第27話 悪だくみ……の始まり

 お父さんの出現でクザラは顔色を変えて建物の中に入っていった。


 それにしても普段着ない王国の紋章が入った鎧を着たお父さん。めちゃめちゃかっこいい!


 今では六つに増えたスクリーン。中央にはお父さんが映っていて、その他五か所には店内を映している。


 そのうちの一つに、慌てて入るクザラの姿があった。


 そして、彼の目が僕と会った。いや、僕ではなくて現地でのスラちゃんだ。


「スライム!? なぜこんなところにもスライムが! なっ! そ、それはああああ!」


「僕は悪いスライムじゃないよ~」


 急いでやってきてスラちゃんを鷲掴みするクザラ。


「は、吐け! その書類を吐けええええ!」


「え~やだよ~?」


 クザラはスラちゃんを全力で叩いてくるが、毎回「ぼよ~ん」と音を立てて腕が跳ね返る。


 スラちゃんの体の中にあるのは、いわゆる――――機密情報だ。悪事が段々広まっていくと記憶するだけでは大変だから、こうして書面で残すようにしているみたい。おかげで証拠になるので大助かりだ。


 部屋の扉が乱暴に開かれると、うちの村の衛兵さんとお父さんが入ってくる。


「クザラ殿。このまま拘束させてもらう」


「ふ、ふざけるな! 俺を誰だと思ってる!」


「裏でいろいろ悪事を企んでいる――――邪道」


 お父さんの冷たい視線がクザラに向く。


 ここでは感じられない何かがあるのか、クザラがその場で尻もちをついて震えあがる。


「今まで多くの民や商人を食い物にしてきた罪。そう軽くないぞ」


「お、俺は……」


「証拠は全て確保している。その書類だけじゃない。お前たちに加担していた盗賊たちからも証言が取れている」


「そんなバカな! あいつらが言うはずが…………」


裁判が楽しみ・・・・・・だな。連れていけ」


「「はっ!」」


 衛兵さんたちが倒れ込むクザラに素早く縄をちょうだいする。


 あまりの手練れさに驚いたけど、衛兵さんたちは村に来る前から衛兵の仕事をしていて慣れているみたい。


 商会内にある全ての証拠はスラちゃんたちが全て確保している。いろんな人たちが証拠隠滅のためにスラちゃんに挑戦するけど、誰一人奪うことができなかった。


 意外というか……スラちゃんが強いのか、ここを守っている人たちが弱いのか。


 城からやってきた兵士さんたちによって、クザラ含む商会の者たちが捕まっていく。


 全ての証拠がスラちゃんたちの体の中にあるから諦めたみたいだ。


「初めまして。ルーク殿」


 お父さんの後ろからおじさんが声をかける。二人が直接会うのは初めてだ。


「初めまして。セシルの父、ルークです」


「マイルから話は聞いていたが……まさか貴方のような方に会えるとは。光栄です」


「いやいや、私なんてまだまだです。それよりいろいろ聞きました。オルタさんは以前――――」


「いやいや、そんな昔話なんて……いまはただのしがない商人で、娘のおかげでなんとかなってる身です」


 いつものちゃらんぽらんなおじさんがかしこまってる……。


「お父さん!? 一体……何者!?」


「セシルちゃん? お父さんはお父さんなのよ?」


 そりゃそうだ。


 お父さんが僕とお母さんの声が聞こえたのか、苦笑いを浮かべてスラちゃんをポンポンと優しく撫でてくれる。


「それにしてもセシルのお父さんがルーク殿だとは。これはいろいろ納得いくものですな」


「いやいや……俺なんかと比べられる子じゃありませんよ」


「ルーク殿でもですか……」


「ええ。もう毎日何をしでかすかわからなくて……」


「え~! 僕をそんなトラブルメーカーみたいに言わないでよ~!」


 お父さんもお母さんもおじさんもお姉ちゃんもお兄ちゃんも妹も、みんな一斉に大笑いした。


 ◆


「オルタ様……これはいったい……?」


「俺に聞くな。セシルって呼びかけたら答えてくれるさ」


「…………なるほど。兵士たちが喋るスライムがいると言っていたのは、彼が原因なんですね」


「僕~悪いスライムじゃないよ~」


「こんな調子だ」


 おじさんの腕がスラちゃんにぽよ~んと跳ね返る。


「セシルくんでいいのかい?」


「は~い!」


「それで、クザラ商会の悪事を示す証拠があると聞いたが、本当かい?」


「は~い~!」


 スラちゃんが集めた証拠をまとめて兵士さんに渡す。


「ふむ。だが、これだけだと裁判で証拠となれるだろうか……?」


「書類だけだとなかなか難しいな。自分たちが作ったものじゃないって言い切ればいいからな」


「そうですね」


「それなら大丈夫だよ~ちゃんと証拠もとってる・・・・から!」


「またなんの悪だくみをしてるんだ!?」


「またじゃないよ? 悪だくみじゃないよ?」


「可愛らしくそれっぽくいうな!」


 またおじさんの腕がスラちゃんに落ちてきてぽよ~んと音を立てる。目の前なら何階げんこつをされたのやら……。


「まあ、悩んでも仕方がない。証拠を持って裁判に向かうか」


「ですね。セシルくん。君は裁判が初めてだったね?」


「そうです~」


「……もしかしたらすこし嫌な思いをするかもしれない」


「お母さんから聞いてます~揉み消される場合もあるって」


「ああ。それにしても声からして子どものようなのに、賢いね?」


「えっへん! お父さんとお母さんの子どもですから!」


「あ、あはは……」


 僕たちはそのまま裁判所に向かう。


 異世界にも裁判所があり、それを仕切るのは『教会』というところだ。


 お母さん曰く、昔はお母さんも教会にいたけど、もう教会からは離れて田舎村に住んでいるみたい。でもいまでも教会に席は置いてるって。


 教会は中立をモットーに全ての国の民のために存在している。のがモットーだけど、やはり腐敗なものがあるっぽい。お母さんは濁して言ってたけど、要はそういうことだよね。


 クザラ商会がいろんな悪事を働いていたのに裁かれていないのがその証拠だ。


 でもいくら裏金的なものを受け取っていても表向きは正義の味方なので、これからの裁判がとても楽しみだ。




 こうして波乱の裁判が始まろうとしていたのだが、まさか、セシルのせい・・で、全世界が揺らぐ事件の始まり・・・になるとは、このときは誰一人想像だにしなかった。

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