第50話 子どもたちの仕事

 翌日。


 昨日までは宿で泊まったけど、今日はうちの屋敷を建ててもらう予定なので、これから王都に来たときはその屋敷で泊まる予定だ。


「セシルさま~!」


 僕を呼ぶ声に振り向くと、アベルくん率いる子どもたちがやってきた。


「アベルくん。みんな。今日も森に行くの?」


「そうです! 実はセシルさまにお願いがありまして……」


「うん? 僕に?」


「あ、あのっ! 今日は一緒に森に行ってもらえませんか!」


 アベルくんだけでなく、みんな目を輝かせてこちらを見ている。


「いい考えね! 今日はセシルと外に行こう~!」「行こう~!」


 リア姉とソフィが声を合わせると、子どもたちがみんな嬉しそうに声を上げた。


 最初から僕たちの優しい目で見守っていたエイラさんが僕の隣にくる。


「セシル様。本日の業務は昨日からそう変わったモノではありません。我々にお任せくださいませ。お屋敷の件も事前に打ち合わせした通りに進ませていただきます」


「エイラさん。うん。わかった! あとは任せるね?」


「はい」


 エイラさんに今日の作業を任せて、僕はリア姉とソフィ、マイルちゃんの三人と一緒に子どもたちと森に向かった。



 王都の入口は東西南にあり、うちの敷地があるのは東区。東に向かって東門から外に出る。


 百人を超える子どもたちの大行進に、道を行く人たちが目を丸くしてこちらに注目していた。もちろん、その注目を一役買ったのは言うまでもなく、うちのスラちゃんたちだと思うけどね。


 門を通るときも、衛兵さんが子どもたちに手を振ってくれる。スラム街に住んでいる人って何かと煙たがられるのに、衛兵さんたちは同じように接してくれる。


 王都に来た時にあった飛竜騎士団の団長さんも怖い顔はしていたけど、心の優しさは伝わってきた。ニーア街でもそうだったけど、騎士さんや衛兵さんはみんな優しいんだね。


 門から伸びた整備された道の端を並んで歩く。


 ひっきりなしに馬車が通っていて、前世のような明確なルールがあるのか左側進行で走っている。なので人が歩くのは道の両端だ。広さは十分あって、馬車が行き来しても轢かれる心配はないが、何事にも例外はあるので少し怖いね。


 王都から少し離れた森の中に入る。


 感じられる気配的に、あまり強い魔物の気配はしないね。うちの村の東の森も浅いところにはスモールボアという非常に弱い魔物がいる。それよりも弱い雰囲気がある。


 中に入ると、すぐに子ども一人に一匹のスラちゃんがペアになる。


「さあ、みんな~! 集合!」


 一人の女の子が手を挙げると、その前にみんな集まった。


 隣にアベルくんが立っていて、何だか……僕とリア姉を見ているかのようだ。


「今日はセシルさまも見に来てくださってるの! だからといってけっして無理はしないで安全第一でね? 各組のリーダーはメンバーの体調もしっかりチェックしてね!」


「「「「は~い!」」」」


「では、採取開始~!」


 彼女の号令に合わせてみんな四人一組となって森の中に散っていった。


「ハンナ。採取を見せてくれる?」


「リアさま。お任せください!」


 ハンナと言われた彼女は、アベルくんを連れて近くの茂みを確認する。


「あった! リアさま~これが薬草です」


 茂みの中にひっそりと生えている一本の草。


 濃い緑色の茂みの中に、淡いエメラルドグリーン色の草は、遠くからだと見づらいけど、近付くと簡単に見分けができる。


「この草は茎部分を切っても数日でまた生えるので、遠慮なく切っても問題ないと教わりました!」


「そうなのね。私も切ってみていい?」


「どうぞ!」


 刃渡り十センチくらいの片刃の短剣を受け取ったリア姉は、嬉しそうな笑みを浮かべて隣にある茂みを覗き込んだ。


 リア姉はお尻のラインが見えてしまうのも気にせずに、ハンナから教わった通りに茎を短剣で切った。


「できた~! セシル! みてみて~」


「リア姉。上手に切れたね」


「えへへ~」


「え~私もやる!」


 頬っぺたを膨らませたソフィがリア姉から短剣を貰い、隣の茂みを覗き込む。


 すぐに両手を伸ばして薬草を切ろうとしたそのとき。


「痛っ!」


 心配になって急いで茂みの中を覗いたら、右手で持っていた短剣で茎を切ったときに、添えていたと思われる左手を少し切ったみたい。


 赤い血液が一滴だけ地面に落とされた。


「ソフィ! 大丈夫?」


「うん。ちょっと切っただけだから。でも薬草はちゃんと切れたよ?」


 切った手はまったく気にせずに、右手で薬草を持ち上げて僕を見上げるソフィ。


 まったく……変なところで負けず嫌いなんだから。


 僕は手を伸ばして、ソフィの頭を優しくなでて笑顔を見せた。


「初めてなのに綺麗に切れてソフィもすごいね~」


「えへへ~」


 ソフィが油断しているときに、左手側に立っていたリア姉が瞬時に回復魔法を唱えて、ソフィの左指の傷を治した。


 大きい傷ではないんだけどね。指に傷があるといろいろと大変だと思うし、リア姉の早業には驚いた。


「セシルさまもやってみますか?」


「う~ん。そうだね。せっかくだからやってみるよ」


 ハンナの了承を得て、ソフィから短剣をもらう。


 隣にある茂みを両手で開いてみると、中に綺麗なエメラルドグリーン色の薬草の姿があった。


 左手で茎部分を握って、手を切らないように短剣で切る。


 ――――【スキル『採収見習い』を獲得しました。】


 ん? 新しいスキルだ。


 そのとき、僕が切った薬草が淡い光を発した。


「セシルさま、すごい~! それはレア薬草で、普通の薬草の中でもたまにしか見つからないものなんです!」


「そうなの? でも切ってから光るんだね?」


「はい。レア薬草は切ってから光ると言われています。ですので、レア薬草を狙って取るのはできないみたいです」


 なるほどな……それにしても、採取って思ったより楽しいというか、せっかく新しいスキルも手に入れたし、これから採取にも力を入れようかな。


 今までやったことがないからかソフィも楽しそうに採取をしていた。


「マイル。貴方も一緒にやりましょう」


「うん!」


 リア姉もマイルちゃんと仲良く採取を楽しんだ。


 こうしてみんなで同じことをしながら時間を共有できて、すごくいいね!




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スキル:

スライムマスター=8748/49999

激励=37628/99999

危機感知=121/99999

威圧耐性=1090/9999

衰弱=1874/9999

採取見習い=98/999


魔力回復=コンプリート

魔力支配=コンプリート

天啓=コンプリート

進化=コンプリート

疾風迅雷=コンプリート

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