第28話 懺悔の……スライム!?

 スクリーンに映る景色が青空から大きな建物に変わる。


 白を基調にしており純白さを強調しているかのような色作り。神殿を思わせるような無駄に太い柱に天使が彫刻されており、より美しさをみせる。


 天井が何十メートルもあるかのような高さから光が差し込んで、世界に神がいると信じてしまうくらいには神秘的な光景だった。


「セシル……綺麗だね……」


「うん……!」


 異世界に生まれていつか外に出ていろんな景色を見たかった。


 たとえば、空に浮かんでいる太陽や月のようなものが前世とは違い、太陽は沈むことはなく、浮かんだまま明るくなったり暗くなるし、直視できない太陽だったが、この世界の太陽は直視できる。綺麗な明るいオレンジ色の月って感じ。夜は赤色と青色の月が二つ浮かぶけど、これは常時浮かんでいて、太陽が夜になると明かりを消すので見えるそうだ。


 と、ほかにもまだ見ぬ世界を見たかった。


 それが今まさに目の前に広がっている。村でも十分すぎるくらい異世界だけど、それをも遥かに超えた壮大な世界がここにあった。


 スラちゃんが元気よく床を滑りながら進んでいくと、太い柱がどんどん通り過ぎ、やがて広いスペースが現れた。


「ここは礼拝堂といって、みんなで女神様に祈りを捧げる場所なのよ」


 お母さんが説明してくれる。僕たちはそれを興味津々に聞く。


 ちなみに、『裁判所』と『教会』は同じ団体である。だから、裁判も教会で行われるが、目的によって呼び名が違うだけ。『教会』は女神様に祈り、祝福を授かる場所。『裁判所』は女神様に是非を問い、裁きを受ける場所。という感じだ。


 礼拝堂の祭壇の近くに白い服に金色の装飾が付いている偉そうな神父のような人たちが複数人いて、中央には少し震えているクザラの姿がいて、さらに兵士たちが周りを囲んでいた。


 スラちゃんの視線がぐいっと高くなる。お父さんに抱きしめられたからだ。


「セシル。スラちゃんを絶対に勝手に動かすなよ。魔物だって一瞬で消滅・・させられかねないからな」


「あいっ!」


 スラちゃんの体をぽよんぽよんと揺らす音が聞こえた。


「集まったようだな。では、裁判を執り行う!」


 中年神父がそう話すと、白髪が目立つ高齢の神父さんが登壇する。


 見た目だけならおじいちゃんなんだけど、それだけじゃない。スクリーン越しでもわかるくらい、おじいちゃんからは強者の雰囲気・・・・・・が伝わってきた。


「彼はうちの王国の南部を司っているアルウィン大司教様よ」


「もしかしてすごい才能を持っている?」


「そうね。教会でも司教以上は全員が聖職者系統の才能を持っているわ。上位才能以上を持っていないと大司教や枢機卿すうききょうにはなれないわね。枢機卿様の中から教皇が選ばれるから、すごい才能を持っているわね」


 才能を持つ人は多い。持つだけなら。でも上位才能となれば、ほんの一握りだ。しかも聖職者系統と限られてしまうとより希少になるはず。


 それだけで嫌な予感がする。


 大司教が祭壇に立ち、その鋭い視線で礼拝堂内を見渡した。


「本日は緊急裁判を執り行う。クザラ商会のオーナーであるクザラ殿に、王国法違反の疑いがあった。王国法を基準に進める!」


「教会はね。各国にあるから、その国の法律を一番遵守してくれるの。それが――――教会ではいけない教えだとしてもね。それが国に属しているという意味だから。そういう意味では教会は公平なのかもしれないわね」


 それから兵士さんによるクザラにかけられた容疑を並べてもらう。おおむね、他の商会を武力で抑え込んで盗賊を使い荷物を奪ったり命を奪ったりしたことだ。


「わ、私は無実です! そんなことはしていません!」


 やっぱり無罪を主張するんだ。


「証拠となる書類でございます」


 兵士さんがいくつかの書類を大司教に渡す。


 受け取った書類を素早く覗き込む。


「クザラ殿。この書類はどういうことでしょう?」


「し、知りません! それも全てアネモネ商会が作った偽物なんです!」


「アネモネ商会?」


「今回告発をしてくれた商会です」


「当人をここに」


 長椅子に座っていたおじさんが立ち上がり、祭壇の前に出ていった。


「アネモネ商会の会頭のオルタと申します」


「其方は……」


「しがない商人でございます。今回の件ですが、私がアデランス町からニーア街にくる間に盗賊に襲われました。全員捕まえて尋問した結果、クザラ商会の差し金ってことがわかりました。それから調べた結果、その証拠が出ております。証人もおります」


「では証人をここに」


 すぐに盗賊団のリーダーが連れてこられる。


「盗賊団のリーダーの男です」


「其方に聞こう。全てを企んだのは誰だ?」


 礼拝堂に厳格な声が響いていく。


 顔が真っ青になった盗賊は、クザラを見つめる。


 クザラも目を真っ赤に染めて、盗賊を睨み返していた。


「お、俺は……………………そ、その男にお金で買われて盗賊を装えと言われました! 病気の娘を助けるために……俺はなんて酷いことをしたんだ……本当に申し訳ございませんでしたああああ!」


 礼拝堂に動揺する傍聴人たちの声が鳴り響く。


 そんな中、目頭を押さえる兵士さんや溜息を吐くオルタさん、そして、拳を握りしめるお父さん。


 これが教会の実態腐敗なんだ。


「リア姉。ソフィ。いくよ」


「うん!」


 スクリーンの前にリア姉が立ち、ソフィと僕と手を繋ぐ。


 僕を通してリア姉とソフィの魔力が繋がる・・・・・・。そして、スラちゃんにも。


「待ちなさい」


 リア姉の綺麗な声が屋根裏部屋からスラちゃんを通って、礼拝堂のお父さんが抱きかかえたスラちゃんから驚くほど大きく鳴り響いた。


 これは僕が考えたスピーカーと同じ要領で、拾った声をより大きくして出すものだ。


「セシル……また君は…………いや、元々こうするつもりだったんだな?」


 お父さんがボソッと呟いた。


 リア姉は続ける。


「その証言には誤りがございます」


「だ、誰だ!」


 慌てる声に応えるかのように、お父さんが立ち上がる。そして――――スラちゃんを空高く掲げた。


「私は悪いスライムじゃないよ~」


 リア姉が僕の口調を真似る。うん。可愛い。この文言、世界的に流行らないかな……?


「喋るスライム……?」


「そこの男の人! 嘘を言ってはいけません。昨日は私の前でちゃんと懺悔しましたよね?」


「ひ、ひい!?」


 盗賊の顔がより青ざめる。


 実はすべての証言はリア姉から聞き出しているのだ。懺悔という名の。


「も、申し訳ありません……大司教様に言われて…………」


 盗賊の言葉に、礼拝堂がものすごく驚く声に満たされていく。


「し、静かに!」


 司会をしていた中年神父が声を上げても収まらない。


 だって、中立を謳う教会が、まさか嘘を・・でっち上げるはずがないからだ。


 全ての視線が盗賊に注がれる中、お父さんは素早く盗賊の下に駆け付ける。


 その速度は目にも止まらぬ速さで、盗賊の前にスラちゃんを下ろした。


「もう一度聞きましょう」


 スラちゃんの体から――――神々しい光が放たれて礼拝堂にいる人々を包み込んだ。


 隣のリア姉は握っている右手はそのままに、左手を胸元に寄せて、悲し気な表情を浮かべて問いかけた。


「本当のことを言ってください。貴方がアネモネ商会を襲った理由はなんですか?」


 あまりにも神々しいスラちゃんに、ガヤガヤしていた礼拝堂は一斉に静まり、さらには神父さんたちもその場に跪き、祈りを捧げ始めるほどだった。


「あ……あぁ……女神様…………お、俺は…………クザラ商会に依頼されて、今まで多くの命を奪ってきました。アネモネ商会も同じく依頼されて命を奪おうとしました…………俺はなんてことを…………」


 両目から溢れる涙を流しながら、盗賊はその場に土下座し、ごめんなさいの言葉を繰り返しながら、自分の罪を全て自白し始めた。

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