない。
それに俺の内側にある言葉に出来ない程の嫌悪感を見ないフリは出来ない。この憤りを持ち続けて日常生活をするなんて考えたくない。
「いいけど、俺の話聞いた後で話せるメンタル残ってたら、聞くよ」
そこでチャイムが鳴った。長い自習の始まりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます